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コラム - インタビュー -

第2回「阪神大震災で研究本来の姿に」

防災科学技術研究所理事長 地震学者 岡田義光 氏

掲載日:2007年10月9日

「役に立つ地震学目指して」

大きな地震を発生とほぼ同時にキャッチし、被害軽減に役立てることを狙った緊急地震速報が1日、スタートした。昨年8月1日から交通機関など一部利用者に限って提供していたサービスを一般にも広げたもので、NHKはテレビ・ラジオとも即日、民放ラジオ各局は来年4月から放送開始を決めるなど、今後の地震対策の中で重要な役割を果たす期待が高まっている。国際的に知られる地殻変動計算式「オカダモデル」を提唱した地震学者で、気象庁とともに緊急地震速報システムをつくりあげた防災科学技術研究所の理事長でもある岡田義光氏に、地震学の現状と可能性について尋ねた。

- 石橋克彦氏による東海地震説後、地震予知のために相当な公費が投入されましたが、それに見合った地震学の進歩はあったのでしょうか。

岡田義光 氏

岡田義光 氏

 

地震の前兆探しのような、狭い予知研究に偏っていたとは思っていません。ただ、予知を言わないと予算が付かないので、「予知に役立つ」といって予算をもらっていた側面はあり、反省しなければならないと思います。言っていることと、やっていることに乖離(かいり)がある、予知を便法に使った、と批判される面は確かにあったかもしれません。

1995年に阪神大震災が起きて、予知という言葉が魔女狩りのようにたたかれ、政府の地震予知研究推進本部も地震調査研究推進本部に変わりました。私の当時の肩書きも地震予知研究センター長から地震調査研究センター長に変わりました。ただ、側杖を食って火山噴火予知研究室まで火山噴火調査研究室と変えられたのは、やりすぎではないかと思いました。噴火は予知できると思っていましたから。

いずれにしろ、「予知」が「調査」にガラッと変わり、研究は本来の姿に戻ったと思います。東海地震や首都圏直下型地震が強く言われていたため、わが研究所も、関東・東海地域にしか目を向けていませんでした。阪神という思わぬところで大きな被害地震が起きたことから、特定の地域だけで地震の研究をしているのはおかしい、国全体を対象に足元を固める必要があるという声が高まりました。だいぶ、たたかれもしましたが、日本中をきちんと調べる調査、研究がスタートできたと思います。

地震調査研究推進本部は、当初、総務省に設置されましたが、その後、文部科学省に移りました。まず基盤的な調査観測態勢をつくろうということで、防災科学技術研究所が中心となる「地震観測網」、国土地理院が中心となる「全地球測位システム(GPS)による地殻変動観測網」、産業技術総合研究所地質調査所が中心となる「活断層調査」の3つを日本全国できちんとやる大方針が立てられたわけです。地震観測網に関しては、5,6年かけて2,000カ所近い観測点をつくり上げました。観測データは気象庁へ同時伝送して業務観測に役立てられる一方、東京大学地震研究所へも分岐して、そこから衛星経由で全国の大学の研究者にも送られるシステムが出来上がっています。昔は観測データの囲い込みといわれることがあったのですが、阪神大震災以降、取れた観測データは直ちにオープンにする革命的な変化がありました。多くの人の研究意欲をかきたてる効果もあり、良い方向に働いたと思います。

このような基盤的調査観測の進展によって、これまで見つけられていなかった地下での興味ある現象が次々と明らかになるなど,地震学上の大きな進歩がもたらされています。

- とは言っても、新潟県中越地震(2004年10月、M6.8)、福岡県西方沖地震(05年3月、M7.0)、能登半島地震(07年3月、M6.9)、新潟県中越沖地震(2007年7月、M6.8)と、思わぬところでそれもマグニチュード(M)も相当大きい地震が相次いでいるように見えますが。

それらの地震のいずれに対しても、専門家でさえ起きるたびにびっくりしている、というのが正直な思いです。阪神大震災以後の全国的な活断層調査や海域での地震発生評価により、ある地域が今後30年間に震度6弱以上の地震に見舞われる確率は何パーセントか、などを示す予測地図が作られるまでになりました。少なくとも長期的な予測についてはうまく行くという見通しがついたわけです。しかしながら、中越、玄界灘、能登、中越沖などで起きた地震は、長期的な発生確率がそれほど高くないとされた場所で発生しています。逆に言うと、M7あるいはそれに至らない地震は日本中いたる所で起きる、ということが証明されたともいえます。活断層調査というのは地質学、地形学に基づく調査ですので、とくに時間的な不確定性が非常に大きいのです。

(続く)
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岡田義光 氏
岡田義光 氏
(おかだ よしみつ)

岡田義光(おかだ よしみつ)氏のプロフィール
1945年東京生まれ、67年東京大学理学部地球物理学科卒、69年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、70年東京大学地震研究所助手、80年理学博士号取得、国立防災科学技術センター第2研究部地殻力学研究室長、93年防災科学技術研究所地震予知研究センター長、96年同地震調査研究センター長、2001年同企画部長、06年から現職。06年から地震調査研究推進本部地震調査委員会委員長代理も。専門は地球物理学(とくに地震学および地殻変動論)。

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