ハイライト

温暖化ガス排出削減のために何ができるか(安井 至 氏 / 国際連合大学 副学長)

2007.08.08

安井 至 氏 / 国際連合大学 副学長

講演会「海から知る地球温暖化」(2007年8月1日、海洋研究開発機構 主催)講演から

国際連合大学 副学長 安井 至 氏
安井 至 氏

 地球温暖化にとって、この5、6月は実に衝撃的な月であった。昨年のスターン報告以来、政治の世界では、地球温暖化を言わないと票が取れなくなってしまっている。米国のブッシュ大統領も、気候変動に関する国際連合枠組条約・京都議定書に戻るのではないかということが言われている。次は民主党の大統領になる可能性が高く、京都議定書加入という手柄を民主党大統領に取られるのは嫌だからだ。世界はそういうところに来ているが、日本は世界的に見ると遅れているところがある。

 温暖化ガスは明日から排出量を減らせばいいと思われるかもしれないが、そうではない。燃費の悪い車を今日買ったとすると、その車は15年間、どこかで走り続ける。自分が5年で燃費のよい車に買い換えたとしても、燃費の悪い車が世界のどこかでさらに走り続けるわけだ。

 スターン報告は経済界に意外に大きなインパクトを与えている。新しいビジネスになると思い始めているわけだ。米国の自動車メーカーは日本、欧州の自動車メーカーに押しまくられているが、その米国の自動車業界も温暖化対策を好機ととらえ、新しいものを作り出せるのではないか、と考えている。これに対し、日本の産業界の動きは鈍い。やっと景気が回復した、とホッとしているというのが実態ではないか。

 日本のエネルギー消費の長期トレンドを見ると、1960年ごろ、国内総生産(GDP)はやっと日本人1人当たり5,000ドルに迫り、その後のいざなぎ景気などを経て、13,000ドル程度になった。しかし、そのためには、エネルギー使用量もほぼ比例し、3倍程度増加している。ところが、その後第一次石油ショックが起きて、1987年ごろまでは、エネルギー消費を増やさないで経済成長だけをしている。この間の省エネ努力は相当なものであった。しかし、バブル経済に伴って再び消費エネルギーは増加、1994年まで増え続けた。そして、再度、省エネの時代に突入した。

 どうやら、その気になれば、省エネはできるようだ。トップランナー方式の効果を見ると、本気になって競争をしたときのみ、効果が出ている。これからは、効率2倍を目標とする技術の開発を目指して、中国などを含めた省エネ大競争時代になるだろう。

国際連合大学 副学長 安井 至 氏
安井 至 氏(やすい いたる)

安井 至(やすい いたる)氏のプロフィール
1945年東京生まれ、68年東京大学工学部合成化学科卒業、73年東京大学大学院博士課程修了、工学博士、90年東京大学生産技術研究所教授、96年東京大学国際・産学共同研究センター長併任、2003年から現職。専門は、セラミックス、ライフサイクルアセスメントなどによる環境総合評価法。

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