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防災政策にもイノベーションが必要

防災科学技術研究所 災害リスクガバナンスプロジェクト ディレクター 長坂俊成 氏

掲載日:2007年12月28日

シンポジウム「災害リスクガバナンスで高める地域防災力」(2007年12月7日、防災科学技術研究所 主催)講演から

防災科学技術研究所 災害リスクガバナンスプロジェクト ディレクター 長坂俊成 氏

長坂俊成 氏

 

災害対策というものを考える場合、従来は闘うべき敵が、自然災害で言えば地震であれば、揺れがどうか、津波が来るかといったハザードの方をどう解明していくかということが研究の中心に展開されてきている。しかし、実際には地震、津波、洪水などが発生した場合、それが地域の社会や個人の生活にどういう影響を与えるかがあまり研究されていない。工学的なリスク評価をする場合、例えば建物の倒壊率、人命などについての被害推定がなされるが、しかし、人々の中には避難ができる人もいればできない人もいる。逃げれば助かるといった場合もある。しかし、そこまで考慮したリスク評価はまだまだ弱い現状にある。

近々では、新潟中越沖地震が起きているが、国は闘うべき敵を認識していなかった。災害リスクというのは、何時どこで起きるか分からない不確実性を持っている。これといかに闘っていくかが、地域防災力を高めるかぎになる。

2つめは、個人、社会の災害リスクへの対応力というものが、もろいということだ。特に少子高齢化社会ということで、地域社会の共助がなかなか機能しない。例えば、定年退職後に若干ローンが残っている人が、被災後にどう立て直すかなどライフステージにおいてその人が置かれた社会、経済的な状況によって、災害によって受ける状況は異なってくる。

3つめは、被災後の回復可能性について非常に不安が高まっていることだ。この臨時国会で、被災者の生活体験支援法の改正が行われ、住宅本体にも適用され、年収の基準が撤廃されるといった改正がなされた。個人がリスクと闘っていく場合、地震であれば保険に入っておくのが予防的な防災対策の選択肢として出てくる。しかし、実際に地震が起きた場合、そういう政策的手当というものが果たして自分にどこまで適用されるのか、またその制度が適用された場合、どこまで元の生活に戻れるのか、戻れるとしたらどういう生活水準になってしまうのかを、地震が起きる前からきちっと認識している仕組みが社会にないという問題もある。

少子高齢化に加え、地域によっては限界集落という問題も起きている。水害を例に取ると、古くから水害と付き合ってきて、ある程度の水害リスクを地域の知恵で社会が受容して、対策を講じている地域もある。

社会と経済、文化との相互依存性ということでお互いさまざまにかかわり複雑化している問題もある。地元の中小企業に勤めていた人が被災し、さらにその企業が事業を継続できないということになると、雇用が失われ、そこから引っ越していかなければならなくなるといったことが起きる。それをうまく食い止めれば、事業を継続させ、地域社会の崩壊も防げるという形で、一つの対策が他の対策とも有機的にリンクしたものになる。こうしたことを考慮した防災政策を再構築していかなければならない。社会構造の変化に対応し、リスクの不確実性とも闘うという視点から今までの防災政策を再構築していかなければならないと考えている。

われわれは防砂政策のイノベーションというものが必要で、それには2つの視点が重要だと考えている。一つは多元的なネットワークを構築すること。防災にかかわる主体の多様性とそのネットワークの多元性を活かし不確実性に対処しようということだ。

もう一つが、ここの防災対策を包括的にとらえ、防災以外の各種政策との関係を考慮して対策の統合化を図ることが必要と考えている。

多様な主体の社会的な相互作用、つまり災害リスク情報に基づくリスクコミュニケーションと社会ネットワークの形成による協働を通じて、災害リスクを統治する。「災害リスクガバナンス」による地域防災力の向上が必要だと考えて、具体的な研究を進めている。

防災科学技術研究所 災害リスクガバナンスプロジェクト ディレクター 長坂俊成 氏
長坂俊成 氏
(ながさか としなり)

長坂俊成(ながさか としなり)氏のプロフィール
1962年生まれ、87年中央大学法学部政治学科卒業、99年筑波大学大学院経営政策科学研究科修了、2000年慶應義塾大学大学院政策メディア研究科助教授(特別研究)、04年防災科学技術研究所総合防災研究部門主任研究員、06年から現職。災害リスクガバナンスやeコミュニティプラットフォーム(地域社会の情報共有や協働を支える社会的な情報基盤)を活用した新たなコミュニティ形成などに関する研究に取り組んでいる。日本リスク研究学会常任理事、地理情報システム学会理事も。

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