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コラム - インタビュー -

第3回「世界最新鋭の地球深部探査船『ちきゅう』」

海洋研究開発機構・地球深部探査センター長 平 朝彦 氏

掲載日:2007年3月22日

「地球科学のフロンティア日本列島」

構想以来15年の歳月をかけた世界初のマントル掘削船「ちきゅう」の本格掘削が、いよいよ半年後に迫ってきた。最初の調査海域は、一定間隔で巨大地震が起きることがよく分かっている地球で唯一の場所、南海トラフが選ばれた。プレートテクトニクス理論で、目覚ましい発展を遂げた地球科学においても、いまだ未解明の数々のなぞの解明が期待されている。

構想提言以来、「ちきゅう」プロジェクトで中心的役割を果たして来た平 朝彦・海洋研究開発機構地球深部探査センター長に、今後の深海底掘削で期待される新しい地球像、新しい日本列島像について聞いた。

- さて、地球科学のフロンティアというべき日本列島に挑む地球深部探査船「ちきゅう」の性能についてお聞かせください。

平 朝彦 氏

平 朝彦 氏

 

日本近海でなぜ巨大地震が起きるのかを知るにしても、とにかく海底下を深く掘りたいわけです。2,500メートルの海底から7,000メートル深く掘るという目標を立てました。これを達成するには、1万メートル以上の掘削パイプが必要です。

このくらいになるとパイプが自分の重さで切れてしまうのですが、メーカーと共同でこの長さでも切れないパイプを開発しました。

また、グローマー・チャレンジャーやジョイデス・レゾリューションといったそれまでの深海掘削船は、素ぼり方式をとっていました。パイプ内で海水を循環させ、掘りくずは海底にまいていたわけです。掘った穴の周囲は岩石ですから、比重は海水の約3倍、掘り進むほど孔壁内外の圧力差が生じます。トンネルの落盤事故のような崩落が起きて、垂直の穴でも、つぶれてしまうのです。

それを避けるため、「ちきゅう」は、海水ではなく、鉱物の粉や高分子化合物を入れて比重を重くし、かつ高温でも粘性が落ちない流体を流す方式を取り入れています。ただ、これを海底に垂れ流しては、お金がかかりますし、海底の生物にも迷惑でしょうから、「ライザー掘削システム」を採用しました。海底と船上をもう一本のパイプでつなぎ、外側のパイプと掘削パイプの間隙から、掘削したときにできる切りくずとともに、この流体を船上まで戻します。

もう一つ重要なのが噴出防止装置です。もしガスが噴き出して来ると船上で火災が発生し、大変なことになりますから。ライザーパイプと噴出防止装置を組み合わせた技術は陸上の掘削では新しい技術ではありません。しかし、2,500メートルの海底に噴出防止装置をきちんと設置する技術が、長い間なかったのです。

さらに、船の位置を定点に保ち、動揺を掘削パイプに伝えないような性能も不可欠です。船底に設置されている6つのプロペラ(スラスタ)はコンピュータで自動制御され、衛星利用測位システム(GPS)と海底に設置した音波発信装置によって定められる位置に、「ちきゅう」を保持することができるのです。

- 世界に例がないものをやろうとしたのですから、相当抵抗も強かったのではないでしょうか。

1990年代のはじめ、だれもそんなものできると思わなかった時期に「ちきゅう」をつくるという発想が日本から出てきたのには、それなりの理由があったと思います。バブルがはじけて、科学技術創造立国という新しい国の姿をつくらなければ、となったときでした。科学技術を育てて行くための補正予算が下りてきました。科学技術の育成と産業の活性化も図ろうという機運がピッタリあったといえます。

現在、「ちきゅう」のような科学掘削船は、ほかにありませんが、「ちきゅう」のコピーのような石油掘削船はどんどん造られています。このことから見ても、「ちきゅう」のインパクトがいかに大きかったかが、分かると思います。

「ちきゅう」のライザー掘削システム 「ちきゅう」を定位置に保つスラスタ
「ちきゅう」のライザー掘削システム   「ちきゅう」を定位置に保つスラスタ
提供:海洋研究開発機構

(続く)
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平 朝彦 氏
平 朝彦 氏
(たいら あきひこ)

平 朝彦(たいら あきひこ)氏のプロフィール
1946年仙台市生まれ、76年テキサス大学ダラス校地球科学科博士課程修了、高知大学理学部助教授を経て、85年東京大学海洋研究所教授、2002年海洋研究開発機構地球深部探査センターの初代センター長、06年海洋研究開発機構理事。日本学術会議会員。著書に「日本列島の誕生」(岩波新書)など。

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