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コラム - インタビュー -

成長戦略 次のテーマは国立大学改革

東京大学大学院 工学系研究科 教授 橋本和仁 氏

掲載日:2015年4月22日

日本経済を再生させ、日本を元気にするために“科学技術イノベーション”への期待が大きい。産学官の連携をどう進めるのか、大学は期待にどう応えるのか。安倍政権の成長戦略を検討する産業競争力会議の議員と内閣府総合科学技術・イノベーション会議の議員を兼ねる、橋本和仁(はしもと かずひと)東京大学大学院工学系研究科教授に聞いた。

(聞き手:「産学官連携ジャーナル」誌 登坂和洋)

クロスアポイントメント制度を創設

- 具体的にはどうするのですか。

 橋渡し機能強化に向け、さまざまな制度や仕組みを導入しました。その一つは、優れた研究者が大学と公的研究機関の両方に身分を持つクロスアポイントメント制度の創設です。例えば、大学の教授が公的研究機関の研究者を兼ねます。従来も、併任という形はあったのですが、今回のクロスアポイントメント制度では両機関と契約し、両方にオブリゲーション(義務)を持ちます。兼務の比率は5対5でもいいし1対9でも9対1でもいいのですけど、その比率に応じてそれぞれに義務が生じ、またお給料をもらうことになります。

 期待しているのは次のようなことです。大学の教授が公的研究機関の研究者を兼ね、研究機関にも研究室を設けます。そして、その大学の研究室に所属する大学院生は、講義は大学で受けますが、研究はできる限り公的研究機関の研究室の方で行ってもらうのです。そこに産業界からの研究者が参画すれば、企業と大学と公的研究機関の研究者が同じところで研究を行うことになる。そうすると、そこで育った大学院生が企業に就職する機会が増えるだろうし、逆に産業界から来ている人たちがそこで行った研究で学位を取るという道も容易となる。このように人の流れと知識の流れ、さらにお金の流れまで誘導しようという狙いです。もちろん逆に公的研究機関の研究者が大学の教員を兼ねるということも想定しています。その場合、当然その研究者の大学での研究室にも同じように大学院生が配属されなければなりません。

 このようなクロスアポイントメント制度を4月から国の制度として導入します。

- 東大は2013年4月からクロスアポイントメント制度を導入して、独立行政法人、他の国立大学、私立大学、海外の大学等の間で実績があります。

 確かにこれまでもクロスアポイントメント制度はありました。しかし、これはどちらか一方の組織とのみ雇用契約がなされており、他方は兼務、すなわちお客さんなのですね。しかし、新たな制度では両方と雇用契約を結ぶこととなります。しかも大学と公的研究機関の間だけではなくて、企業、海外の組織などとも契約できるようになるのです。

 大学の教授が5対5で企業の研究者を兼ねると、半分は民間の人になりますから、大学と企業の間が随分近くなりますね。大学の方からいうと、支払う給料が半分になるので、残りの半分を、若い研究者を雇用するなどの研究インフラの整備に使えることになります。
この制度をどのように使うのか、いろいろ知恵を絞っていただきたい。うまく使ってぜひ産学官連携を進化させてもらいたい。大学もドラスチックに変われると思います。

 

イノベーションの視点からの改革

- 成長戦略の今後のテーマは何ですか。

 今年の成長戦略は6月ごろに出ると思いますが、それに向けて現在、検討を進めています。今回の最大のテーマはイノベーションの視点からの国立大学改革です。産業界での研究開発は極めて目先の投資にならざるを得ない。産業界の研究開発投資は、90%以上が3年から5年先の製品につながるようなテーマが対象という調査報告があります。

それに対して、イノベーションを創出するためには10年、20年先、あるいは50年先を見る必要があります。それぐらい先のための仕込みというのが重要なのです。それは公的資金に支えられたアカデミア、特に国立大学に期待するところが非常に大きいわけですね。貴重な税金を使うわけですから、イノベーションの芽が少しでも効率的に出てくるように、大学を変えていきましょう、というのが現在検討されている国立大学改革の視点です。

- 大学にはいろいろな役割があります。

 当然のことながら、イノベーションの芽を出すことだけが大学の役割ではありません。それはさまざまある大学の役割の一つにすぎません。最も重要なのは人材育成でしょう。もちろんイノベーション人材だけでなく、いろんなタイプの人材です。また、文化の継承や人々の知的好奇心に応えるなどさまざまな形で社会に貢献することも期待されています。このように大学は極めて多様な役割を持っています。しかし、それを理解した上で、あえてイノベーションの一翼を担うということも重要な役割の一つと申し上げたいのです。経済再生に国を挙げて取り組んでいるときに、その要請に応えていくことは主として税金によって運営されている国立大学にとって当然だと思います。またそれは国立大学の多様な存在意義を一般に広く知らしめることにも役立つのではないでしょうか。

 

産、学、官ともに大学の現状に不満

- 大学改革の焦点は何ですか。

 今、大学はいろいろな問題を抱えています。大学の外から、特に産業界からよく聞く不満は「グローバル化への乗り遅れ」「ガラパゴス化」でしょうか。今、世界の大学は大きく変革し、国際的に激しい人材獲得競争、研究開発競争が行われています。日本の大学はその流れから取り残されているのではないか、と。また、大学で行われている研究や教育と産業界の興味とのずれもよく指摘されます。

 一方、大学人、特に執行部からは何よりも今問題なのは財政面である、との声が強く聞こえます。運営費交付金がどんどん減らされ、その対応だけで手いっぱい、という悲鳴です。確かに国立大学法人化後、この10年間で約10%、総額1,300億円ぐらいが削減されました。これは東大と京都大学が受け取る運営費交付金の合計額にほぼ相当します。両大学は運営費交付金の多い上位2大学ですが、金額の少ない方から数えると三十何大学だか四十何大学の合計に相当するそうです。しかも大学に交付される運営費交付金は、東大でもその90%近くが人件費に使われ、地方大学ではその割合が120%にまで達しているところがあるそうです。これではとても改革になど手を出せないと、大学執行部は途方に暮れています。大学をこれだけ痛めつけておきながら、イノベーションのために変われと言ったって不可能だ、というわけです。国立大学協会も日本学術会議もまず基盤的経費、すなわち運営費交付金を増やすことが先だと主張しています。

 一方、国の立場でいうと、運営費交付金は確かに減額させてきたが、一方で競争的資金は増額させたではないか、ということになります。確かに国立大学に入ってきた国費総額という観点で見ると、確かにここ10年間、少しずつですが増えているのです。国の財政がこれほど厳しい中、国立大学関係経費は社会保障関連費と同じように特別扱いされてきたといえるでしょう。国の政策全体を議論するような会議に出ていると、これだけ国立大学は特別扱いしてきたのに、ただ運営費交付金を増やしてほしいとは、何を言っているんだ、自分たちは身を切る努力をしてきたのか、というような雰囲気があります。

- 産学官それぞれに言い分があるわけですね。

 国の政策を担っている人たちも、産業界の人も、そして大学人自身も、みんな現状に不満を持っているのです。これは極めて不幸なことです。大変な状況だなというのが、私の現状認識です。ですから、今、国立大学改革は必須なのです。

 

 

 

(続く)
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橋本和仁 氏

橋本和仁(はしもと かずひと) 氏のプロフィール
1955年生まれ。80年東京大学大学院理学系研究科修了。分子科学研究所技官、助手を経て89年東京大学工学部講師、助教授を経て97年東京大学先端科学技術研究センター教授。2004年より現職。理学博士。日本学術会議会員。研究分野は光触媒、微生物電気化学、電極触媒、人工光合成など。04年内閣総理大臣賞、06年恩賜発明賞、12年日本化学会賞などを受賞。著書に「光触媒のしくみ」(共著、日本実業出版社、2000年)、「材料概論」(共著、岩波書店、05年)、「田んぼが電池になる」(ウエッジ、14年)など。

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