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原発ないと日本は本当にやっていけないか

日本学術会議 東日本大震災対策委員会委員長 北澤宏一 氏

掲載日:2011年5月25日

日本記者クラブ主催シリーズ研究会「3.11大震災」(2011年5月20日)講演、質疑応答から

北日本学術会議 東日本大震災対策委員会委員長 北澤宏一 氏

北澤宏一 氏

 

日本の復興期で産業規模の小さかった1950-60年代に日本が原子力発電を導入したのは主要先進国のすべてが受け入れたことを考えても成功であったとも言えよう。しかし、3月11日の東北地方太平洋沖地震を契機に「卒原子力」の選択肢も生じた。

原子力をやめた場合、国民が負うコストはどれくらいだろうか。国内電力の3割を占める原子力発電を現在、市販されている再生可能エネルギーの中で最も高価な家庭用小型太陽電池ですべて置き替えたとして家庭の電気料金負担がどれだけ増えるか試算してみた。1世帯(2.65人)当たり、毎日、缶ジュース1本、130円の出費程度でしかない。

この試算は太陽電池のコストを1キロワット時当たり42円で計算したが、この3年ほどの太陽電池の値下がりは急速で、大型設備ではキロワット時当たり12セントで購入すると改定した国も出て来ている。もはや「太陽電池は高い」というイメージはあてはまらなくなった。従来のシリコンと全く異なる材料から成る2種類の太陽電池(昭和シェル石油のCIGSと三菱化学の有機太陽電池)が日本で開発され、年間60%成長を見込む世界市場に向けて量産体制が整えられた。従って、実際の家庭の電気料金負担はさらに少ないと予想される。

これまで原子力をやめたら電力料金が上がり、製造業の国際競争力が低下して日本は大変なことになる、と言われてきた。地震後に多くの日本人は原子力発電所をすべて止めたら安心だと感じる一方、原子力発電所がなくなると日本社会は大変なことになる、と恐れている。しかし、原発をすべて止めたらどうなるかについては誰もきちんと説明していない。どこかがきちんと考える必要がある。日本学術会議に委員会をつくって検討すべきだ、と提案したら言い出しっぺとして委員長にされた。

日本学術会議東日本大震災対策委員会の「エネルギー政策の選択肢分科会」は5月11日に第1回の会合を持ち、「従来の枠にとらわれずエネルギー政策を抜本的に見直すきっかけをつくる。活動期間は2カ月」を申し合わせた。以下の4つの選択肢案を設定し、検討を始めた。

  1. 直ちにすべての原子炉を停止する。民生と産業への影響の大きさを推測、今後5年程度の社会変化を予測する。
  2. 電力の30%を再生可能エネルギーと省エネで賄い、原子力による電力を5年程度で代替する。国民生活のシナリオを考える。
  3. 20年程度で電力の30%を再生可能エネルギーでまかない原子力電力を代替する。国民生活のシナリオ変化を考える。
  4. 原子炉を国民に受容される安心・安全なものとして再提起し、将来における中心的な低炭素化エネルギーに位置づける。その発電コストの変化を考える。

日本が風力、小水力、バイオマス、地熱、太陽光、波や海洋などの自然エネルギーを拡大しないのは、電力料金が上がって国際競争力を失うから、というこれまでの通説は妥当だろうか。2010年に世界の自然エネルギー発電設備容量は381ギガワットとなり、原子力発電を上回った。風力発電の設備容量だけでも原子力発電に近づいている。世界の自然エネルギー投資は2010年に20兆円とこの3年で5倍に増えた。原子力発電推進に熱心とみられていた中国が、再生可能エネルギー投資で世界一になった。再生可能エネルギーに対する熱が冷めている日本の投資額は、欧米諸国、中国、ブラジル、インドより下回り、世界20位以下となっている。

一方、日本の貿易黒字はこの25年間、毎年平均10兆円あり、海外投資の正味蓄積額が2009年で276兆円と世界最大になっている。このまま海外投資だけを続けると、とめどなき円高になり、国内から製造業が海外に逃避し、失業が増え、税収も落ち込む。海外投資の一部を国内投資に振り向けるよう国内に『もうかるメカニズム』をつくるべきではないだろうか。

日本の電力費は、年約15兆円で、このうち原子力発電は約4兆5,000億円、GDP(国内総生産)の0.9%だ。娯楽費は年約100兆円でGDPの20%を占める。「クリーンな電力は国民の楽しみ」と捉えたら、とたんに安い出費と言えるのではないか。

「エネルギー政策の選択肢分科会」の役目は、検討結果を示し、国民にどれを選ぶか選択してもらうことだ。ただ、個人的な見通しを聞かれたら、菅政権の現在の対応からみると、選択肢1(直ちに脱原発)と選択肢2(5年で卒原発)の中間のスピードで動き始めているようにみえる。

北澤宏一氏
北澤宏一 氏
(きたざわ こういち)

北澤宏一(きたざわ こういち)氏のプロフィール
長野県立長野高校卒、1966年東京大学理学部卒、同大学院修士課程修了、米マサチューセッツ工科大学博士課程修了。東京大学工学部教授、科学技術振興機構理事などを経て2007年10月から科学技術振興機構理事長。日本学術会議会員。専門分野は物理化学、固体物理、材料科学、磁気科学、超電導工学。特に高温超電導セラミックスの研究で国際的に知られ、80年代後半、高温超電導フィーバーの火付け役を果たす。著書に「科学技術は日本を救うのか-『第4の価値』をめざして」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「科学技術者のみた日本・経済の夢」(アドスリー)など。

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