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IPCCをどう変えたらよいか」第2回『自信のないことは書かない方が』

プリンストン大学 上席研究員、名古屋大学 特別招へい教授 真鍋淑郎 氏

掲載日:2011年2月9日

特別セミナー「地球温暖化にかかわる政治と科学の一側面」2011年1月21日、名古屋大学グローバルCOEプログラム「地球学から基礎・臨床環境学への応用」主催 講演から

プリンストン大学 上席研究員、名古屋大学 特別招へい教授 真鍋淑郎 氏

真鍋淑郎 氏

 

次の問題は査読プロセスだ。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書草案は専門家と政府代表者によって2度にわたり査読される。査読者から寄せられたコメントにはすべて執筆者が答えることになっている。第4次報告書の場合、草案に対する査読コメントが9万も寄せられた。執筆者はギョッとしますよ。だから勧告では、査読編集者は主執筆者と協力して一番重要な査読コメントだけをリストアップし、それに対して主執筆者は答をきちんと書く。しかし、それ以外のものは主なものを参照として掲げておくか、短く答えればよい、ということになった。私は「重要なコメントだけに答えればよい」と(さらなる簡略化を)主張したのだが…。

次に私が個人的にも興味のある、不確実性をいかに伝えるかということの重要性だ。IPCCの報告書にはいろいろ結論が書いてある。しかし、それがどのくらい確かなことか読む人に分からなければ、いくら多くの結論を書いてもしようがない。

例えば第1作業部会は自然科学ベースだ。報告書では、それが起こることは非常にありそうか、それともありそうもないかというプロバビリティ(可能性)と、その結論が正しい確率はどの程度かというコンフィデンススケール(確信度)を示している。これはある意味では同じことだ。つまり定量的な可能性の尺度に依拠している。例えば「可能性が極めて高い」は起きる確率が95%より大きいことを示す。

一方、第2作業部会はコンフィデンススケールによっている。例えば「確信度が高い」は10のうち、およそ8が正しいことを示す。第3作業部会はレベル・オブ・アンダースタンディング・スケール(定性的な理解水準の尺度)、つまり専門家の間でどのくらい利用できるエビデンス(証拠)があるか、とどのくらいのアグリーメント(合意)があるかということによっている。3つのグループで、それぞれ不確実性の尺度が少しずつ違うのだ。

第1作業部会は、たくさんのモデルで実験をやって可能性を出すから、可能性の程度を記述するのは比較的簡単にできる。しかし、第2作業部会は問題だ。しかも、IPCCへの批判は第2作業部会に集中している。第2作業部会の報告書は、証拠はないのに確信度は非常に高い記述が含まれている。定性的にもっともらしいことを言えば、確信度は高くなってしまう。それが人を欺くことになる。きちんとした分析もないのに、なぜこんなことが言えるのかと思われるものや、完全に推測としか言えないような記述が目につく。

第2作業部会の仕事はインパクト(影響)で、生態系への影響というのは生物学だ。農業は今、バイオテクノロジーにより、ありとあらゆるものがものすごい勢いで進歩している。だから今から20年先の農業を予想したり、あるものが何パーセント減るかといったことを予測することは不可能なのだ。それから経済学や政治学、社会学といったものが全部、加わってくる。技術も進歩するし、われわれの適応能力もどんどん進歩するから、非常に難しい問題になってくる。証拠がどのくらいあるか、どのくらい専門家の間で合意があるかによって可能性を示せ、というのがわれわれの勧告だ。

第2作業部会の作業は、構造的な不確実性がある。その結論はどのくらい不確実なものか、きちんと提示することが必要だ。あまり証拠がなかったり、自信がないことは書かない方がよい。そうすれば何千ページもある報告書の長さもかなり減るのではないか、というのが私の個人的な意見だ。

(続く)  

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プリンストン大学 上席研究員、名古屋大学 特別招へい教授 真鍋淑郎 氏
真鍋淑郎 氏
(まなべ しゅくろう)

真鍋淑郎(まなべ しゅくろう)氏のプロフィール
1931年愛媛県生まれ。旧制三島中学(現・愛媛県立三島高校)卒。53年東京大学理学部卒、58年東京大学大学院博士課程修了、同年米気象局(現・海洋大気局)研究員に。68年米海洋大気局地球流体力学研究所上席気象研究員兼プリンストン大学客員教授。97年帰国し、科学技術庁(当時)地球フロンティア研究システム地球温暖化予測研究領域長に就任、2001年帰米し現職。米気象局入局直後から大気大循環モデルの研究にかかわり、海洋大循環モデルと結合させた「大気海洋結合大循環気候モデル」を開発、二酸化炭素(CO2)濃度の上昇が大気や海洋に及ぼす影響を世界に先駆けて研究した。このモデルはIPCCの第1次報告書(90年)に引用され、自身、第1作業部会報告書の執筆者を務めた。米科学アカデミー会員。

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