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災害対策にはコミュニティと協力して地域に合ったシステム開発が必要

インドネシア・ガジャマダ大学前学長 ドゥイコリタ・カルナワティ 氏

掲載日:2017年12月7日

「サイエンスアゴラ2017」(科学技術振興機構主催)ドゥイコリタ・カルナワティ氏による基調講演(11月24日)から

ドゥイコリタ・カルナワティ 氏
ドゥイコリタ・カルナワティ 氏

皆さんこんにちは。ドゥイコリタ・カルナワティと申します。リタと呼んでいただいて結構です。(本日は科学技術振興機構(JST)理事長の)濵口(道成)さんにお礼を申し上げたい。今回このような形でお招きいただき、たいへん素晴らしい機会をいただきありがとうございます。また、もう一人お礼を申し上げたい方がいらっしゃいます。(JST副理事の)渡辺美代子さんです。渡辺さんは本当に私たちの仕事に関心を持ってくださっています。(この講演では)皆さんからも学びたいと思います。私からはどのような将来の持続可能性が私たちの社会の中にあり得るのか、についてお話したいと思います。

将来の持続可能性の前に考えるべきさまざまな課題

私が皆さんと共有したい内容はインドネシアの課題です。これは日本と似ています。私たちはさまざまな災害に苦しんできました。ですから、どのようにすれば私たちは科学を使って、(災害が起きたときに)「生存性(survivability)」を高めることができるか、が課題です。これは将来の話ではなく、今の人々の生存性のことです。さまざまな災害、例えば火山の爆発。私がこの話をしている間にもバリ島では火山活動が起きていますので、(活動のようすを)地球学的または地質学的にモニタリングしています。私のスピーチの間は大丈夫だと思いますが、うまくコントロールされて(その地域の人々に)危険が及ばないようにと願っています。(他にも)火山の活動以外に、地震、津波、地滑り、さらに洪水や干ばつもあります。また、自然災害だけでなく、例えば森林火災というのもあります。これは人為的なものです。私たちには将来の持続可能性の前にこのようなさまざまな課題があるのです。そこで、「(さまざまな課題に対して)大学、科学者、学会の役割または特に若い世代の役割はどうあるべきなのか」を私たちは一緒に考えなければなりません。

(ここで皆さんに)お見せしたいのは、私たち科学者の成果物です。火山堆積物の地滑りの地図を作りました。全てがデジタル化されていて、オンラインでモニタリングしています。技術は非常に進んでいます。私のオフィスにコントロールルームがあります。(そこでは)地震が起きたときのモニタリングをしています。また、地震、津波のほか、極端な天候変化があり得るのか、といった地球温暖化に関係するものもモニタリングしています。これらの技術を使うことによって、私たちは何とか社会の安全性を保とうとしているのです。しかしこれでも十分ではなく、私たちの「安全」または「持続可能性」という保証はできません。ですから、さらに何かをプラスしなければならないのです。

写真1 基調講演するカルナワティ氏
写真1 基調講演するカルナワティ氏

地滑り早期警戒システムはなぜ機能しなかったのか

一つ成功した例があります。コミュニティベースの地滑り早期警戒システムです。これは私たちが研究して開発したものです。20年以上前にデジタルマッピングを行って、数値的に(解析を行い、地滑り危険地区の)予測をイラストで示しました。そうすることで、災害が起きるときに幼稚園の子どもたちでも自分たちを守ることができる、友だちや同僚などと一緒に対応できる、または災害が起きる前に何とかリスクを避けられるようにしたのです。

しかし、地滑りが起きやすい村で使ってみたときに問題が発生してしまいました。(村の人々はこの地滑り早期警戒システムが)どういったメカニズムで動くのか、動かすためにはどのようにオペレーションしたらいいのか、メンテナンス(の方法)、手続きなどのシステムの使い方が分からずにうまく活用できませんでした。いろいろな(説明書などの)発刊物を出していたにも関わらず、地滑り災害が起きて多くの人が亡くなりました。何か欠けているものがあったということですね。(その何かとは)技術機器などと人々の日々の生活がつながっていなかったことです。そこから私たちは、ワークショップ、トレーニング、情報の発信など、さまざまな能力開発プログラムを始めました。しかしそれでも地滑りは起きて、また多くの人が亡くなっています。(そこで、次に)私たちは(何が問題なのかを)評価しようと考えました。

2007年のこと、(私たちの評価によって)文化的、社会的、経済的な問題であることが分かりました。これはたいへん複雑な(幅広い分野に渡る)問題なので、私たちのような科学者だけでなく、人類学者、心理学者、社会学者とともに仕事をしました。そうすることで、開発された機器はより社会の人が使いやすいものになり、ようやく(村の人々にも)オペレーションやメンテナンスができるようになってきました。ただ、実際にはコミュニティの意識が低かったことや、防災に関する情報へのアクセスがないということもありました。リスクに関するコミュニケーションがたいへん貧しかったのです。(その原因は)私たちが使っていたのは科学者の言葉で、それは地滑りが起きやすい地域の人たちにとってはたいへん複雑で理解するのが難しかったのだと思います。さらに、地方政府には科学者からの情報があまりありませんでした。つまりコミュニティが十分に機能していなかったのです。そこで、地方政府とも仕事をする必要がありました。私たちの国には多くの島があり、さまざまな民族グループがあります。このシステムをそれぞれの地元の人々に合わせて調整する必要があったのです。

写真2 基調講演で地滑り研究について説明するカルナワティ氏
写真2 基調講演で地滑り研究について説明するカルナワティ氏

若い人たちを巻き込んで全ての世代でシステムを運用する

防災や減災のための技術は地元の人によって運用されそしてメンテナンスされなければならない。これが私たち科学者にとって最も厳しい仕事でした。私たちは10年かけて一生懸命この仕事に取り組みました。しかし人々は今でも地方政府に頼り、自分たちは能力を生み出すことができない、あるいは所得を生み出すことができないままです。そのことによって減災の運用ができないでいます。そこで、経済的、社会的な側面をこのプログラムに組み入れる必要がありました。

インドネシアではとくに若い世代、特にミレニアル世代が多くなっています。彼らは、私たちとはコミュニケーションのタイプが異なり、みな携帯やモバイルを使うデジタルな人たちです。私たちのプログラムは、全ての世代をターゲットにしているので、一つの世代だけでなく、若い人たちも巻き込んでいかなければなりません。防災、減災、それから緊急対応もしなければいけません。最終的には災害に対する回復の強さを実現してほしいと思います。それには地域の人の知恵を入れなければいけません。また、多世代、マルチメディア、社会の起業家など、(多方面から)のアプローチがたくさん必要です。

私たちは(地滑り)早期警戒システムを作った過程のビデオを作りました。(早期警戒システムは)災害時には子どもの方が危険ですから、子どもにも分かりやすいものを意識しました。YouTubeでも見ていただけます。学生たちと、地方自治体、救助チームが協力して作ったプログラムです。また同時に津波準備センターを作り、地滑り以外にも対処しようとしています。それにも必ずコミュニティの協力が必要です。津波早期警戒システムは、(現在)インド、オーストラリアとの協力で進めています。(この会場にいる)皆さま方にもぜひ協力していただければと思います。ありがとうございました。

(科学コミュニケーションセンター 早野冨美)

ドゥイコリタ・カルナワティ 氏

ドゥイコリタ・カルナワティ(Dwikorita Karnawati)氏プロフィール
1964年、インドネシアのジョグジャカルタ特別州で生まれる。1996年、英国リーズ大学地球科学部で博士号を取得。翌97年には日立フェローシップ博士研究員の地位を与えられ、東京農工大学で研究活動に従事。2014-17年、ガジャ・マダ大学(インドネシア)学長。現在は同大学で工学・環境地質学の教授を務める。2011、14、17年と過去3回国連国際防災戦略(UN-ISDR)地滑りに関する国際プログラムで賞を獲得。

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