サイエンスポータル SciencePortal

コラム - ハイライト -

大切なのは確たる直感を信じること

コーポレーション・フォー・ナショナル・リサーチ・イニシアチブ会長、CEO、社長 ロバート・カーン氏

掲載日:2008年5月9日

日本国際賞受賞記念講演会(2008年4月22日、国際科学技術財団 主催)講演から

コーポレーション・フォー・ナショナル・リサーチ・イニシアチブ会長、CEO、社長 ロバート・カーン氏

ロバート・カーン氏

 

1966年にマサチューセッツ工科大学を休職し、Bolt Beranek and Newman Inc(BBN)という小さなコンサルティング会社でコンピュータネットワーキングを研究するようになった背景や動機についてお話しします。当時、コンピュータネットワーキングが研究成果のあがる分野になると考えていた専門家はほとんどいませんでした。基本的に前人未踏の分野でしたから、私は知的な刺激を受け、これは社会に資する可能性が大いにあると感じました。応用数学のバックグランドを持つ者が、実際のシステム構築の仕方を知る上で、この選択は重要な現実的ステップでした。よりすぐれた教師や研究者になるために、私はその経験が役立つと考えたのです。ところがふたを開けてみると、私は全く異なるキャリアを歩むことになります。

私の考えでは、コンピュータネットワーキングの起源はARPANETにさかのぼります。これは高等研究計画局(ARPA、後にDARPA)のリーダーシップと資金提供のもとに創設された米国の先駆的パケットネットワークです。私は幸いにも、このプロジェクトに携わるBBNの一員として、ARPANETのシステム設計で主導的役割を果たすことができました。この革新的なリアルタイム分散システムを構築する上で直面した課題についてお話ししようと思います。興味深いのは、Eメールやファイル転送など、コンピュータネットワーキングの研究者がもともと開発したARPANET上の初期アプリケーションが、インターネット環境にほぼそのまま引き継がれたことです。

後にDARPA(防衛高等研究計画局)に加わったとき、私はARPANETの成功に勢いを得て、ほかに2つの異なるパケットネットワーク、すなわちパケット無線ネットとパケット衛星ネットの開発にかかわりました。これらさまざまなネットワーク間の大きな違いは、他のネットワークを相互接続する際の非互換性の解消にあるという、もっと一般的な問題の存在を明らかにしました。パケット無線ネットとパケット衛星ネットは、技術的な意味でARPANETに接続されましたが、あるネットワーク上のコンピュータをどのようにして他の接続ネットワーク上のコンピュータと通信させるかという基本的な問題は未解決のままでした。この時期にはパーソナルコンピュータやローカルエリアネットワークが業界で開発中で、相互接続したコンピュータのパワーをいずれ一般の人々に供するに当たって、この開発業務は特に重要なものでした。

TCP(Transmission Control Protocol)プロトコルは、インターネットアーキテクチャの開発に関するサーフ博士との協力から生まれました。彼と最初にした仕事は、ARPANETのコンピュータ接続を検証し、接続されたコンピュータにとってのARPANETのパフォーマンスを測定することです。その時の経験、また彼にはコンピュータサイエンスのバックグランドがあることから、コンピュータプロトコルを再考し、各種オペレーションシステムにこれを組み込む手立てを検討する上で、サーフ博士ほど理想的なパートナーはいませんでした。

私の研究生活を振り返って強調したいことは直感を信じるということです。1960年代、多くの専門家はコンピュータネットワーキングがいずれ大きな成果をもたらすとは考えていませんでした。大学などの閉じた世界でやりとりをしているだけで、センター間のやりとりに関心はありませんでした。遠隔処理などをやると何かまずいことが起きる、と多くの人たちは考えていたのです。「コンピュータネットワーキングなどに手を付けると将来を棒に振る」、「袋小路に入ってしまう」といったアドバイスを受けながら、決断しなければなりませんでした。私は自らの直感を信じ、その分野の困難な課題に立ち向かうことで、目標を達成し、ほかの人々の疑念を克服することができました。

DARPAが数十年にわたってこれら初期のネットワーキング事業をリードし、その資金を提供してくれたことは特に幸運でした。私たちの成功は、進歩を促す適切なサポートが得られたこと、そして効果的なチームワーク、確固たる直感に頼った意思決定のたまものです。そうした決定・選択を実際に検証する機会を得た私たちは、何が機能し、何が機能しないかの実例から学ぶことができました。

インターネットが今後も革新的な人々に導かれてその能力を進化させ、世界をより住みやすい場所にすることに貢献してくれることを願っています。

コーポレーション・フォー・ナショナル・リサーチ・イニシアチブ会長、CEO、社長 ロバート・カーン氏
ロバート・カーン氏
(Robert E. Kahn)

ロバート・カーン(Robert E. Kahn)氏のプロフィール
インターネットのネットワーク設計概念と通信プロトコルの創成の業績により、ヴィントン・サーフ博士とともに2008年の日本国際賞を受賞した。サーフ博士ともども「インターネットの父」と呼ばれている。1938年生まれ、60年米ニューヨーク市立大学シティカレッジ卒、64年プリンストン大学博士課程修了、博士号取得、マサチューセッツ工科大学助教授、66年Bolt Beranek and Newman Inc入社、72年防衛高等研究計画局(DARPA/IPTO)テクニカルオフィス・プログラムマネージャ、79年防衛高等研究計画局(DARPA/IPTO)局長(理事)、86年から現職。

ページトップへ