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コラム - インタビュー -

第3回「不確かさを社会に伝える努力も」

防災科学技術研究所理事長 地震学者 岡田義光 氏

掲載日:2007年10月15日

「役に立つ地震学目指して」

大きな地震を発生とほぼ同時にキャッチし、被害軽減に役立てることを狙った緊急地震速報が1日、スタートした。昨年8月1日から交通機関など一部利用者に限って提供していたサービスを一般にも広げたもので、NHKはテレビ・ラジオとも即日、民放ラジオ各局は来年4月から放送開始を決めるなど、今後の地震対策の中で重要な役割を果たす期待が高まっている。国際的に知られる地殻変動計算式「オカダモデル」を提唱した地震学者で、気象庁とともに緊急地震速報システムをつくりあげた防災科学技術研究所の理事長でもある岡田義光氏に、地震学の現状と可能性について尋ねた。

- 中越沖地震は、柏崎刈羽原子力発電所に想定をはるかに上回る震動を与えましたが。

岡田義光 氏

岡田義光 氏

 

阪神大震災まで活断層の調査というのは、有名な断層について調べる程度で、組織的にはきちんと行われていませんでした。その後10年間かけて調べたというものの、分かり尽くしたとは言えません。さらにその活断層が、どの程度の間隔で地震を起こすかについては、5,000年プラスマイナス1,500年といったものであって、人生の時間に比べると許しがたいような誤差を持っているのです。どんな統計学的な理論を使ったところで、われわれの時間感覚にマッチするような精度は期待できないのです。名の知れた100程度の活断層帯ですらそうですから、まして地下に埋もれているような活断層はお手上げです。

それでも地上の活断層は曲がりなりにも一生懸命調べ上げたと言えますが、はっきりいって海底や沿岸部の調査は、これまで細々とやっては来ているものの手つかずといってよいでしょう。地質学者というのは、地上を歩き回って調べるのは得意ですが、海になると調査の仕方が違いすぎるのです。組織的な沿岸部の調査はこれから取り組まねばならない大きな問題です。ただ、いずれにせよ、中越沖地震程度の地震は日本のどこにでも起こり得ると覚悟しておかなければなりません。

- 柏崎刈羽原子力発電所に限らず日本の原発は、皆、沿岸部につくられているから、周辺の半分は活断層のデータがないということになりますか。

柏崎刈羽原子力発電所の場合も当然事前調査はしたわけですが、ああいう大きな地震を起こすような断層だとは分からなかったということです。反省しなければなりません。原発の場合、いくら調べてもわからない地震があるということを担保するため、サイトの直下でマグニチュード(M)6.5の地震が起きた場合を想定して、耐震設計をしています。M6.5を超えるような地震であれば断層が地表に現れており、事前に評価できるはずだから、それ以上は考慮しなくてもよい、という考えに基づいています。

しかし、今回の中越沖地震はM6.8でしたし、玄海原子力発電所に近いところで起きた福岡県西方沖地震はM7.0でした。直下のM6.5を考慮しておけば十分であるという考えは、間違いだったということです。昨年9月に改訂された原子力発電所の耐震指針では、これに替えて、サイトに入力される地震動の速度応答スペクトルを規定するという方式に改められています。

- 活断層の調査というのはそれほど難しい。従って、太平洋岸のプレートもぐり込み部分で起きる海溝型地震以外の地震発生を予測するのも非常にむずかしい、ということを地震学者はこれまできちんと説明するのを怠っていたのでは。

阪神大震災が起きた後、地震学者は社会に対し十分な説明をしてこなかった、と批判されました。努力をしていなかったのでは、といわれれば、そうかもしれません。その後10年間、とりあえず調べたけれど、活断層および活断層によって起きる地震に関しては依然としてあいまいなところが残っています。

10月1日からスタートした緊急地震速報についても、地震の震源に近いところは犠牲にして、遠いところは助けようという矛盾を抱えたシステムです。震度の予測についても、震度5の予想が実際には4になったり、プラスマイナス1程度の誤差があります。予測の誤差をもっと小さくしないと、止めなくてもよかった鉄道などを止めることによって、経済的な損失も与えてしまう恐れがあります。精度の高い予測に近づける努力を続ける一方で、地震の予測に関してはどうしても不確定なところが残るということを社会にどう伝えるか、これがこれからの大きな問題です。

(続く)
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岡田義光 氏
岡田義光 氏
(おかだ よしみつ)

岡田義光(おかだ よしみつ)氏のプロフィール
1945年東京生まれ、67年東京大学理学部地球物理学科卒、69年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、70年東京大学地震研究所助手、80年理学博士号取得、国立防災科学技術センター第2研究部地殻力学研究室長、93年防災科学技術研究所地震予知研究センター長、96年同地震調査研究センター長、2001年同企画部長、06年から現職。06年から地震調査研究推進本部地震調査委員会委員長代理も。専門は地球物理学(とくに地震学および地殻変動論)。

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