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原子力信頼確保は国際標準順守から

日本エネルギー経済研究所 理事長 豊田正和 氏

掲載日:2012年10月4日

日本記者クラブ主催記者会見(2012年9月27日)から

日本エネルギー経済研究所 理事長 豊田正和 氏

豊田正和 氏

 

政府のエネルギー・環境会議が9月14日にまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」は、「原発に依存しない社会の一日も早い実現」「グリーンエネルギー革命の実現」「エネルギーの安定供給」が3本柱となっている。“2030年代に原発稼働ゼロ”という目標が盛り込まれているが、これに対しては重大かつ深刻な懸念を持つ。

まず、電力価格の上昇による企業収益低下・工場海外移転で法人税減収と財政収支の悪化が避けられない。さらに化石燃料の輸入量増加で貿易収支の悪化が重なる。エネルギー安全保障体質の脆弱化、国際責務である地球温暖化対策も不十分にならざるを得ない。再生可能エネルギーの拡大も具体的裏付けに欠ける。

さらに、原子力技術や人材の維持が困難になる。中国、インド、ベトナムなど人口が多く電力供給が不十分な国は、原子力発電なしにはやっていけない。これらアジアの国々の安全確保をお手伝いするのは日本の責任だが、これが難しくなる。原子力技術に関して補完関係にある米国との関係にも悪影響を及ぼし、英国、フランスとの協力関係も損なう恐れがある。

では、どうすべきか。原子力の安全性に対する信頼を回復することが必要で、そのためには原子力安全規制の国際標準に戻るのが一番よい。今回の福島第一原発事故については政府の責任は大きいと思っている。独立性のある規制機関がなかったことが問題だ。経産省の中に原子力の推進官庁と規制官庁である原子力安全・保安院の両方が入っていたのは、国際原子力機関(IAEA)による10の基本安全原則にはずれている。IAEAから何度も是正勧告を受けていたのに応じなかった。

また、「現在および将来の人と環境を放射線のリスクから防護すべきだ」「事故の影響防止と緩和の主要な手段は『深層防御』」「緊急時の準備と対応をあらかじめ確立すべきだ」というIAEAの基本安全原則も、「事故の可能性はゼロにはならないのだから、事故が起きたら影響を最小限にしろ」ということ。これも守られていなかった。新しくできた原子力規制委員会の田中俊一委員長が「防災対策の重要性」を明言したのは、まさに「緊急時の準備と対応」というIAEAの原則を確認したものとみている。

米国やフランスの人たちに聞くと、彼らの原子力規制機関もスリーマイルアイランド原発事故やチェルノブイリ原発事故などを機にだんだんと独立性を高めてきた、ということだった。以前は「安全神話」があったことも認めている。

日本の原子力が信頼を回復する道は、安全神話の棄却と、深層防御の徹底にあり、それは国際標準に戻ることでもある。

再処理、放射性廃棄物の最終処分というバックエンドも、国際協力で進めることが大事だ。ユッカマウンテンを最終処分場にするという米国の計画がうまくいかなくなっているのも事実だが、フィンランドの最終処分場は建設がほぼ完成している。日本と地質の構造は違うだろうが、彼らの知見に学ぶべきだろう。彼らの経験に加え、地震国である日本に必要なものは何かといったことを…。

日本はこれまで自前主義で来ていたところがあるが、これからは成功した外国の事例に学ぶべきではないか。

日本エネルギー経済研究所 理事長 豊田正和 氏
豊田正和 氏
(とよだ まさかず)

豊田 正和(とよだ まさかず)氏のプロフィール
1973年東京大学法学部卒、通商産業省入省。通商政策局国際経済部長、通商政策局通商機構部長、製造産業局次長、商務情報政策局長、通商政策局長、経済産業審議官、内閣官房宇宙開発戦略本部事務局長などを経て2010年から現職。

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