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新型インフルエンザ対策は2つの視点必要(田河慶太 氏 / 内閣官房新型インフルエンザ対策室長)

2013.03.04

田河慶太 氏 / 内閣官房新型インフルエンザ対策室長

研究会「インフルエンザ」(2013年2月25日、日本記者クラブ主催)講演、質疑応答から

内閣官房新型インフルエンザ対策室長 田河慶太 氏
田河慶太 氏

 自動車やパソコンは、誰が使おうと備わった機能水準は揺るがない。しかし、医薬品の効果には個人差があり、使う本人にも判然としない場合や副作用のおそれがある。

 このような特殊性を持つ医薬品には、「品質確保・有効性の評価・安全性の確認」の見地から、信頼できる客観的な保証が必要だ。そしてリスクとベネフィットをより正確に判断し、リスクへの対応策を講じる必要がある。さらに昨今、根拠のある判断であることを明確化し、それを議論できる環境づくりが求められている。そこで今、「レギュラトリーサイエンス」が注目されている。

レギュラトリーサイエンスとは “予測、評価、判断”の科学

 1987年、国立衛生試験所(当時)の内山充副所長が日本で最初にレギュラトリーサイエンスを提唱した。「科学技術進歩の所産のメリットとデメリットを予測・評価する方法を研究し、社会生活との調和の上で、最も望ましい形に調整(Regulate)すること」という概念は、医薬品・医療機器や食品の領域で数多く引用されている。

 内山先生(現在、薬剤師認定制度認証機構・理事長)は最近、レギュラトリーサイエンスを「真に人と社会に役立つ、正しい根拠による正確な予測・判断、適正な評価の科学」と説明している。また、“研究”と“実践・適用”の2つの視点から論考され、実用面では「適正規制科学」と位置づけている。

 近年、米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)では、レギュラトリーサイエンスを促進するため、戦略的プロジェクトが採択されている。マーガレット・ハンバーグFDA長官は、「適正な規制は障害どころか、持続性のある真のイノベーションを達成するための現実的な道」と表明している。欧州医薬品庁(EMA:European Medicines Agency)もレギュラトリーサイエンスを推進の方向だ。

 日本では、2011年8月に「第4次科学技術基本計画」が閣議決定され、“ライフイノベーションの推進”の中に、国によるレギュラトリーサイエンスの充実・強化が盛り込まれた。これは総合科学技術会議の答申を受けたもので、推進方策には「 国は、レギュラトリーサイエンスを充実、強化し、医薬品、医療機器の安全性、有効性、品質評価をはじめ、科学的合理性と社会的正当性に関する根拠に基づいた審査指針や基準の策定等につなげる」こと、および審査機関の体制強化などが記されている。

 日本の審査機関である「医薬品医療機器総合機構(PMDA:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)」は2004年に設立され、「医薬品・医療機器等の承認審査、安全対策、健康被害救済」の3業務を柱とする。PMDA役職員の講演資料によると、「PMDAは、規制当局の一翼を担う。“規制”というのは、科学を抑制する印象があるかもしれないが、国民の生活を安全かつ公平に保つための手段であり、国民を保護し、より良い社会を構築するためのツールである。規制に導入する評価基準は、科学的に設定されるべきである」ことが示されている。まさにレギュラトリーサイエンスの理念ではないだろうか。

PMDAにおける医薬品・医療機器の承認審査について

 PMDAのウェブサイトでは、「承認審査業務のフローチャート」が情報公開されている。承認までのプロセスを概略する。

  1. 申請者が科学的データを「承認申請資料」として提出。
  2. 審査側はGLP基準*やGCP基準*などに沿って資料の信頼性をチェック。
  3. 結果を踏まえて、薬学、医学、生物統計学、獣医学の審査専門員から成る審査チームが、申請内容の妥当性などを審査。審査の後、審査結果通知書を厚生労働省に上げる。
  4. 厚生労働省は薬事・食品衛生審議会に諮問。その答申を受けて厚生労働大臣が承認する。

* GLP基準(Good Laboratory Practice):試験施設や運営管理など、医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施規定。
* GCP基準(Good Clinical Practice):被験者の保護と安全の保持など、医薬品の臨床試験(治験)の実施規定。

 「承認申請資料」は、薬事法施行規則に基づき作成される。内容は「申請品の起源または発見の経緯および外国における使用状況、製造方法並びに規格および試験方法等、安定性、薬理作用、薬物動態(吸収・分布・代謝および排泄、生物学的同等性)、毒性試験、臨床試験の試験成績」などで、それぞれについての資料が必要だ。

 審査基準は「新医薬品承認審査実務に関わる審査員のための留意事項」に明確化され、5つの留意事項のほか、「考慮すべき11の事項」が解説されている。シーズを開発していく上で将来検討すべき開発コンセプト、データパッケージおよび試験デザインの参考に、ご覧いただきたい。

 審査の段階で作成された審査報告書は、提出された資料の概略と審査における主要な議論が質問と回答のスタイルで文書化されている。承認後、速やかにウェブサイト上に公表される(審査資料の概要も追って公表)。医療機器の場合もほぼ同様だ。審査報告書を検索するにあたり、例えば再生医療製品の治験の実施状況や承認状況は、国立医薬品食品衛生研究所の遺伝子細胞医薬部のウェブサイトにリストが掲載されているので、これを参考に検索することができる。

品質・安全性・有効性についてのガイドライン

 国内ガイドラインと「日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH) *」のガイドラインがある。いずれも厚生労働省医薬食品局から通知され、「厚生労働省法令等データベースサービス」の「通知検索」で閲覧できるが、ICHガイドラインはPMDAのウェブサイトからも入手可能である。ICHは、日本・米国・EUの各医薬品規制当局と産業界代表で構成されている(日本からは厚生労働省、PMDA、日本製薬工業協会)。

 * ICH:International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use

 ガイドラインの作成は、品質・有効性・安全性といった分野のトピックごとに行われている。これもレギュラトリーサイエンスの一環と言えそうだ。なお、ガイドラインは医薬品開発に役立つが、個別の品目に対応したものではないので、製品に応じて必要な試験をしているか確認すること。

より確かな実用化に向けて

 最終的に企業が承認申請をするので、優れた品質はもちろん、企業へのうまい橋渡しがあってこそ実用化に至る。仮にA大学で再生医療を研究して、B企業が医薬品・医療機器として開発するケースを想定する、双方の製品の同等性/同質性を十分説明できる場合は、A大学で収集されたデータは、B企業の承認申請に利用できる。ただし臨床研究などのデータは、参考にすぎない。AとBの製造方法が異なり、同等性/同質性が言えない場合には、非臨床・臨床試験のやり直しが必要になる。したがって製造方法をきっちり確立し、ドキュメント(手順書や製造したときのデータ)として保存しておくことが大事だ。

 患者さんの安全性確保の一環として、品質を担保することも重要であり、製造工程の評価・検証を行うとともに、最終的に出荷試験をクリアする必要がある。細心の注意を払っても、製造工程が原因で世界的に供給不足になり、低用量投与された患者で有害事象が増えた薬のように、不測の事態が起こることもある。同じ製造方法なのに、スケールアップしただけで品質特性が変わり、米国では新たな臨床試験を実施して、別の販売名で承認された事例もあるので、要注意だ。

 ちなみに、細胞・組織加工医薬品・医療機器に特徴的なリスクと品質評価が重要な理由を幾つか示す。

 ▽製造工程の微妙な差異(原材料、製造方法、製造に用いる機器、処理条件など)が、品質・有効性・安全性に影響を及ぼす可能性が高い。▽生物由来原料は感染性因子の混入リスクが高く、不純物のコントロールが困難。▽製品中に目的外細胞の混入する可能性や培養による細胞特性の変化の可能性がある。 ?(再生医療/細胞・組織加工製品実用化のための薬事講習会〈2010年度〉資料)

「薬事戦略相談」制度の活用

 製品開発を効率的に進めるためには、開発早期の段階から必要なデータなどについて、承認審査などを担う規制当局(PMDA)と調整をしていくことが有用である。大学・研究機関やベンチャー企業が、シーズの実用化の道筋について相談したい場合、PMDAの薬事戦略相談を利用することになる。

 薬事戦略相談には3段階の相談方法がある。

  1. 個別相談(無料)は、薬事戦略相談の手続きや内容の説明。
  2. 事前面談(無料)は相談内容の論点整理。
  3. 対面助言(有料)では科学的議論を進める。

 基本的に同相談室のテクニカルエキスパートや審査チームが対応し、(3)では必要に応じて当該分野の外部専門家も同席する。研究の開発段階における立ち位置や開発戦略を検討でき、特に革新的な研究の場合は前例や経験が少ないので、開発者にとって大きな勉強になる。

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