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コラム - インタビュー -

第4回「目標は個人向けのリスク情報提供」

防災科学技術研究所理事長 地震学者 岡田義光 氏

掲載日:2007年10月22日

「役に立つ地震学目指して」

大きな地震を発生とほぼ同時にキャッチし、被害軽減に役立てることを狙った緊急地震速報が1日、スタートした。昨年8月1日から交通機関など一部利用者に限って提供していたサービスを一般にも広げたもので、NHKはテレビ・ラジオとも即日、民放ラジオ各局は来年4月から放送開始を決めるなど、今後の地震対策の中で重要な役割を果たす期待が高まっている。国際的に知られる地殻変動計算式「オカダモデル」を提唱した地震学者で、気象庁とともに緊急地震速報システムをつくりあげた防災科学技術研究所の理事長でもある岡田義光氏に、地震学の現状と可能性について尋ねた。

- 「オカダモデル」で今や世界に名が通っている地殻変動計算式を生み出した経緯をお聞かせください。

岡田義光 氏

岡田義光 氏

 

きっかけは、たまたまみたいなものです。学生だった1960年代というのは、地球科学の革命といわれる時代で活気がありました。プレート理論が台頭し、地震発生が食い違いモデルで理論的に説明できるようになりました。大学を卒業して、10年間山梨県にある東京大学地震研究所の地殻変動観測所にいたのですが、国立防災科学技術センター(当時、現・防災科学技術研究所)にいた先輩の誘いで、移ったのです。関東・東海地方に密度の高い地震観測網を作り地下の構造を調べる大きなプロジェクトが始まった時期でした。

3~4年かかってそれが一段落したとき、上司に外国に行ってきたらどうか、と言われました。しかし、35歳を超えていたので、1年間の長期在外研究は認められません。最長6カ月の中期在外研究に応募したのですが、財政事情が影響してか、結局3カ月間でがまんせよ、ということになりました。

米国のコロンビア大学ラモント研究所というところに行かせてもらったのですが、なにせ期間が短い。2カ月くらいでできそうな研究テーマはないだろうか、と図書館で文献を調べたところ、地震による地殻の変形を計算する式に、すべてを網羅したものがどこを探してもないことに気づいたのです。それで、表面の変形を計算する式の算出に没頭しました。4年後、今度は米国の地質調査所で研究する機会ができました。こちらも4カ月という中途半端な期間だったのですが、ここで地中の変形がどうなるかを研究し、帰国してから計算式を完成しました。これまでの不足分を補って完璧(ぺき)な体系を作ろうと思っただけで、応用のことは意識していませんでした。

1986年の伊豆大島噴火の際、島で観測された地表の上下変動パターンを国土地理院の人がこの式で見事に説明しました。また、御神火茶屋に設置された傾斜計が噴火直前にとらえた地表の傾きの変化も、この式でうまく説明できました。その3年後には伊豆半島沖で群発地震が発生、海底噴火が起きましたが、この時の地殻の変化もこのモデルとうまくあっていることが確認できたのです。

- 地震予知の可能性について、あらためて伺いたいのですが、短期予測の可能性は当分、期待できないのでしょうか。

小原一成氏
プレートもぐり込み部のゆっくりすべり現象を発見した小原一成・地震観測データセンター長

地震観測網が全国に張り巡らされた結果、その観測データの解析から実は重要な発見がもたらされています。小原一成・地震観測データセンター長の研究成果ですが、西日本の地下、深さ30キロ付近で、低周波の震動、もぞもぞと長時間揺れる現象が見つかりました。普通ならノイズと間違うようなかすかな揺れです。四国から紀伊半島、東海地方の西付近にかけて観測されたのですが、ここはよく知られているように、過去何度も巨大地震を起こしてきたプレートのもぐり込み帯に当たっています。繰り返し巨大地震が起こるところの地下深くで、これまでだれも気づかなかった現象があることが分かったわけです。世界で初めての観測結果なので、大きな関心を呼び、似たような現象が北米大陸西海岸のカスケード地方などあちこちで見つかったという報告が相次ぎました。

巨大地震の直前になると、プレートのもぐり込み個所でまずズルズルとした動きが起こり、それがだんだん加速して地震に至る、ということが地震発生のシミュレーションから予測されています。つまり、四国から紀伊半島、東海地方の西付近で観測されている低周波震動を監視し続けることで、地震の前のすべり現象、プレスリップがつかまえられるのではということが期待されるわけです。

しかし、問題は、これまでそのような地震直前のプレスリップ現象は世界のどの地震でも確認されていないことです。新潟県中越沖地震を初め、最近わが国の内陸で起きた地震の場合でも、近くにあった観測点では、直前に何の異常も観測されませんでした。残念ながら、短期予測の可能性を確信できるレベルには、まだ到底達していないというのが現状です。

- 最後に防災科学技術研究所が次のターゲットをどのようなところに置いているかをうかがいます。

地震学会の研究発表をみると、3分の1から4分の1は、われわれの研究所の観測データが使われています。さらに改良を加え、精度のよいデータを出していきたいですね。研究所自身でもプレート境界や内陸の地震についてさまざまな成果を出していますが、今後もデータを見続けて地震発生の問題解明に当たり、究極的には地震予知というものに迫りたいと考えています。

それから、本義である防災については、ユーザの視点から広くとらえなければと考えています。ハザードマップ(災害予測図)というものはありますが、一般の人の最大関心事は、地震に限らず災害のリスクが各個人にどれだけあるかということであり、そのようなリスク情報を国民1人1人に届けるシステムが求められています。たとえば、パソコンに自分の住所を入力してもらい、さらに、住宅の構造などこちらの問いに対する答えを選択してもらうと、「あなたのリスクはこれこれです」と地震や水害などに遭う危険度をたちどころに提示できるようなシステムです。現在、1キロメッシュになっている地盤分類図を250㍍メッシュにする作業が進んでいますので、これをベースにすれば可能だと思っています。

このようなシステムができれば、一般の人の防災に対する関心も大いに高まることが期待できます。防災科学技術研究所には、地震、火山、水害、地すべり、雪害など、あらゆる分野の災害研究者が集結しています。このメリットを活かして、上述のような社会に還元できる仕事の遂行をひとつの大きな目標にしていきたいと考えています。

プレート境界の巨大地震発生域とゆっくりすべり区域

深部低周波微動(ゆっくりすべり)の観測域、巨大地震震源域に沿ってベルト状に延びている

(完)
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岡田義光 氏
岡田義光 氏
(おかだ よしみつ)

岡田義光(おかだ よしみつ)氏のプロフィール
1945年東京生まれ、67年東京大学理学部地球物理学科卒、69年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、70年東京大学地震研究所助手、80年理学博士号取得、国立防災科学技術センター第2研究部地殻力学研究室長、93年防災科学技術研究所地震予知研究センター長、96年同地震調査研究センター長、2001年同企画部長、06年から現職。06年から地震調査研究推進本部地震調査委員会委員長代理も。専門は地球物理学(とくに地震学および地殻変動論)。

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