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コラム - オピニオン -

チームジャパンで戦わないと負けてしまう

京都大学 再生医科学研究所 教授 山中伸弥 氏

掲載日:2007年12月12日

京都大学 再生医科学研究所 教授 山中伸弥 氏

山中伸弥 氏

 

いまもたくさんの患者さんから電話やメールをいただいている。ただ、まだ臨床には使えないので、1日も早く役立てるよう思いを強くしている。

iPS細胞は皮膚から作る万能細胞で、神経細胞や心筋細胞、肝細胞、膵細胞などいろいろな細胞をつくることができる。これは再生医療だけでなく、薬の副作用の検査に非常に有効だと考えている。

この技術は昨年初めて報告したが、今年になって米国のグループが強力な追い上げを見せている。その一つの例がハーバード大学のハーバード・ステムセル・インスティテュート。ものすごく優秀な25人のメンバーを集め、また地元のマサチューセッツ州が10年間で1,200億円を投資することも決めており、その多くがハーバード大学に行くことになっている。また、それだけでなく、ヒトiPS細胞でわれわれと同じタイミングで論文を発表したウィスコンシン大学のグループ、そのほかにもUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)やUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のカリフォルニア州のチーム、さらにスタンフォード大学、また英国ケンブリッジ大学のチームなど多くの研究グループが追い上げてきている。さらに今は韓国とか台湾、シンガポールなどにも非常に強いチームができている。それに対して日本は、今は私1人が駅伝を走っている状態で、もうすぐばてそうだ。

渡海文部科学相と会談する山中教授

渡海文部科学相と会談する
山中教授

日本でもちゃんと駅伝のチームを作る必要がある。ただ、残念ながら米国と違って、そこまで選手がそろっていないため、一つの大学では難しい。京大や慶應などいろいろな大学の選手を集め、オールジャパンで1チームにしないと米国のさまざまなチームに対抗できない。それぞれ得意技を持ったメンバーが大学の枠を超えてチームを作る必要がある。

細胞を作るための分化誘導には、京都大学再生医科学研究所のほかに京大、慶應大、東大、理化学研究所のメンバーが必要で、安全性確認では自治医大、ベクター開発では自治医大と理研、ハイスループットスクリーニングでは製薬会社の協力が必要になる。もちろん、中核の研究機関は京大に置く必要がある。

駅伝も、脚の速い選手を試合の当日に集めてもだいたい負けてしまうように、いろいろな大学への研究費ばらまきではせっかくの支援が無駄になる。チームとして研究費を使っていくために、合宿所のような集まるところが必要。そういう中核の研究組織を京大の中に作って研究を進めることが望ましい。米国では各大学のチームが本当にすごい組織・施設で研究を進めており、日本にも世界に誇れる建物や設備が必要だ。iPS細胞発祥の地である京都が望ましい。

岸田科学技術政策担当相と会談する山中教授

岸田科学技術政策担当相と
会談する山中教授

研究費に関して言えば、10年間に1,200億円を投じるマサチューセッツ州に加え、カリフォルニア州も10年間に3,000億円という取り組みを始めている。今後はこれらの研究費の多くがiPS細胞に移行すると表明している。この意味からも日本で何チームも作っては対抗できない。1チームでやる必要がある。また、知的財産も各大学の研究進展の壁になっており、知財を一括で管理するようなシステムが必要になる。

建物は、その構造から変えていかなければいけない。今の日本の大学の多くは、一国一城型で、各研究室が分離しており、研究室間の交流がほとんどない。京大再生研には13名の教授がいるが、隣の研究室の教授に会うのは1カ月に1度か2カ月に1度くらい。それでは交流ができない。今、米国などの新しい施設はインタラクティブな環境になっており、研究スペースは常にシェアして、研究員が常に顔を会わせている。教授の部屋もずらっと並んでいて、トイレに行くにも他の教授の前を通らなくては行けないから、日常的に研究者同士の会話が行われている。iPS細胞のための中核組織の建物は、ぜひこういう構造にしたい。

京大でも全面的にバックアップしてくれているが、1大学でできることは限られているため、ぜひ文部科学省も全面的にバックアップしてほしい。この細胞は、患者さんの役に立って初めて役に立つ細胞になるのであって、そうでないとまったく意味がないのだから。

(談=12月7日、渡海文部科学相、岸田科学技術政策担当相との会談での発言から)

 

京都大学 再生医科学研究所 教授 山中伸弥 氏
山中伸弥 氏
(やまなか しんや)

山中伸弥(やまなか しんや)氏のプロフィール
1962年生まれ、87年神戸大学医学部卒業、国立大阪病院臨床研修医、89年大阪市立大学大学院医学研究科入学、93年修了、米国Gladstone Institute postdoctoral fellow 、95年同staff research investigator、96年日本学術振興会特別研究員、大阪市立大学医学部助手、99年奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター助教授、2003年同教授、04年から現職。胚性幹細胞(ES細胞)と異なり、受精卵を用いずにさまざまな組織に分化する可能性を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)をマウスの皮膚細胞から作り出すことに成功(06年8月米科学誌「Cell」に論文発表)、iPS細胞という新たな研究領域の開拓者となる。同じ方法でヒトの皮膚細胞からiPS細胞を作り出すことにも成功し、07年11月20日「Cell」オンライン速報版で発表。

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