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交通事故ゼロの社会目指して

日本学術会議・事故死傷者ゼロを目指すための科学的アプローチ検討小委員会 委員長、東京農工大学大学院 教授 永井正夫 氏

掲載日:2008年8月8日

安全工学シンポジウム2008(2008年7月10日、日本学術会議総合工学委員会、安全工学シンポジウム2008実行委員会 主催)報告から

日本学術会議・事故死傷者ゼロを目指すための科学的アプローチ検討小委員会 委員長、東京農工大学大学院 教授 永井正夫 氏

永井正夫 氏

 

交通事故による死者数は、1993 年以降、1万人を超す年が続き第2次交通戦争と言われた。その後徐々に減ってきており2007年には5,744人と減少しているが、死傷者の数は年間100万人にも上り、物損事故は800万件に達する。

海外に目をやると、世界保健機関(WHO)の推計によると、世界の交通事故死は年間120万人にも上ると言われる。

中国は、さらに悲惨な状況にあり、年間10万人が交通事故で亡くなっている。米国で4万人、欧州でも4万人が毎年亡くなっており、今後、発展途上国のモータリゼーションが進めば2020年までに全世界の交通事故による死者は65%も増加するという。こうした発展途上国での交通事故増加は、これらの地域の経済発展を阻害すると心配されている。1997年には、スウェーデン議会で交通安全戦略ビジョンゼロが採択された。

日本学術会議の「工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会」では、交通事故が社会に及ぼす影響の大きさを重視、「事故死傷者ゼロを目指すための科学的アプローチ検討小委員会」を立ち上げ、総合的な取り組みが必要とする提言「交通事故ゼロの社会を目指してをまとめ、6月26日に公表した。

究極ゼロ化への第1歩として、10年で10分の1に減らすという厳しい目標を立て、今後10年間で実施すべき施策などをロードマップという形で提示している。

提言の第1は「映像記録型ドライブレコーダー」の活用である。1台数万円するが既に15万台の車が搭載している。衝突前後の走行速度や運転者のブレーキ操作タイミングが記録されるため、速度違反の程度や、車体の衝撃吸収量を推定することが容易となる。また事故に至る前の約10秒間に、運転者がどのようなブレーキ、ウィンカー、ハンドル操作をしたかどうかを知ることができる。記録された映像と組み合わせれば、周辺の交通環境に対して運転者の操作が正常であったかどうか、ヒューマンエラーがどの程度の内容であったかが克明に記録される。

こうした車搭載装置の活用により事故原因が的確に分析できるようになれば、道路交通における「ひと、みち、くるま」の安全対策にも的確に反映させることが可能になる。

そのほか、事故を未然に防ぐための「ヒューマンファクタ基礎研究の推進」、人間はミスをするものであるという前提にたった「予防安全技術の研究開発と普及の促進」さらに「交通安全意識向上・教育の徹底化」の必要を提言した。

交通事故のない社会を目指していくためには、自動車交通の特殊性を考え、事故はやむを得ないとか、事故に遭ったら運が悪いといったこれまでの考えを改め、あらゆる努力をしようという国民的なコンセンサスが最も重要である。

日本学術会議・事故死傷者ゼロを目指すための科学的アプローチ検討小委員会 委員長、東京農工大学大学院 教授 永井正夫 氏
永井正夫 氏
(ながい まさお)

永井正夫(ながい まさお)氏のプロフィール
1948年生まれ、72年東京大学工学部機械工学科卒、77年同大学院工学系研究科博士課程修了、89年東京農工大学工学部教授、04年より現在まで同大学院共生科学技術研究院教授、この間工学府評議員。工学博士。「安心・安全のための移動体センシング」「ドライブレコーダ活用とヒヤリハット分析」「高齢運転者のための運転支援システム」などを研究テーマに。

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