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もっと政治に科学性を 第2回「理系こそ政治の世界に」(鳩山由紀夫 氏 / 首相、衆議院議員)

2010.06.15

鳩山由紀夫 氏 / 首相、衆議院議員

博士学生異分野交流フォーラム(2010年6月5日、東工大・東大博士学生異分野交流企画学生グループ主催)基調講演から

自然科学系の博士号取得者数と経済支援

首相、衆議院議員 鳩山由紀夫 氏
鳩山由紀夫 氏

 イノベーションの担い手となる博士号取得者は、多くの国で増加傾向にある中、日本は横ばい。大学院進学率も伸び悩んでいる。ただ、進学するだけでは駄目だが、まだまだ日本は大学院への進学率が低い。

 博士号取得者数が伸び悩んでいる理由の一つは、経済的支援が足りないことがある。生活費相当額の経済的支援を受けている博士課程学生の割合は、日本で10.1%、米国では40.7%。日本では経済的支援がまだまだ足りない。日本の奨学金は貸与だが、本来、返さないのが奨学金。自分も米国にいたときは、ティーチングアシスタントという制度を利用し、残りは親からの仕送りと妻のバイトの稼ぎで細々と暮らし、ドクターを取得した。

高等教育の充実

 高校までは実質無償化という道が開かれた。中学までは子ども手当、高校は実質無償化ということになった。しかし、大学あるいは大学院の教育というものはまだ、実質無償化にはなっていない。民主党としては将来的に、段階的にはなるだろうが、無償化の方向に行くべきであろうと考えている。本気で大学、大学院で学びたい。ドクターをとってやろうじゃないか。そして、日本だけではなく、世界で貢献してやろうじゃないか、というような高い志を持って努力したいと思っている人たちの意欲をそがないようにしたい。少なくとも経済的な理由でそいでしまうということは大人たちが決してやるべきことではない。

アジアとの関係強化

 日本の貿易額の5割はアジアであり、中国、インドなどアジア圏の経済成長が著しい。東アジア地域で事業を展開するグローバル企業で活躍できる人材を育成し、東アジア地域での経済活動の一体化をしていきたい。まずは、少なくとも教育では壁を早く取り除くべきで、高等教育における単位互換性などを取り入れていきたい。技術的には、日本にいながら衛星中継で海外の講義を聴くことは可能。学部での勉強は、ひとつずつ積み上げていく学習方法だ。しかし、大学院では自分の専門以外の勉強をする機会が少ない。大学院でも自分の専門以外の勉強を他大学で受けられ、知識をひとつずつ積み上げていけるような形にして、教育の質を向上させたい。その一つとして、日本、中国、韓国の学生間交流事業「CAMPUS Asia」をことし4月から始めた。

世界的なリーディング大学院の形成

 産学官連携のオールジャパン体制を構築し、優秀なリーダーとして活躍できる人材を育成する。これにより、修了後のキャリアパスにつなげ、さらにその結果、優秀な人材が博士課程に進学するという好循環を目指す。

 祖父に影響を与え、友愛ということを言い出したリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーは次のように言っている。「すべての偉大な歴史的出来事は、ユートピアとして始まり、現実として終わった。一つの考えがユートピアにとどまるか、現実になるかは、それを信じる人間の数と実行力にかかっている」と。つまり、理想を語り続けることで、それが現実になるということだ。若い人も理想を口に出して、それぞれの道で頑張ってほしい。

<質疑応答>

  • 博士の学位を取ってよかったことと、また博士号は政治にどう活かせたか?

主体的に研究にかかわることで、専門分野であるオペレーションズリサーチの重要性を学べたことはよかった。しかし、博士号取得によって得られる知識、経験を政治に活かすことはできなかった。政治の場でも、意思決定の際に科学を取り入れていけるよう、これから活かしていきたい。日本ではそういったことができる人材が政治、行政の中では少ない。理工系の人こそ政治の世界に入っていってほしい。

  • 政治の世界に入るのに努力したことは何か?

明らかに祖父のネームバリューがあったことは認める。ただ、理工系の人間がこれから政治、行政の世界に入ろうと思うとき、自分の魅力を積極的にアピールすることが重要だと思う。自分の魅力が認められれば、人を動かす原動力ともなるので、自分を磨くことが最も認められているのではないか。自分というものをありのままに素直に見せきるということが一番大事な努力であり、あまり自分を偽るような無理なことを行うよりも、むしろ人間臭さというものを丸出しにする努力を、理工系の方たちがした方が政治行政の分野に進むに当たって評価をされるのではないか。

理工系の人間は人との交流が少ないので、そこは直したほうが良い。

  • 日本では博士号を取得してもあまり優遇されないことに対して、どう思うか?

博士号を取得することが目的となってはいけない。自分の人生を思い描いた上で、博士号を通過点として取得するようにしたい。しかし、博士号取得者の会社などでの待遇に関する問題は確かにある。これらの問題は、産学官の連携を強化することによって解消していきたい。

  • 日本で学ぶ自分は、日本の価値自体も高めていきたい。将来、理系が活躍する場所はどこであるか?

具体的にどことはいえない。自分が専門分野で頑張っているという意識があれば、自然と道が開けていくはず。文系、理系の壁はあるが、自分に続いて理系の人間が首相に連続して就任することで、官公庁の仕組みが変わるかもしれない。しかし、じっとしているだけでは変わらない。変化しようとする者に対する抵抗力に負けない力をつけてほしい。

  • 最後に、理系の学生にメッセージを。

自分たちの未来が、世界の今後を左右するということを自覚してほしい。自分の意思をもって、キャリアパスの1つの選択肢として博士号を取得してほしい。

(SciencePortal特派員 深澤直人)

首相、衆議院議員 鳩山由紀夫 氏
鳩山由紀夫 氏
(はとやま ゆきお)

鳩山由紀夫 氏(はとやま ゆきお)氏のプロフィール
東京都立小石川高校卒。1969年東京大学工学部応用物理・計数工学科卒、76年米スタンフォード大学大学院博士課程修了、専攻はオペレーションズリサーチで、博士号(Ph.D)取得。同年東京工業大学経営工学科助手、81-84年専修大学経営学部助教授、86年衆議院議員選挙初当選(自民党公認)、94年新党さきがけ結成、細川内閣官房副長官、96年旧民主党結成、菅直人 氏と共に党代表就任、98年民主党結成、党幹事長代理、99年党代表、2005年幹事長、09年代表、09年9月衆議院選挙で民主党が勝利、大学卒としては初の理系出身の首相となる。10年6月2日「クリーンな民主党に戻したい」と首相辞任表明。6月8日同じ理系出身の菅直人首相就任で退任。祖父は首相を務めた鳩山一郎、父は外務官僚から政界に転じ外相などを務めた威一郎、弟、邦夫 氏も元総務相の衆議院議員という政治家の家庭に育つ。

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