インタビュー

第2回「驚き・好奇心生むきっかけを」(川端達夫 氏 / 文部科学相)

2009.10.22

川端達夫 氏 / 文部科学相

「人材育成は社会全体で」

川端達夫 氏
川端達夫 氏

鳩山内閣が発足して約1カ月が経過した。その間、「官僚主導から政治家主導へ」、また「コンクリートから人へ」という基本姿勢の下、今年度補正予算や来年度予算概算要求の見直しなどが、急ピッチで進められている。川端文部科学相に新政権における文部科学行政の考え方などについて尋ねた。

―理系離れが進んでいることについてはいかがですか。

一つは、先ほど申し上げたように海や山で魚をつかんだりしたことがないとか、子どもに鶏の絵を描かせたら足を4本書いたといったことが問題だと思うのです。あまりにもそういう機会に接することが減っているということでしょう。理科というのは自然科学ですから、不思議だなとか、面白いなあとか、ビックリしたなとか、そして、どうしてなのかといった驚きと感動、そして好奇心が、子ども時代からいろいろなものに接することで生まれてくると思うのです。そのような興味を持って理科系に行くということではないでしょうか。理科離れ対策というのは、そういう機会を可能な限り増やすということに尽きるのではないかと思います。

その時に、小学校の先生全員が、子どもに理科的なものや好奇心をいっぱい持たせるような教育をできるかというと、そうでない先生もたくさんおられると思います。小学校の先生になろうと志した人がまず分類されるのは文系です。教員コースが文系で、高校の選択科目、大学の受験科目、大学の選択科目を含め、教員免許に至るまで理系にあまり興味を持たないまま先生になる人もいるでしょう。これは興味の問題ですから、それを補完しなければならないと思います。例えば、大学や高校などで理科や数学にかかわっている人や現に社会人として研究開発に携わっている人にも、小学生の教育にかかわってもらうことを考えなければならないと思っています。

この間、宇宙飛行士の若田光一さんが宇宙から子どもたちに向けていろいろな実験をされましたが、あれをきっかけに「すごいなぁ」と思った子どももいっぱいいたと思うんですね。ところが、実は身近な町工場の人でも、「こんなもん作っとんねん」という話をすれば、「すごい!」と子どもたちを感動させることがいっぱいあると思うんです。そういうことを組み入れながら、自然科学の不思議さ、面白さ、楽しさ、素晴らしさを小さい子どもに分かってもらう教育をしないと、と考えています。子どもたちが勝手に理科好きになるだろうなどとあてにせず。

私はたまたま実家が薬局で、昭和20年代に薬の景品でゴム風船があったんです。ゴム風船だけでも貴重なおもちゃだったんですが、父親がフラスコに亜鉛と硫酸を入れて水素ガスを発生させ、それを風船に入れてくれたんです。小学生のころでしたが、その浮く風船を宝物みたいにして近所で遊んだんです。鉛色をしたご飯粒のようなものに液を入れたらガスが出て、風船に入れたら浮いたというのは、衝撃的なことでした。たぶん私が大学で化学を専攻したルーツだと思うんです。

そういう機会を多く設けることが大事なことではないでしょうか。非常に興味を持つ子もそうでない子もいますが、きっかけがちょっと少なすぎるのではないかと思っています。

―子どもの貧困問題についてうかがいます。高校無償化だけでは、修学旅行などいろいろな費用が足りないといったことも言われていますが。

多々益々弁ず、で多ければ多いほどよいということですから。私たちが高校無償化というのは、貧困対策という意味も当然あるのですが、高校までの教育は基本的に授業料という意味では費用がかからないものだという理念でやろうとしています。国際人権条約を含めて、それが世界の基本的な考え方です。経済的に厳しいから高校に行けない人にだけ手当をして払える人はいいじゃないか、という議論が必ず出てきますが、高校というものは基本的に授業料をとらないものだ、ということでやっています。

もう一つ、今まで学費の中で一番かかるものとして授業料があったわけですから、県市町村単位で授業料の減免といったことをやってきました。高校無償化になればこれが必要なくなります。しかし、地方の財政が逼迫(ひっぱく)している折、やめてしまおうということではなく、本当に困っている人に振り向けていただけるとありがたいと思っています。例えば部活動で県のトップレベルに行きそうなのに経済的理由でやめざるを得ない生徒を助けてあげる、などということにです。

結果として困窮者に対する応援になることも間違いないけれども、一番大きな理念は高校は無償で行けるものだということです。いわゆる生活困窮、修学困難に対する施策にも資するとともに、その切り口でもまたいろいろ考えないといけないことであり、財源、地方とのかね合いもあります。

―日本の場合、私費負担割合が多いという実態がありますが、高校無償化ということは、それをみんなが負担するという考え方に変わるということですか。

財源論とリンクしたものではないと思っていますが、民主党の理念としては子育てを含めて、人材育成というのは、社会全体で支えるというのが基本理念です。生まれてから中学卒業までは子供手当で、高校も無償化して社会全体で支えますというところまで延ばしたということです。大学まで行きたいという人に関しては、社会全体で支えるという意味では大事な人であることは間違いないけれども、その費用は本人のスキルアップということとセットですから、できるだけ奨学金制度を拡充する。自らの未来への投資、自分が自分に投資をして果実で返していくということで、奨学金が一番なじむのではないかという理念のもとに制度設計しています。世界全体の流れを見てもそうですね。

いまのように親の所得によって、大学進学率が完全にリニアになるというのは子どもにとってはハンデが大きすぎると思います。

(科学新聞 中村 直樹)

(続く)

川端達夫 氏
(かわばた たつお)
川端達夫 氏
(かわばた たつお)

川端達夫 (かわばた たつお)氏のプロフィール
1945年近江八幡市生まれ。滋賀県立彦根東高校、京都大学工学部卒、京都大学大学院を修了、東レに入社、研究開発業務に従事する。86年衆議院議員初当選以来7期連続当選。衆議院災害対策特別委員会委員長、安全保障委員会委員長、議院運営委員会理事、民主党国会対策委員長、幹事長、常任幹事会議長、党副代表などを歴任。2009年9月鳩山内閣発足とともに現職。

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