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21世紀の企業リーダー像とは(西口泰夫 氏 / 同志社大学大学院 客員教授、元京セラ会長 兼CEO)

2009.12.14

西口泰夫 氏 / 同志社大学大学院 客員教授、元京セラ会長 兼CEO

公開シンポジウム「科学技術と知の精神文化-新しい科学技術文明の構築に向けて」(2009年12月11日、日本学術会議、科学技術振興機構 主催)パネルディスカッションから

同志社大学大学院 客員教授、元京セラ会長 兼CEO 西口泰夫 氏
西口泰夫 氏

 長年、実業界で経営にあたってきたが、技術経営に論理性が必要と感じ、大学院に入り学んだ。技術経営で学位をとって現在、講演や大学で講義などをしている。

 11月14日の日経新聞に2009年4-9月の日本の主要産業の売り上げ実績が載っている。それを見ると電気機器と自動車・部品の二つの産業が断トツで売り上げが大きい。比率で見るとこの2産業で48%くらいを占めている。問題は利益面だ。電気機器で4,159億円、自動車・部品で294億円の赤字を出している。今、税収減が問題になっているが、この二つの産業で毎年納めていた税金は、数兆円に上る。これがなくなったわけだから税収減は当然のことといえる。現在、日本の経済に起きていることは2産業の出来事というより、さらに大きな問題である、と受け止めるべきだ。

 これら二つの産業の長期的な実績を営業率で見てみると、70年代からだんだん落ちてきて円高が一番進んだ93年に大きく落ち込む。その後自動車は、今年は例外として回復基調に入ってくるが、電気機器はその後もほとんど低迷状態が続いている。何か電気特有の問題が発生しているのではないかと感じざるを得ない。

 産業革命から1980年くらいまでは産業化時代ともいうべき時代が続き、この後、情報化時代が来る。電気機器産業が低迷状態を抜け出せないことと、この情報化時代への移行がリンクしているのではないかと考えられる。情報化技術は大きな変化があり、かつてはアナログだったのが完全にデジタルとなり、マイコンが使われるといったように、いろいろなことが変わった。設計そのものが変わっている。製品のアーキテクチャ構造、産業の構造、さらに利益が落ちる場所が完成品からそうでないところに移っている。

 結論から言うと日本が非常に得意とした時代から、得意ではない時代、むしろ中国や韓国、台湾といったところが十分やっていける、かえってそういう国の方が得意である時代に移った。技術の変化がこうした変化を引き起こしたと言える。それが情報化時代であり、日本の電気機器産業がそれによって大きな影響を受けた、と考えるべきだろう。ということはこの変化はほぼ後戻りしない。また、いつか景気がよくなるだろうということはありえない。そう考えなければいけない。

 それでは情報化時代に世界の電気機器産業はすべて駄目になったかというと、そうではない。売上額1兆円以上の世界の主要ICTベンダーが設立された年を見てみると分かる。日本は、NTTデータというNTTから分かれてできた企業を除くと、1960年以降新たに生まれた企業が一つもない。米国はマイクロソフト、アップル、インテルなど、アジアでも韓国のサムスン、LG、台湾のホン・ハイ、エイサーなど情報化時代になってからいろいろな会社が生まれている。日本ではICT産業が全く成功していないということだ。

 どうしてこういうことになったのか。日本の産業というのはどちらかというと追随型ということがある。産業化時代には米国がどんどん新しい産業を創造した。日本はこれを追随し、あるとき追い抜いた。しかし、情報化時代には日本は米国を追随していない。追随するものがなくなると途端に日本は弱くなる。

 では、ポスト情報化時代に日本は何か新しいことができるだろうか。真のグローバル産業を創造できるか、真のグローバル企業になれるかが最大の課題になる。そのためにはもっともっと論理的な経営が必要だろう。一生懸命モノを作るだけでは、多分これからは駄目だ。モノではなく事業を作るという考え方が必要となる。それには経営を考える社会科学分野の産学連携が重要ではないだろうか。

同志社大学大学院 客員教授、元京セラ会長 兼CEO 西口泰夫 氏
西口泰夫 氏
(にしぐち やすお)

西口泰夫(にしぐち やす)氏のプロフィール
1972年大阪教育大学大学院修士課程修了、75年京セラ入社、87年取締役電子部品事業本部長、89年常務取締役情報通信本部長、92年代表取締役専務、97年代表取締役副社長、99年代表取締役会長兼CEO、2007年HANDY代表取締役社長、同志社大学客員フェロー、09年同志社大学大学院総合政策科学研究科総合政策科学専攻技術・革新的経営研究コース博士課程(後期課程)修了、同志社大学大学院ビジネス研究科客員教授。博士(技術経営)。著書に「技術を活かす経営」(白桃書房)など。

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