ハイライト

低炭素社会で経済再生、雇用創出を(ジョエル・マコワー氏 / グリーナー・ワールド・メディア会長兼編集責任者)

2010.05.03

ジョエル・マコワー氏 / グリーナー・ワールド・メディア会長兼編集責任者

国際シンポジウム「地球温暖化と低炭素社会への選択~新グリーン成長戦略への日米中の役割~」(2010年3月10日、世界貿易センター(東京)など主催)基調講演から

低炭素社会で経済再生、雇用創出を

グリーナー・ワールド・メディア会長兼編集責任者 ジョエル・マコワー 氏
ジョエル・マコワー氏

 地球温暖化対策において残されている時間は少なく、私たちがこれからとるべき主要な道は低炭素経済であると思う。多くの面でビジネスコミュニティの方が政治主導者よりもいつもずっと先を進んでいる。米国でさえこのことはよく理解されていない。

 私の会社は「グリーン・ビズ・ドットコム(GreenBiz.com)」というものを出している。日々ニュースをカバーしているが、ここ5-10年間、企業がグリーンであることを成長やイノベーションのプラットフォーム(土台)とし、新しい製品や新しい市場を生み出して行こうとしているかを示すニュースがたくさん載っている。

 私が企業の行動を20年以上も前に研究し始めたとき、環境パフォーマンスというのは、環境部だけの問題だった。ところが、今では環境専門家が、建物や施設をどうやって冷暖房しているのか、製品やデザイン、寿命が尽きてからどうなっているのか、環境問題がいろいろな工業作業の工程やサプライチェーンの中でどこまであって、それをどうやって削減できるか、といったことに取り組んでいる。環境というものは企業の中でいろいろな部署にかかわってきているということだ。

 今直面している一番大きな問題は、持続可能で、グリーンで、責任あるビジネスをしているときに、どこまでやれたら十分なのか、上出来とはどういうことなのかということだ。アイデアであれ、技術であれ、変化を遂げていくためには一部標準や規範が必要だが、環境上の責任に関する標準や規範はまだない。企業がそれぞれ自分たちでそれを決めていくことができ、それが混乱を生み出している。私たちもどうやって彼らを比べればいいのか、どちらがいいかを比べられるような手法を持っていない。こうすれば十分にいいと説明し、合意できるような共通の言語がない。

 グリーンであるとはどういうことなのか、どういう意味を持つのかということが厳密には定義できていない。これが大きな課題となっていて、企業にとっても大きな壁となっている。企業に対する格付けやランキングがいろいろなところから出されている。例えばニューズウイークが数カ月前に作った環境パフォーマンスに関する格付けサイトがある。金融業界のランキングだ。

 NGO(非政府組織)の機構格付けとしてはクライメートカウントというものもある。非常に洗練された22のマトリクスを使って、102点の枠組みで採点している。そして、その結果をさまざまな形で大学生に発表し、そうすることで学生たちに企業に対する関心を持たせ、よりよい企業に学生がかかわっていけるようにしようとしている。

 また、サプライヤー(部品製造業者)側もさまざまな情報を要求されるようになってきている。例えばマクドナルドは、サプライヤーに対して何百という情報を提供させている。世界最大の小売業者ウォルマートは10万のサプライヤーに対して格付けをするための情報を提供させ、特に人とコミュニティー、それからマテリアル効率、エネルギー化、気候、そして天然資源といった評価軸で調べている。消費者グループや格付け会社、もしくは政府その他からの今まで聞かれなかったような質問にも答えなければならなくなってきている企業がたくさん出ていることから、何万という企業が関心を払い始めている。

 一つの例としては、グッドガイド・ドットコム(GoodGuide.com)というものがある。何十億という情報を何千というソース(情報源)から集めて、非常に洗練されたアルゴリズムを使って運営されている。フルーツジュースの情報発信の場合は、あるブランドをクリックすると、非常に詳しい格付け情報を商品に関して得ることができる。iPhoneを持っていれば、店でバーコードをスキャンすることによって、その企業の業績、商品の特徴、環境的な側面から見た情報を端末に呼び出すことができるようになっている。このように企業の情報が簡単に入手できるようになった。その情報を出したいかそうでないか、当の企業の意向はもはや問題ではなくなっているのだ。

 では、企業側はどういった行動をとっているか。企業側も真剣に業務を見直している。その際に気候変動、炭素、その他のマトリックスでビジネスの見直しをしているわけだが、企業がそういった取り組みをするということには2つの側面があると思う。まず1つ目は、その環境影響度について自ら情報を得るということだが、それだけではない。イノベーションの機会を自社のためにつくり出していることでもあるのだ。

 コカ・コーラは、事業の中で最大の気候変動の原因となっている業務は何なのか、温室効果ガスの排出量を示す「カーボンフットプリント」が一番高いのはどれなのかという分析を行った。一番カーボンフットプリントが高かったのは自販機とコンビニなどにある冷蔵庫だった。そこでNGOのグリーンピースと手を組み、他の主要企業ともパートナーシップを組み、よりグリーンな自販機を作った。1年半前の北京オリンピックでその自販機を使い始めた。そして現在、冷媒を換え、絶縁体の問題も解決し、省エネ度も3割改善した。また、温室効果ガスの排出量も99パーセント削減することを可能にした。これもすべてカーボンフットプリントが一番多いのはどの事業かということを見直すことから始まったわけだ。

 3M、マイクロソフト、グーグル、デュポン、インテル、マック、ゴールドマンサックス…。これらの企業の共通項は何だと思うだろうか。これらの企業は、もはやエネルギー企業といって差し支えないのだ。

 化学メーカーであるデュポンは化学物質を売るだけではなく、化学サービスを提供するようになっている。例えば55リットル缶の硫黄を売りっ放しにするのではなく、使用済みの硫黄を回収し、新品と取り替える。回収した硫黄は再生して、客や他の客にリースしている。そのようなビジネスを行うことにより、より少ない量の硫黄で利益を上げることが可能となる。デュポンはまた、ソーラーパネル用の商品も多数、提供している。

 企業が成功し、低炭素経済を実現するためには、効率を上げ、低炭素であるだけでは不十分だ。ベターでなければいけない。ベターと言ってもいろいろな定義がある。より安く作れる、使いやすい、質がよい、パフォーマンスがいい、エネルギー効率がいい、格好よく見える、家族の健康によい、などどんな商品かにより変わってくる。

 ポイントとしては低炭素化の需要を満たすことはもちろん非常に大切だが、それだけでなく商品やサービス、企業をよりよくするような要件を満たしているかどうかを考える必要がある。グリーンをすなわちベターにするためには、そこを実現させなければいけない。

 いずれにしても、残された時間は少ない。私たちのやるべきことの規模とスピードを高めなければならず、非常に難しい時期だが、イノンベーションという観点からは非常にワクワクする時でもある。皆さん方すべてが参画をしていく新しいビジネスのやり方を考え、それを実践していくことにより、経済を立ち直らせ、雇用を創出し、この大きな問題に立ち向かっていける非常にエキサイティングな時期に差し掛かっていると思う。

グリーナー・ワールド・メディア会長兼編集責任者 ジョエル・マコワー 氏
ジョエル・マコワー氏
(Joel Makower)

ジョエル・マコワー氏(Joel Makower)氏のプロフィール
カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム学科卒。クリーンテクノロジー関連の調査・出版会社「クリーンエッジ社」共同設立者兼社長で、持続可能性戦略を専門とするコンサルティング会社「グリーンオーダー」シニアストラテジスト(上級戦略家)も。1991-2005年企業の環境対策専門月刊誌「グリーンビジネスレター」編集者。著書に「Strategies for the Green Economy」など。持続可能な企業活動やクリーンテクノロジー関連の執筆者、ストラテジストとして、さまざまな企業に対しビジネス戦略と環境目標の両立を図る手助けをしてきた。

関連記事

ページトップへ