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裁判の過程を通じて養成される専門家

ハーバード大学ケネディスクール 教授 シーラ・ジャサノフ 氏

掲載日:2010年10月4日

シンポジウム「科学裁判を考える」(2010年8月23日、科学技術振興機構 社会技術研究開発センター研究プロジェクト「不確実な状況での法的意思決定」主催) 基調講演から

ハーバード大学ケネディスクール 教授 シーラ・ジャサノフ 氏

シーラ・ジャサノフ 氏

 

私は、1995年に「Science at the Bar」(法廷における科学)という本を書きました。この本の中で、私は法制度が科学の専門家の知識をどう解釈するのか、ということについて取り上げました。最初から科学的な証拠があるわけではなく、訴訟の過程において科学的な証拠が徐々に形づくられるのです。また、法と科学の専門家が、お互いのことをよく理解し、適切に証拠を積み上げて司法的な判断をしなければならない、ということを申し上げました。

この本を書いた数年後、私は専門家、専門能力ということに着目しました。専門家というものはもともと存在するのだろうか、と。後に、訴訟の結果として専門家が生まれてくるのではないかと思い至りました。科学的な専門能力を使うさまざまな分野で、誰が専門家であるかということは、最初は分からないのです。

例えば、X線が発見され利用されるようになった時、誰が専門家であるかということは明らかでありませんでした。うそ発見器の結果が裁判で利用されるようになった時もそうでした。訴訟で必要とされる専門家は、裁判の過程を通じて養成され、形作られていくということが分かったわけです。

特に、未知の新しい分野においては、それが顕著です。例えば豊胸手術におけるインプラントの破損や漏れが免疫系に悪影響を及ぼすのではないか、という問題です。歴史をひもとけば、訴訟の最初の段階では、どの分野の専門家が証言をすべきか、ということさえも明らかではありませんでした。インプラントバッグの専門家であるべきか、インプラント素材の専門家であるべきか、あるいはバッグの中に入っている液体としてのシリコンの専門家を呼ぶべきか、あるいは豊胸手術の中で使われるシリコンの人体への反応についての専門家を呼ぶべきか、分からなかったのです。

その後、10年を経て豊胸手術に関する専門家集団というのが生まれてきましたが、それは裁判の前には存在しなかったものです。裁判の過程を経て、そのような集団が形成されたのです。

この二つの制度、法と科学というのは何百年にもわたって密接に関係を持ち続けてきましたが、最近ではこの二者が非常に乖離(かいり)してきているということが指摘されています。最近私が発表した論文では、司法の手続きと科学的な事実の生成、専門家の関与の関係にとどまらず、さらに法と科学の専門家が、どのようにして法と科学の相互作用、相互関係を紡ぎ上げていくかというところに着目しました。お互いの世界観に影響を与えている協働(co-production)という視点から、法と科学を見ることです。つまり、法にも科学にもそれぞれ非常に重要な役割があるわけですから、それをお互いに協働という形で実現していくことができないかということです。

合法性のとらえかたをどうするか、事実認定の方法、評価などを考えるということ。さらにまた真実性、誰が真実を語っているかということについて確信を得ること。また事実と証拠ということ、その中で何が証拠として取り上げられるべきなのか、ということです。

(SciencePortal特派員 立花浩司)

ハーバード大学ケネディスクール 教授 シーラ・ジャサノフ 氏
シーラ・ジャサノフ 氏
(Sheila.Jasanoff)

シーラ・ジャサノフ 氏(Sheila.Jasanoff)氏のプロフィール
ハーバード大学ケネディスクール教授。専門領域は科学技術社会論(Science and Technology Studies:STS)。米国を中心に科学技術社会論という新規の学問分野、特に「法と科学」の分野の発展に尽力している。著書にControlling Chemicals(1985)、The Fifth Branch(1990)、Science at the Bar(1995)、Designs on Nature(2005)など。

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