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コラム - インタビュー -

第1回「『日本の展望』提示へ」

日本学術会議 会長 金澤一郎 氏

掲載日:2009年1月1日

「社会の期待にこたえるアカデミーに」

持続可能な社会、持続可能な地球をつくるために、知を再構築し幅広く活用することが強く求められている。科学者の役割が一段と高まっている時代と言える。「社会のための科学」を明確に打ち出した「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」(ブダペスト宣言)が、世界科学会議で採択されて今年はちょうど10年目にあたる。日本の科学者を内外に代表する機関である日本学術会議は、アカデミーに対する国民の期待にどのようにこたえようとしているのか。金澤一郎・日本学術会議会長に聞いた。

- 会長自ら委員長となって既に作業を始めておられる「日本の展望」を日本学術会議がまとめ、世に問う目的を伺います。

金澤一郎 氏

金澤一郎 氏

会長になったとき(2006年10月)以来、総合科学技術会議と日本学術会議との違いは何かということを考え続けていました。その結果、非常に大きな違いは、長期展望に対する距離ではないかと思い当たったのです。総合科学技術会議は、目の前に解決しなければならない問題がたくさんあるので、長期展望を示すのは優先事項になり得ないのではないか。しかし、学術会議は会員の任期が最大6年ということはあるにしても、基本的に継続性があります。であれば、長期展望に関しては、われわれ学術会議が担うべき最も大事な仕事ではないか、と考えたわけです。

ポイントは、学術の観点から今の社会をどう見るか、学術の観点から見て今後の学術をどう見るか、学術の観点から見て大学はどうあるべきか、を検討するのがポイントです。「学術の観点から」がキーワードと言えます。総合科学技術会議には、この結果を咀嚼(そしゃく)、消化して、政治・行政的な観点から見てどうすべきかを考えてもらうことになるでしょう。この形がよいのではないか、と考えています。

総合科学技術会議との関係を抜きにしても、学術会議が長期展望を示す理由もいくつかあります。人文社会科学系の知識で考えなければならないことは世の中にたくさんあります。例えば、公の利益と個の利益をどう折り合い付けるか、学術的観点からぎりぎりまで考えるべきではないかと思っています。こうしたことは総合科学技術会議の責任範囲外ですね。

一方、総合科学技術会議と関係があることでも、例えば宇宙開発があります。宇宙基本法ができましたが、一体どこまでやるかという問題があります。大型加速器を使う素粒子研究も、あるところまで進むと必ず次のステップが出てきます。学問的にどこまでやるのか、という問題はなかなか難しいと思います。今の状況は、やりたいという思いを持つ人が政治家に話を持っていく。それが文部科学省や経済産業省に下りてきて、ということが行われています。問題は、やりたいという人が声を出すのに対し、それはいくら何でもやりすぎではないかという声は出てきません。そういう場がないからです。しかし、学術的に得られるものがほんのわずかなら、やる意義はないのでは、と学問的には言い得る場合もあるはずです。

こうした議論を学術会議の中でやるべきです。われわれの結論を政策にそのまま反映してほしいという意味ではありません。それらの問題は国家的な問題ですから、最終的には総合科学技術会議に取り仕切ってもらうことが必要です。「日本の展望」には、大型の研究プロジェクトに関する評価をきちんとする役割をぜひ入れたいと考えています。

実は、「日本の展望」をまとめ、世に問うことは私が初めてではありません。吉川弘之会長(17-18期、1997-2003年)時代に「日本の計画」(2002年)をつくっています。高尚な議論がなされ、文理融合の新しい学問体系など画期的な提案も盛り込まれています。「日本の計画」の英語名は「Japan Perspective」でしたから、これをいただき「日本の展望」としました(笑い)。

ただ、吉川先生自身が序文で書いておられるように「日本の計画」は中間報告で、内容は画期的ですが、言いっぱなしと言っても良い面があります。「日本の展望」の検討作業では、「よい提案をしたらそれを実現する方法への道筋を付けよう」が、合言葉です。

(続く)
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金澤 一郎
金澤一郎 氏

金澤 一郎 氏のプロフィール
1967年東京大学医学部卒業、74年英国ケンブリッジ大学客員研究員、76年筑波大学臨床医学系講師、79年同助教授、90年教授、91年東京大学医学部教授、97年東京大学医学部附属病院長、2002年東京大学退官、国立精神・神経センター神経研究所長、03年国立精神・神経センター総長、06年から現職(08年10月再任)。総合科学技術会議議員。02年から宮内庁皇室医務主管。07年から国際医療福祉大学大学院副大学院長も。専門は大脳基底核・小脳疾患の臨床、神経疾患の遺伝子解析など。

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