インタビュー

「予知に頼らない地震対策目指し」 第2回「確率予測の理解は説明次第」(本藏義守 氏 / 地震調査研究推進本部 地震調査委員会 委員長、東京工業大学 名誉教授)

2015.09.07

本藏義守 氏 / 地震調査研究推進本部 地震調査委員会 委員長、東京工業大学 名誉教授

本藏義守 氏
本藏義守 氏

 東日本の太平洋岸一帯に大被害をもたらした東北地方太平洋沖地震から4年5カ月となる。福島第一原子力発電所の廃炉作業には今後30~40年かかるとされているのをはじめ、被災地の復興には長い時間と膨大な費用が見込まれている。1995年に神戸市をはじめ兵庫、大阪、京都に大きな被害をもたらした兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)を機に発足した地震調査研究推進本部(本部長・文部科学相)は、東北地方太平洋沖地震から何を学んだのだろうか。発足後20年を迎えた同本部の地震調査委員会委員長を務める本藏義守(ほんくら よしもり) 東京工業大学名誉教授に、日本の地震対策の課題と、防災分野の国際協力で果たす日本の役割を聞いた。

―前回、内閣府が南海トラフ巨大地震の津波予測を公表しているというお話がありました。また、東海地震については、気象庁長官から地震予知情報の報告を受けた場合、首相が警戒宣言を発する、ということが、東海地震対策として1978年に作られた「大規模地震対策特別措置法」に明記されています。気象庁長官が地震予知情報を首相に報告する際は、地震研究者6人から成る「地震防災対策強化地域判定会」の検討結果に基づく、ということも決まっています。地震調査研究推進本部との役割の違いが分かりにくいのですが。

判定会というのは、東海地震に関しては密な観測をしていれば前兆が捉えられるという前提で設けられたことは、前にもお話した通りです。阪神・淡路大震災と東日本大震災で予知を前提とする地震対策の不備がはっきりした、ということも。阪神・淡路大震災後に発足した地震調査研究推進本部は、予知を前提とする考え方をとっておりません。毎月1回会議を開き、被害地震が起きたときはすぐ臨時会議を開き、どういう地震で今後の推移はどうかなどを検討し、今後の対策などを念頭に国として一元的に評価する体制となっています。地震学者20人くらいで会議をして、本部が評価結果を発表する形がこの20年で定着しています。

東海地震のようにプレート境界で起きる地震は、プレスリップという前兆となる動きがまず起きた後、どっと地盤がずれるという説があります。ところが 阪神・淡路大震災を起こした兵庫県南部地震でも、東日本大震災をもたらした東北地方太平洋沖地震でも明確なプレスリップは観測されていません。世界的に見ても事後に分かったというケースだけで、実際に地震が起きる前に見つかった例はありません。

予知を前提とするのは、国民を惑わすだけという意見もあります。日本地震学会も予知は難しいと言い切っています。学者の間ではやめた方がよいという意見が強いのですが、とはいえ、東海地域で前兆現象が見つかる可能性が否定されたわけではありません。既に地殻の異常を捉えるための体積ひずみ計をたくさん設置しており、これから多額の費用を投入するわけでもないので、今の観測体制をやめる必要はないだろう、ということです。地震防災対策強化地域判定会は、大規模地震対策特別措置法という法律に基づく組織と機能であり、法律を変えろとまではなっていません。中途半端と言われるとその通りですが。

―毎年、9月1日の防災の日には判定会が招集され、その検討結果に基づいて気象庁長官が首相に報告し、首相が警戒宣言を発するという訓練が行われていましたが。

私が判定会委員だった時もパトカーで自宅から気象庁に召集されるという訓練をしていました。今はやっていないようです。

―確率論的地震動予測に限らないことですが、地震が起きる確率が何%という言い方自体、一般の人には理解困難ということはありませんか。

それは違います。例えば今後30年間に震度6弱の地震が起きる確率は16%と言われた場合、どう受け止めるかです。16%という確率では、天気予報であれば雨傘を持って外出する人は少ないでしょう。しかし、ロシアン・ルーレットであれば、どうでしょうか。6個弾が入るリボルバー式拳銃に1個だけ弾を入れ、自分の頭めがけて引き金を引くゲームです。「やってみるか」と言われて、やる人などいないでしょう。死ぬ確率は同じ16%です。16%どころか3%でも弾が込められている可能性があれば、引き金など引ける人はいないでしょう。

たとえは悪いのですが、こう説明すると、たいていの人は理解してくれます。16%は無論のこと、3%でも十分な危険があるのだ、と。説明の仕方が重要ということです。

―地震調査研究推進本部として力を入れていること、これから力を注ぎたいことは何でしょう。

地震調査研究推進本部は、予知を前提にすることはありませんが、地震後の評価はしています。「特に注意する必要があるのはこういうことです」といった啓発活動をしています。記者相手に詳しく説明するほか、市町村への説明ももちろん重要と考えています。事務方が定期的に市町村の担当者を集めて説明会を開いています。委員会後に文部科学省で行っている記者相手のレクチャー内容を正確に記事にしてもらえているため、市町村の担当の方々もメディアの報道で大体のことは理解してくれているようです。さらにこれからはこちらから積極的に自治体に働きかけをすることも必要かと考えています。

一般の人たちを対象にということでは、昨年、名古屋大学で一般の人たちも参加できるシンポジウムを開きました。そこで、南海トラフの巨大地震対策プロジェクトでどのような研究をしているか、地震動や津波の大きさ予測について、なぜそのようなことが言えるかといったことも説明しています。

ここから先は私個人の思いですが、最先端の研究レベルの成果を地震防災に何とか生かすことできないか、ということです。今、やろうと思えばリアルタイムの観測が可能です。例えばどこかで地殻に変な現象が見え始めた、ということが衛星利用測位システム(GPS)で分かりますし、地震が群発し、その震源域が移動し始めた、といった現象もモニターできます。研究レベルではやっているのですが、もし実際にこうした観測結果が得られた場合、どう対応するかという体制はできていません。検討課題と思います。

(小岩井忠道)

(続く)

本藏義守 氏
本藏義守 氏

本藏義守(ほんくら よしもり) 氏のプロフィール
広島県生まれ。1969年東京大学理学部卒。74年東京大学大学院理学系研究科地球物理学専攻博士課程修了。東京大学地震研究所助手、東京工業大学理学部助教授、教授、理学部長を経て、2004年東京工業大学理事、副学長。11年同名誉教授。12年から地震調査研究推進本部地震調査委員会委員長。専門は固体地球物理学。96年には気象庁地震防災対策強化地域判定会委員を務めた。科学技術振興機構と国際協力機構(JICA)が共同で実施している地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の研究主幹(防災分野)も。

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