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コラム - インタビュー -

第4回「若い人が研究の主力に」

オランウータンと熱帯雨林の会 理事長 鈴木 晃 氏

掲載日:2009年8月25日

「オランウータンの生きる森」

来年10月、名古屋で開催される「生物多様性条約第10回締約国会議」(COP10)に向けて、国内でも生物多様性を維持することの重要性に関心が高まりつつある。一方で生物多様性の維持に大きな役割を果たしている熱帯林の減少はとまらない。インドネシアのボルネオ島で26年間オランウータンの生息調査を続けている鈴木 晃・オランウータンと熱帯雨林の会理事長にオランウータンと熱帯雨林との関係、生物多様性維持の意義について話を聞いた。

鈴木 晃 氏

鈴木 晃 氏

 

オランウータンは全部で何頭くらいいるのか、ということが関心の的になっています。ボルネオ、スマトラ両島合わせて65,000頭ほどいる、というのが国際会議の結論になっています。しかし、その推定は信頼できるものではありません。Betung Kerihun国立公園というのがあります。「オランウータンが4,000頭いるから」とのかけ声でマレーシアと協定してつくった国立公園です。ここには今でも4,000頭いることになっています。しかし、実際には生息数はゼロなんです。

ブキットラヤ国立公園も160頭いることになっていますが、高い山ですからオランウータンはあまりいません。タンジュン・プティン、グヌンパルンといった国立公園にもオランウータンがいることになっています。前に述べたカナダ人の女性研究者、ガルデガスが6,000頭いる、と言ったので、6,000頭いることになってしまっています。こうした話が積み重なって65,000頭という数字になっているのです。私は実際には1万頭前後ではないかと見ています。クタイ国立公園にも600頭しかいないと言っています。

裏付けのない数が一人歩きすることで、困ったことが起きています。どこそこの森に何百頭、何千頭いるからこっちはゼロでもいいだろう、とどんどんオランウータンの生息地は少なくなってしまっているからです。ボルネオ島のマレーシア領サバ州には日本航空の直行便が飛んでいます。日本人観光客がたくさん来ます。「ボルネオのオランウータンを保護する」と活動している人たちもいます。今活動している人たちは、マレーシア領ボルネオ島には15,000頭いる、と言っていますが、ここはWWF(世界自然保護基金)から派遣されたペイメさんという英国人が15年ほど調査しているところです。彼は3,000頭と見ているのです。減っているはずのオランウータンの生息数が、新たに調査を始めた人たちによって急に増えてしまうという奇妙なことが起きています。

北海道大学の人たちが中央カリマンタンの低地、泥炭林を研究しています。元々低地だったところで氷河期に海水が引いたところに森ができたのです。温暖期に再び水没する。そんな森が発達しており、北大の人たちはボルネオの泥炭のことを詳しく報告しています。

ただし、ボルネオ島全体の自然の成り立ちとなると、きちんと解説したものはまだないと言っていいでしょう。かつて植民地時代に博物学者たちがあちこち歩き回って生物層などが分かってきたわけですが、今はそういうことをやる人もいませんし、やれる状況でもなくなっています。ボルネオ島だけを見てもオランウータンの数がイカサマであるように、保護活動をどのように管理していくか、となると何もきちんと詰めた話はない島になっているのです。ボルネオの自然はほとんど開発されるままになっているというのが実態です。

ですから、こうした事態を防ぐためにもやはり私はまだ現地で頑張っていかなければと思っているわけです。「オランウータンと熱帯雨林の会」が、若い人たちを集め、その人たちが研究活動の主力になり、熱帯林の動向を研究していく組織に育っていくことを期待しています。

(完)
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鈴木 晃 氏
鈴木 晃 氏
(すずき あきら)

鈴木 晃 (すずき あきら)氏のプロフィール
千葉県生まれ。京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。京都大学霊長類研究所助手を経て、1983年からインドネシア・カリマンタン(ボルネオ)島のクタイ国立公園で野生のオランウータンの研究を続ける。長年にわたる研究活動の実績が認められ、93年には研究活動の拠点「キャンプ・カカップ」が現地に建設された。同年、「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」を両国の研究者らによって組織し、日本側代表に。引き続き現地住民らとも協力して森林保護活動や日本国内での啓発普及活動に取り組んでいる。2008年2月「オランウータンと熱帯雨林の会」設立、理事長に。著書に「夕陽を見つめるチンパンジー」(丸善ライブラリー)「オランウータンの不思議社会」(岩波ジュニア新書)など。

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