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コラム - インタビュー -

成長戦略 次のテーマは国立大学改革

東京大学大学院 工学系研究科 教授 橋本和仁 氏

掲載日:2015年4月22日

日本経済を再生させ、日本を元気にするために“科学技術イノベーション”への期待が大きい。産学官の連携をどう進めるのか、大学は期待にどう応えるのか。安倍政権の成長戦略を検討する産業競争力会議の議員と内閣府総合科学技術・イノベーション会議の議員を兼ねる、橋本和仁(はしもと かずひと)東京大学大学院工学系研究科教授に聞いた。

(聞き手:「産学官連携ジャーナル」誌 登坂和洋)

交付金と競争的資金を一体に考える

- そうした国立大学の資金についてはどう改革をしていくのですか。

 ポイントは運営費交付金と競争的資金を一体に考えて改革をするということだと思います。現在国立大学に入っている運営費交付金は、年間1兆1千億円弱です。一方、科研費や研究開発費などの競争的資金として大学に入っているのがざくっと言って4千億円で、合わせて1兆5千億円です。これを一体的に捉え、配分するのです。

- その時の課題は何ですか。

 お金を増やして改革するというなら比較的簡単でしょうが、現在の財政状況と大学に対する社会の厳しい視線の下ではそれは困難と思われます。そこで大学への投資を増額することに意味があるとの社会的コンセンサスを得ることができるまで、まずは総額一定の境界条件の下で改革する必要があります。これは大変難しいことです。どんなに良い改革をしても、必ず痛みを伴う部分が出てくることを意味していますから。

 少し具体的に問題を考えてみましょう。これまで競争的資金が増えたといっても、そのほとんどは研究者個人へ行っています。研究者は潤うけれども、その研究者が所属する組織が使える資金が増えるわけではない。すなわち研究インフラの整備に使えるわけではないのです。また、競争的資金は3年から5年の時限付きですから、いつも期限に追われながら研究をすることになる。しかも同じテーマでは次の資金を得ることは一般的に困難ですから、次々と研究テーマを変えていかなければならない。さらに、多額の資金を得ることのできる研究者は限られていて、そこに入らない多くの研究者は資金が過度に集中していることへの不満を持つことになる。

 これらを解決するために一つ検討していることがあります。それは競争的資金に付随する間接経費の利用です。これをインフラの整備に充てる。すなわち、大学執行部が一括して運用するのです。研究インフラの中には人件費も含みます。交付金が減額されていく中で、若手研究者の雇用が、競争的資金の直接経費という不安定な資金による雇用に変わってしまった。2年から5年の短期雇用が急激に増えてしまったのです。もし間接経費を大学の執行部がまとめて運用すれば、年度により多少のでこぼこはあるにせよ、ある程度の定常的な額は見込める。それを使って交付金雇用と同じような安定的な若手雇用ポストを作るなどするのです。ある資金が切れて次の資金が取れるまでのつなぎ研究資金として融資するといった使い方も有効でしょう。もちろんそれ以外の研究インフラ整備も当然ですし、あるいは競争的資金が全く取れないような分野への投資も行うべきです。これこそがガバナンス強化でしょう。現在、間接経費は競争的資金の種類によって異なり、30%とか10%、中には認めていないものも多くあります。すべての競争的資金に間接経費を付け、さらに執行部のガバナンス強化経費として使用すべきです。

 しかし、これは簡単ではないのです。総額を変えないで間接経費を増額するということは、直接経費を減らすということを意味します。研究者から、しかも多額の研究費を得ている有力研究者から猛烈な反対の声が出ることが予想されます。研究の遅れをとってよいのか、と。しかし、考えてください。その減った研究費は、インフラ整備に使われるのです。回り回って、必ず研究成果につながるはずです。また競争的資金が取れないような分野を援助することもアカデミアには重要な任務のはずです。ぜひとも理解いただきたいと思っています。

- 競争的資金といってもさまざまなものがあります。

 ここまでは主として文科省資金を念頭において話してきました。これは、まずは文科省の中で最適化をやらないといけないと思うからです。しかし、競争的資金の一部で研究インフラを支えるというのは、文科省資金に限らず、経産省や厚生労働省、内閣府など他の府省の研究資金でも、その研究を国立大学を場として行うのであれば、当然だと思います。また、ここでは国立大学改革の流れで話してきましたから、大学の研究インフラと言ってきましたが、この状況は公的研究機関でも同様のはずです。他の府省にも理解を求めていくことになります。さらに言えば企業との共同研究費や財団の助成金なども同様です。ぜひコンセンサスを得たいと思っています。

 

米国では1980年代に大学改革

- 国立大学改革というのは大きなテーマです。展望は?

 慶応義塾大学の上山隆大教授によれば、1970年代後半のアメリカの大学は今の日本の国立大学と同じような課題を抱えていたそうです。すなわち77年に、当時のハーバード大学学長のデレック・ボック氏がアメリカの大学、研究者の現状について次のように嘆いています。「研究者は多くの研究資金申請に追われている」「極度に詳細なプロジェクト/変更への行政当局からの承認が必要」「研究事務の仕事が研究者の時間の20%以上を奪っている」「ターゲットが狭く明確なプロジェクトしか選別されない」「研究環境の悪化が若い研究者をアカデミックから遠ざけている」──などと。
どうです。今の日本と同じでしょう。

- 日本の大学、研究者を取り巻く環境の課題とされていることと本当にそっくりですね。

 80年代にアメリカは、危機感を持って必死に大学改革をやった。その結果が、世界最高の圧倒的な競争力のある現在の大学になったのですね。ですから、私はそれに今すごく力づけられているのです。

 本当に落ち込んでどうしようもなかったときに、アメリカの大学は危機を乗り越えようと必死に取り組み、血を見る改革を成し遂げているのです。

 日本の国立大学も、今、歴史的な試練を受けているのでしょう。ここを乗り切れるかどうか。今度の改革は試金石じゃないかと思います。

- ありがとうございました。

 

 

(完)
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橋本和仁 氏

橋本和仁(はしもと かずひと) 氏のプロフィール
1955年生まれ。80年東京大学大学院理学系研究科修了。分子科学研究所技官、助手を経て89年東京大学工学部講師、助教授を経て97年東京大学先端科学技術研究センター教授。2004年より現職。理学博士。日本学術会議会員。研究分野は光触媒、微生物電気化学、電極触媒、人工光合成など。04年内閣総理大臣賞、06年恩賜発明賞、12年日本化学会賞などを受賞。著書に「光触媒のしくみ」(共著、日本実業出版社、2000年)、「材料概論」(共著、岩波書店、05年)、「田んぼが電池になる」(ウエッジ、14年)など。

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