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コラム - インタビュー -

第4回「世界の研究者と新たな地球科学を」

海洋研究開発機構・地球深部探査センター長 平 朝彦 氏

掲載日:2007年3月29日

「地球科学のフロンティア日本列島」

構想以来15年の歳月をかけた世界初のマントル掘削船「ちきゅう」の本格掘削が、いよいよ半年後に迫ってきた。最初の調査海域は、一定間隔で巨大地震が起きることがよく分かっている地球で唯一の場所、南海トラフが選ばれた。プレートテクトニクス理論で、目覚ましい発展を遂げた地球科学においても、いまだ未解明の数々のなぞの解明が期待されている。

構想提言以来、「ちきゅう」プロジェクトで中心的役割を果たして来た平 朝彦・海洋研究開発機構地球深部探査センター長に、今後の深海底掘削で期待される新しい地球像、新しい日本列島像について聞いた。

- いよいよ9月から「ちきゅう」による本格掘削が始まるわけですが。

平 朝彦 氏

平 朝彦 氏

 

熊野沖の南海トラフで、2地点のライザー掘削を行います。まず6地点で非ライザー掘削によりコア採取し、準備を進め、2008年度中に海底下3,500メートルのライザー掘削に挑戦します。

南海トラフでは、1944年と46年に東南海地震と南海地震が起きています。地震を起こした見られる断層は、海底下5~15キロの深さにあると見られています。プレートは、深さ5キロぐらいまでは、地震を起こすようなひずみを蓄積せずに潜り込んで行きます。それより深くなると固着し、そこが巨大地震を起こす破壊の場所となる、と考えられるわけです。

固着、つまり摩擦がなぜ生じるのか、破壊を起こす要因は何なのだろうか。断層の中に水はあるのか、もし水が存在するなら、それは摩擦のメカニズムにどのように関与しているのか。

これらの疑問を熊野沖の掘削によって解決できれば、地震学の進歩に大きく貢献でき、次に南海トラフで起きる巨大地震の予測にも役立つかもしれない、と考えています。

また、試料を採取した掘削孔に観測装置を設置し、断層面の状態や周囲の岩石の変化などを長期的に観測することができます。さらに掘削孔の周囲や海底に観測網を敷けば、地震防災に役立つ、と考えています。実際に破壊が起きたら、地震の大きな震動が来る数十秒前、場合によっては数分前に情報を伝えることが可能だからです。

- 実際に巨大地震の危険に絶えず直面している日本だけでなく、海外からも大きな関心を呼びそうですね。

「ちきゅう」による観測は、統合国際深海掘削計画(IODP)という国際的な枠組みの中で運用されるという点が重要なのです。日米間の十分な協議を経て、2003年に遠山敦子・文部科学相とコールウェル・全米科学財団理事長とが調印し、その後、欧州も参加した国際計画としてスタートしました。韓国、中国も部分加盟という形で、加わっています。

「ちきゅう」には、世界のトップクラスの知恵を集められます。25~30人の研究者が乗船しますが、日本人が3分の1、米国人が3分の1、残り3分の1が他の国の人たちという構成になる予定です。科学に国境はありませんから、人類共通の遺産を作るという気構えでやる必要があります。

ただ、オリンピックではありませんから、参加すればよいというわけには行きません。日本の科学の利益ももちろん確保します。しかし、同時に世界に貢献するということも大事だと思います。

「ちきゅう」というすばらしい研究装置を提供するわけですから、ぜひ世界の人々が日本の研究所で研究し、日本の研究者と一緒に研究を続けたい、と思ってもらいたいものです。それによって日本の研究者の層も厚くなるわけですから。

特に日本の若い研究者、さらに女性の研究者たちが、このプロジェクトで力をつけてほしいと願っています。日本では、「科学」は研究中心の狭い世界と見られてきました。「ちきゅう」プロジェクトでは、研究、芸術、企画、広報、マネジメントなど幅広い活動の場で国際的視野を持った人材が育つ、それが最大の目的の一つです。

「ちきゅう」の掘削予定海域(赤い部分、南海トラフを横断している) コアの船上分析設備 ライザーパイプの接続作業(下北半島沖の掘削試験)
「ちきゅう」の掘削予定海域
(赤い部分、南海トラフを横断している)
コアの船上分析設備 ライザーパイプの接続作業
(下北半島沖の掘削試験)
提供:海洋研究開発機構

(完)
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平 朝彦 氏
平 朝彦 氏
(たいら あきひこ)

平 朝彦(たいら あきひこ)氏のプロフィール
1946年仙台市生まれ、76年テキサス大学ダラス校地球科学科博士課程修了、高知大学理学部助教授を経て、85年東京大学海洋研究所教授、2002年海洋研究開発機構地球深部探査センターの初代センター長、06年海洋研究開発機構理事。日本学術会議会員。著書に「日本列島の誕生」(岩波新書)など。

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