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日本の大学院教育改革は待ったなし(相澤益男 氏 / 総合科学技術会議 議員、前東京工業大学 学長)

2008.03.17

相澤益男 氏 / 総合科学技術会議 議員、前東京工業大学 学長

CSTインタナショナルサロン(2008年3月12日、科学技術振興機構 主催)講演から

総合科学技術会議 議員、前東京工業大学 学長 相澤益男 氏
相澤益男 氏

 日本の科学技術政策をグローバル展開させることが今求められている。

 科学技術政策は、どの国にとっても重要、という認識が共有されるようになって来た。それぞれの国固有の状況があるため、見かけ上は幾分違うようにも見えるが、基本的には二つのことに主眼が置かれている。持続的な成長を可能にすることと、国際競争力の強化だ。持続的な成長の前に「人類全体が」という表現が付いていたりしているものの、これは建前で、実際は国の持続的成長を目指すという意味と考えた方がよい。だから「国際競争力を強化しなければならない」となるわけだ。

 資源のない日本は、特に人材育成に重きを置かざるを得ない。資源がないので知恵で生きていくほかないからだ。

 一方、環境と経済の両立が今年夏のサミットの中心課題に位置付けられているように、地球規模の課題が深刻化し、グローバルな協調が欠かせなくなって来た。いまやひとつの技術だけで地球規模の問題解決は不可能という時代になっている。宇宙開発のように大変お金がかかる巨大科学は、サイエンスという名目で進められているが、安全保障に関連し、この面でもグローバル協調の重要性が増している。豊かな創造性とともに、グローバルな視野を持つ、多様なイノベーティブ人材の育成、確保が求められているわけだ。

 世界の頭脳を日本にひきつけることが必要になっているのだが、現実はどうか。人材の国際的な循環は、米国、欧州、中国・インドを中心とするアジアの3核構造になっており、日本は取り残されていると言える。日本が人材の国際的好循環の中に入れないのはなぜか?

 最近、博士号をとった研究人材の外国に行く数が少なくなっている。日本はずっと大学院生を研究戦力として使っていた。これでは大学院生の教育がおろそかになるということで、ポスドクと呼ばれる博士号取得者を戦力にする形をとり始めた。この結果、ポスドクは国内に職を求める傾向が強くなり、外国に行く人が少なくなってしまった。かつてポスドクは、何が何でも外国に研究の場を求めるほかなかったのが、国内にとどまってもよくなってしまった。日本国内でポスドクの数があまるような事態になっている。

 外国に行って激しい競争の中で戦い、その後日本に戻るなり、他に活躍の場を求めるようなポスドクを増やさないと、日本が、人材の国際的好循環から取り残されている状況は変えられない。

 日本の大学院教育は極めてあいまいなままに来てしまった現実がある。企業からは「大学院を出ても役に立たない」、「もっと視野を広げてもらわないと」などと言われている。外国に行こうするような人は伸びる可能性が高いのだから、産業界も積極的にこの問題にかかわって、根本的な解決を図らないことには世界の頭脳の中に入れてもらえない。

 ポスドクの側も、アカデミックなポジションにこだわるところがある。博士号取得後5年程度で見切りをつけて、もっと幅広いキャリアパスを追求すべきではないか。産業界にも考えてもらわないといけないが、大学院もこれまであいまいだった人材育成という目的に向けて、もっと現実に適応できる教育をしなければならない。根本的な解決が急がれている。

 大学院教育の改革は待ったなし、だ。

総合科学技術会議 議員、前東京工業大学 学長 相澤益男 氏
相澤益男 氏
(あいざわ ますお)

相澤益男(あいざわ ますお)氏のプロフィール
1971年東京工業大学大学院博士課程修了、80年筑波大学物質工学系助教授、86年東京工業大学工学部教授、94年東京工業大学生命理工学部長、2000年、東京工業大学副学長、01年東京工業大学学長、06年1月総合科学技術会議議員、2005年3月から2007年4月まで国立大学協会長、専門は生命工学、バイオエレクトロニクス。

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