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コラム - ハイライト -

携帯通信事業者は最強の小売業者にも

ソフトバンクモバイル 取締役副社長 松本徹三 氏

掲載日:2010年9月1日

特別講演会「どうなる?ケイタイのブロードバンド化とコンテンツサービス」(2010年6月3日、NPO法人ブロードバンド・アソシエーション主催)講演から

ソフトバンクモバイル 取締役副社長 松本徹三 氏

松本徹三 氏

 

この30年間、ソフトバンクはインターネットの成長とともに生きてきた。インターネットのサービスを考えれば考えるほど、通信ネットワーク、それも特にモバイルを自ら持っていないといけない、ということで、4年前、一大決意をしてボーダフォンを買った。

携帯電話会社を買ったのには、2つの理由がある。一つは、これからのインターネットは必ずモバイルに行き、モバイルからのアクセスが、普通の固定環境からのアクセスよりはるかに大きくなると思われること。もう一つは、日本ではネットワークオペレーターである通信事業会社が全体のシステムの中枢にいることだ。

たくさんの人々が一緒になって必要なコンテンツサービス、端末、それからその販売といったシステムをつくり、新しい価値をつくるときには、だれかがリーダーにならなければいけない。逆に言うと、お客さんにとっては1カ所に行けばすべてに責任を持ってくれる人がどこかにいなければ困る。日本ではそれを担うのが通信事業者だということだ。

世界中の通信事業者は、今アップルとグーグルとノキアの影におびえている。ノキアは今はそれほど恐ろしくないが、アップルとグーグルには、いいところをみんな取られてしまうのではないか、戦々恐々としている。だから、海外の通信事業者は日本のモデルに非常に興味がある。どうしてうまくやっているのか、と。

iPhoneで成功したアップルは、パソコンでも当初、フォントがきれいだし、使いやすく、どう考えてもウィンドウズよりよかった。しかし、アップルは全部バーティカルインテグレーション(縦の系列化)で、徹底的に自分の世界をつくった。それに対してマイクロソフトはあらゆるハード、あらゆる人に門戸を開いた。それでパソコンはマイクロソフトの圧勝になった。

しかし、携帯の場合はちょっと違う。なぜかというと、これはもうちょっとハードオリエンテッドだからだ。パソコンのようにハードはどうでもいいというものではない。ハードのつくり込み、つまり日本人に近い世界といえる。よく全部OSになったらパソコンと同じで、みな台湾のメーカーに行ってしまう、といわれるが、そんなことはない。携帯の方が難しく、ハードのつくり込みのうまい日本のメーカーは、携帯ではまだまだいける。

なぜ日本のメーカーの携帯が今まで売れなかったか。それはソフトの開発でOSがないところにソフトを一つ一つ買っていたから、高くついたためだ。日本製は評判がよかったのに、数が少なく開発費が高いから値段が高くなり、どこでも売れるとはならなかっただけだ。しかし、ソフトはアンドロイドを使えば途端に、ハンディキャップはなくなる。ハードのつくり込みとかカメラ周りの工夫などで勝負はできる。サムスン、LGにできることがどうして日本のメーカーにできないか。それはもう本気で世界で戦う気があるかどうか、日本のメーカーの経営者の考え方次第だと私は思う。

日本の携帯はガラパゴス化しており、その元凶は通信事業者が抱え込んでいるため、ということがよくいわれる。そんなことはない。われわれも4社でJIL(ジョイント・イノベーション・ラボ)というものをつくり、API(アプリケーション・プログラム・インターフェース)を統一し、どんなOSだろうと、どんな機種であろうと一つのAPIを通せばよいようにすることで、通信事業者としての支援を始めた。内外の通信事業者がWAC(Wholesale Applications Community)をつくったので、合流することにした。こちらにはドコモも入っているし、KDDIも入ることになっている。世界の50社くらいが連合をつくり、APIを統一しようということだ。

人間が何にどうやってお金を払って買うか、ということがこれから大きく変わってくる。その中枢にあるのは間違いなく携帯だ。なぜかというと、今までの有線インターネットでは、まずパソコンを買わなければならない。それを置く場所が必要。クレジットカードを持っていなければいけない。それらができる人は世界にそうはいない。

そもそも今までのインターネットのサービスというのは、線でつながれたパソコンからアクセスするというのが常識だった。従って、もろもろのインターネットサービス、コンテンツとかいろいろな娯楽も、パソコンの世界で閉じていた。現にパソコンの利用は減っている。こんなものは携帯からできる、と若者のパソコン離れは着実に起こっている。

パソコンのサービスでお金を払ってもらうのは難しいが、携帯の場合は、請求書が来て毎月払うことでつながっている。安い携帯端末は、はるかに人口が多いインドでもアフリカでも利用できるから、今までパソコンを介していたマーケットが携帯によって一気に増えると思う。

また、パソコンは広告以外に収入があり得ない。一方、携帯の小さい画面で広告がごちゃごちゃ出てきたら困るから、パソコンの広告モデルというのは携帯では動かない。しかしながら、携帯ならではという広告がある。所有者の性格や興味も分かるから、無駄なものはやらず決め打ちでやってくる。グーグルのような検索で、直接個人の興味を待ち受ける広告ができる。

広告というのは購買意欲をかき立てることだから、広告を見てその場で買ってもらうのが一番いい。直接電子的な購買にするのだ。われわれは中国最大のオークション会社であるタオバオの株を30何%持っている。中国のオークションに出ている商品を日本のユーザーが買えるようにすることで、われわれ携帯事業者が、実際の商取引まで入っていくチャンスが大きくなってくる。携帯通信事業者が最強の小売業者になるということも夢ではないと思う。

私どもの会社は3月に、データの収入が音声を超えた。iPhoneのおかげかもしれないが、これは世界で初めてだと思う。日本の通信事業者は、どこも2-3年のうちに7対3から8対2くらいにデータ通信の収入が音声をしのぐようになると考えている。電話の使用量がいきなり倍になることなどはありえない。電話はもうこれ以上伸びないが、データの方はどうなるか、見当もつかない。中国のソーシャルゲームなどを見ると、増え方は倍どころではない。10倍、数10倍だ。

シスコの予測では、2015年には全体のデータトラフィック(転送データ量)は40倍になるとされている。われわれの試算でも、データのトラフィック量は数十倍から数百倍に増えていく。これをすべてモバイルのネットワークでカバーするのは不可能だ。

いま携帯端末を使う場所の70-80%は、職場や家といった固定環境だ。モバイルの技術というものは、移動中でも、難しい電波環境にあるところでもつなげられるのが利点である。しかもいろいろな環境を移り歩いても、スムーズにシームレスにつながるところが優れたところだ。家でじっとしているのにモバイルを使うというのは、刺身をまさかりで切っているようなもので、全く意味がない。家にいるようなときはモバイルを使わないようにしてもらわないと、いずれトラフィックは完全に破たんする。

有線プラスWi-Fi(無線LAN機器間の相互接続)とモバイル、これにブロードキャスト&キャッシュ(同時通報と使用頻度の高いデータの蓄積)を加えた3つの方法で、数十倍、数百倍になってくるトラフィックをこなしていくのが、これからの通信事業者の責務だと思っている。

ソフトバンクモバイル 取締役副社長 松本徹三 氏
松本徹三 氏
(まつもと てつぞう)

松本徹三(まつもと てつぞう)氏のプロフィール
1962年京都大学法学部卒、伊藤忠商事入社、84年伊藤忠アメリカ上級副社長兼エレクトロニクス部長、86年伊藤忠商事通信事業部長。マルチメディア事業部長などを歴任した後、96年伊藤忠退社、コンサルタント会社ジャパンリンク設立し、代表取締役社長に。98年クアルコムジャパンを設立、代表取締役社長。2005年クアルコム米国本社上級副社長兼日本法人取締役会長、06年ボーダフォン日本法人執行役副社長(技術統括兼CSO)、同年10月社名変更で現職。

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