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世界潮流と日本の進路-21世紀に期待される科学技術外交-
第1回『電気自動車と再生可能エネルギーがリンクすると』

日本総合研究所 会長、三井物産戦略研究所 所長 寺島実郎 氏

掲載日:2009年4月9日

シンポジウム「新時代の科学技術外交」(2009年3月23日、科学技術振興機構 主催)来賓あいさつから

日本総合研究所 会長、三井物産戦略研究所 所長 寺島実郎 氏

寺島実郎 氏

 

科学技術におけるパラダイム転換とは一体何だろうかということをここのところ自問自答している。米オバマ新政権がスタートして、グリーン・ニューディールなる新しいキーワードを我々に突きつけてきている。グリーン・ニューディールは、果たしてIT革命を超えるような産業技術論的な文明の転換点みたいなもの、マグニチュードのあるような展開をもたらすだろうか、というのが私の強い問題意識となっている。

オバマ大統領は就任演説において「われわれのエネルギーの使用方法がわれわれの敵を一層強大にし、地球を脅かす」という表現を持ってきて、「エネルギーの使用方法を大きく変えなければいけない。再生可能エネルギー、太陽、風力、バイオマスによって米国のエネルギー体系を変えよう」という挑戦のメッセージを提起している。

そこで、彼の言う「われわれの敵」というのは一体何を意味しているのか。米国のエネルギーが安全保障の視点から危うい状態にあると強く意識していることが分かる。チャベスとイランと言っていいと思う。ベネズエラのチャベス政権が米石油資本の資産を接収したり、あるいは外交官、大使を追放したりするような強烈な反米政策を展開している。おひざ元の中南米が非常に危うくなって、中東、湾岸の状況もイラクの状況は言うまでもなく、イランに対しても思うに任せぬ状況にある。

そういう中で、米国のエネルギー戦略は、石油需要の中東に対する依存度は常に20%以下という水準をしっかり守っている。中東に石油の権益は持っているけれども、仮に中東から一滴の石油が来なくなっても米国は回るという状況をしっかり守っていて、4割は国内生産、4割は中南米、従って8割は北・中南米で賄うという状態を続けてきている。それでも、おひざ元の中南米に新たに不安定な要素が見えてくると、エネルギーの構造を変えなければいけないという強い問題意識を持つ。中東と、ベネズエラからは17%の石油を依存しているが、我々の敵を強大にすると言っている文脈の背景にあるのは、彼がこの17%を気にしているということだ。

もう1つ、「地球を脅かす」というのは、言うまでもなく環境問題だ。京都議定書から離脱して以降の米国は、温暖化あるいは地球環境問題に対する新しいルールづくりの中で、国際社会の中である種の孤立感を深めている。米国なりの行動計画を示さなければいけないというオバマ政権の強い意思がそこに存在しているということがよく分かる。そこで、米国の戦略として、太陽、風力、バイオマスで3年以内に現在の供給力を倍にするというわけだ。2025年までにはそれを電力供給の25%にまで持ってくるという目標を掲げて、戦略意思を非常に明確にした形で研究開発に立ち向かおうということを呼びかけ始めている。私は日本の総合エネルギー調査会などに参画していて、エネルギーの専門家と意見を交換する機会が非常に多いが、専門家ほどグリーン・ニューディールに対しては冷ややかだ。

米国の一次エネルギー供給の78.8%は化石燃料。原子力(11.7%)と合わせて9割を超している。再生可能エネルギーはというと、水力、地熱を入れて9.5%。オバマが盛んに力説している太陽光、風力、バイオマスはそれぞれ0.1%、0.4%、5.0%という比重だ。カリフォルニアのように、E10といって10%以上ガソリンに混入して車を走らせるという状況が進んでいるから、バイオマスは意外に比率が高くて5.0%。それでも太陽光、風力、バイオマスは合わせて5.5%だ。これを3年以内に10%を超すようなところまで持っていくという話に現実性があるのか、とこの分野にかかわっている人間ほど首をかしげる部分がある。しょせん小型分散型の発電、エネルギー供給にすぎない、その他ネガティブな要素も含めて、冷ややかにならざるを得ない要素があるということだ。

ところが、専門家の話というのは時に疑う必要があるというのが、私がここで申し上げたいポイントだ。ひょっとしたら、新しい科学技術のパラダイム転換点のようなところにわれわれ自身が差しかかっているのかもしれないという予感がなくもないという部分がある。これから半年から1年ぐらいの間に具体的にどういう政策論が展開されてくるかによって、大きくシナリオが変わるだろうとしか言いようがないが、そこで注目したい要素が電気自動車だ。

くしくも政府が資金を突っ込まなければ存続できないというぐらいのところまで米国の自動車産業がのたうち回っている。T型フォードというのがこの世に生み出されたのが1908年で、これはガソリンをたいて走る、エンジンを動かす車、その大量生産の先頭を走ったモデルだった。大量生産・大量消費の自動車文明社会をつくることによって、米国という国は、「20世紀は米国の世紀だ」という表現が登場してくるぐらい世界の産業社会の中で一気に台頭してきた。要するに石油をたいて走る自動車というものの体系をつくり上げた。

その石油だが、1859年という年に、ペンシルベニアで初めて油田が発見された。1870年にロックフェラーがスタンダード・オイルという会社をつくって、石油の時代が到来してくる。19世紀の半ばにペンシルベニアで石油が発見され、それがテキサスの油田というところまでつながっていくわけだが、米国の石油資本が、T型フォードを初めとする内燃機関系の自動車の大量生産の仕組みを懸命に裏でサポートしたことが、文献を読んでいるとよく見えて来る。石油と自動車をリンクさせることによって20世紀の米国を開いていったということがよく分かる。

その内燃機関系のエンジンを稼働させた自動車産業が行き詰まって、これから自動車はどうなるといったときに、それが燃料電池であれ、ハイブリッドであれ、大きな流れは電気で動かす自動車という方向に向かっていることが見えて来る。その電気自動車がモータリゼーションの主力を形成していくイマジネーションの中で、再生可能エネルギーはどう機能するだろうかということを考えてみたならば、どうか。小型分散型にすぎないという再生可能エネルギーが、逆に、小型分散型であるからこそ、モータリゼーションを支える電源供給にとって意外なほど有効に機能するのではないかという視点が1つ見えて来る。それからもう1つ、小型分散をIT技術でつなぐ、つまりネットワーク化することによって効率的に電源を供給するシステムを確立して行こうとする動きが、スマートグリッドという次世代の送電網の技術開発という形で進んでいる。

グーグルがGEと組んでスマートグリッドを支えている。グーグル・パワーメーターというものを開発して、双方向の効率的な電源供給のシステムを高度化していくような研究開発に立ち向かっているのだ。電気自動車と再生可能エネルギーとITとが相関し、相乗効果をもたらしながらスパークしたならば、我々が考えているのとは違った再生可能エネルギーの可能性みたいなものが見えてくるのかもしれないという気がするということをまず申し上げておきたい。

この再生可能エネルギーに米国が力を入れれば入れるほど、実は、日米産業協力というところに落ちついて来る。なぜならば、それぞれの分野について厳密に資料を積み上げていくと、日本サイドに技術的優位性が集積されていると言える部分がある。従って、きょうのテーマである科学技術外交という意味のど真ん中で、日米の産業科学技術協力がグリーン・ニューディールというキーワードのもとに展開されていかざるを得ないシナリオみたいなものが見えてくる気がする。

先ほど私は、グリーン・ニューディールはIT革命を超えるかという表現をしたが、IT革命とは何だったのかということを視界に整理しながらグリーン・ニューディールをとらえ直すと、また見えてくる映像が違ってくる。

私は1987年から97年まで米国の東海岸で仕事をして来た。85年にプラザ合意、89年にベルリンの壁が崩れて、91年にソ連という国が崩壊して、まさに80年代末から90年代初頭にかけての米国に関する議論は、今と結構似ている。米国衰亡論一色だった。1975年のサイゴン陥落以降、ベトナムシンドロームを引きずって、85年のプラザ合意で一気に円高にシフトして、ソニーがコロンビア映画を買ったとか、三菱地所がロックフェラーセンターを買ったとか、米国を買い占める日本ということが盛んに言われていたのが80年代末だった。

ところが、1990年代、冷戦が終わったという時代から今世紀に入るまでの10年間、我々は米国の衰亡を目撃しただろうかというと、そうではない。むしろよみがえる米国を目撃することになった。登場してきたキーワードがIT革命だ。今や猫もしゃくしもインターネットという時代が来ているが、IT革命とは一体何だったのかという科学技術的パラダイム転換をもう1回思い起こす必要があるという話だ。

私が1990年代に書いた本の中で、やがて、技術の知識に明るい歴史家が登場して、IT革命とは、米国が主導した冷戦後の軍事技術のパラダイム転換だったということに気づくときが来るだろうと書いたが、まさにそうだった。IT革命、情報技術革命というのは、人類の歴史を貫いて続いていたとも言える。のろしの登場だって、電信電話機の登場だって、ある時代のIT革命だったわけだ。今われわれが生きている時代のIT革命なるものをあえて特色づけるならば、情報ネットワーク技術革命というか、その象徴として登場してきたのがインターネットだったと言っていいだろうと思う。

インターネットの基盤技術の研究開発がスタートしたのが1962年だ。ランド・コーポレーションのパール・バランという研究者が、国防総省の委託を受けて、今日われわれがインターネットと呼んでいるパケット交換方式情報ネットワーク技術の基盤技術のコンセプト・エンジニアリングをスタートさせた。何のためにというと、冷戦の時代の産物だったわけだ。冷戦の時代において、中央制御の大型コンピューターをいかに高性能化しても、そこにソ連から核攻撃を一発受けて中央コンピューターが破断したならば、すべての防衛システムがブラックアウトするから、要は1つの回路が物理的に遮断されてもやわらかく情報が伝わるような仕組みをつくっておく必要があるということから研究開発がスタートしたのが、インターネットの基盤技術だった。それがスタンフォード大学を初めとする大学の研究者たちの力を得ながら、1969年にペンタゴンのARPAネットという形で完成するわけだ。

そのARPAネットが、1980年代末、冷戦が終わり、まず学術ネットワークとリンクし、厳密な意味で商業ネットワークに技術開放がなされてリンクしたのは1993年だった。今からわずか16年前の話だ。この16年間で世界が変わり、猫もしゃくしもインターネットの時代が来た。最近はユビキタスという言葉も登場し、はたまたクラウドコンピューティングという言い方さえ出てきて、次世代ICTがまさに議論されなければいけない局面だが、わずか16年間で世界にパラダイム転換が起こった。

そこからシリコンバレー伝説が生まれ、IT革命が進んで、続々とIT関連の有望な企業が株式公開を成功させ、新しいビジネスモデルを怒濤(どとう)のごとくつくり出していくという流れをつくることによって、80年代末に衰亡論一色だった米国に関する議論は、90年代、ITでよみがえる米国というストーリーに変わって、21世紀に入ってきたと言っていいだろうと思う。

なぜそういうことを言っているのかというと、今われわれがまさにその入り口のところで耳にしているグリーン・ニューディールなるキャッチフレーズを、どうとらえるかということにかかわるからだ。「あんな話は大した話じゃありません」、「しょせん再生可能エネルギーのマグニチュードなんか大したものじゃありませんよ」とたかをくくって見るのか、「いや、ひょっとしたら」と考えるのか、だ。クリントン政権の第1期に、アル・ゴアが副大統領として情報スーパーハイウェイ構想というのをぶち上げたときに、日本のこの分野の専門家の話を聞いたら、「いや、あれは大した話じゃありません。日本の情報ハイウェィ構想をパクっているんですよ」という程度の話だった。ところが、インフラにおける情報スーパーハイウェイ構想の推進とパケット交換方式情報ネットワーク技術のパラダイム転換というのがリンクし始めたとき、われわれは、あっという間に怒濤のようなIT革命の潮流にのみ込まれることになったわけだ。

それと同じように、今グリーン・ニューディールという言葉はまだ片言隻句でしかない。それを裏づけるような大きな政策構想力が展開されているわけではない。しかし、電気自動車と再生可能エネルギーがリンクし、それがITによってさらに相乗効果をもってスパークしたときに、ひょっとしたら何かが変わってくるのかもしれないな、という予感がある。

再生可能エネルギーは、ドイツや北欧のように相当程度に先行している国もあるが、全体感からいうと、まだ清涼飲料水的な話題ではあっても主食にはならないというあたりをさまよっていると言っていいと思う。ベストミックスでこういうものはバランスよく考えなければいけないが、モータリゼーションと電源供給というところとがリンクすることによって、再生可能エネルギーの意味が1970年代とは大きく変わってきているということにも気がつかなければいけない。そんな気がする。

( 第1回 | 第2回 )

日本総合研究所 会長、三井物産戦略研究所 所長 寺島実郎 氏
寺島実郎 氏
(てらしま じつろう)

寺島実郎(てらしま じつろう)氏のプロフィール
北海道札幌旭丘高校卒、1973年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産入社。米国三井物産ニューヨーク本店情報企画担当課長、同ワシントン事務所長などを経て、99年株式会社三井物産戦略研究所所長、2001年財団法人日本総合研究所理事長、06年日本総合研究所会長。早稲田大学アジア太平洋研究センター客員教授。09年4月から多摩大学学長も。文部科学省中央教育審議会委員、経済産業省情報セキュリティ基本問題委員会委員長、内閣官房宇宙開発戦略本部宇宙開発戦略専門調査会座長なども兼任。「二十世紀から何を学ぶか」(新潮選書)「能力のレッスンⅡ-脱9.11への視座」(岩波書店)など著書多数。

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