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アーカイブ - レポート - 「科学技術政策世界の動き」欧州編

第1回「環境政策と技術で世界をリードする国ドイツ」

科学技術振興機構 研究開発戦略センターフェロー 高野良太朗 氏

掲載日:2009年10月20日

ドイツは近年世界的な問題となっている地球温暖化・気候変動対策の分野において先進的な取り組みを続け、国際的な注目を集める国である。今回は環境先進国として知られるドイツの気候変動対策とその成り立ちの過程について紹介・解説したい。(以下は個人的見解によるものであることを了承されたい)

 

ドイツの気候変動対策の歴史

ドイツの環境保護に対する意識の高まりは1960年代ルール工業地帯での煤(ばい)煙による公害から出発している。その後80年代の森林への酸性雨被害は国民に大きな衝撃を与え、環境問題が大きく取り上げられるようになり、公害・環境対策は発展してきた。そうした中で90年代初めから問題が顕在化してきた地球温暖化はドイツ国民にとって大きな脅威としてとらえられた。これは、環境に対してダメージを与えると具体的な被害が出るということを目に見える形で知ったドイツ国民にとっては当然の反応だった。政府はこうした国民の声を受け素早く対応し、1992年に専門家を集めた委員会が設置され政府はそれに対応した施策を行った。また1990年には「電力引き取り法」が制定され、電力供給会社に再生可能エネルギーによる発電電力を高額で引き取ることを義務付けた。これにより再生可能エネルギーによる発電の普及が活性化した。

また1998年から2005年までドイツでは急進的な環境保護を訴える「緑の党」が議席数を大幅に増やし社会民主党(SPD)と連立政権を構成しており、この時期に後述の「再生可能エネルギー法」など気候変動対策関連の重要法案が成立した。

ドイツ政府の温室効果ガス削減目標は、当初2005年に二酸化炭素(CO2)を25%削減(90年比)、2020年までに温室効果ガスを30%削減と変化してきた。結果として、2008年には23.3%の温室効果ガス削減(90年比)を達成している。これによりドイツが京都議定書の第1約束期間の削減義務である21%の温室効果ガス削減を達成することは確実である。また2020年までの温室効果ガス削減目標に関しては、もし欧州連合(EU)加盟各国が30%削減する場合、ドイツは40%削減すると宣言している。EU諸国の中にはドイツと同等もしくは諸分野でドイツよりも進んだ気候変動対策を実施している国も存在し(北欧諸国など)、こうした国よりも削減目標において先んじることでドイツが環境分野で欧州および世界でリーダー的存在となることを目指していることが見てとれる。

ドイツ政府は2020年の目標達成のため2007年8月「統合エネルギー・気候プログラム」を制定した。このプログラムでは再生可能(代替)エネルギー開発と建築・交通・生産の各分野での排出量の削減を挙げ、合わせて36.6%の温室効果ガス削減を達成するとしている。

エネルギーの分野について温暖化対策の状況を紹介する。2002年の改正原子力法でドイツは原子力のエネルギー利用を廃止し、新規に原子力発電所を建設することができなくなった。また既存の原子力発電所についても今後使用を停止し、2020年までにすべての原子力発電所が閉鎖される予定である。しかし2009年9月の総選挙で政権を構成する政党が変化したことにより、原子力政策にも変化が起こるのではないかと予想されている。

次に再生可能エネルギーは現在ドイツで主要なものとして、ソーラー、風力、バイオマスなどが挙げられる。まずソーラーパネルの生産については、2008年にドイツのQcellsが世界第1位となるなど、ドイツの躍進は目覚ましいものとなっている。この背景には政府による研究開発プログラムへの投資、ソーラーパネル購入の補助、余剰発電量の買い取りなどの施策がある。

次に、風力発電に関しては、ドイツは風力を使った発電量で世界一であり(2004年)、世界の風力発電量の約3分の1がドイツで生産されている。また約4万人以上が風力発電産業に何らかの形で従事している。

 

環境税、国際機関関係

ドイツでは石油などの燃料と電力の消費など、温室効果ガスの排出につながる行為に税金をかける環境税制が実施されている。環境税は2003年時点で579億ユーロ(約7兆8,000億円)の税収となり、燃料への課税だけで700万トンのCO2削減に貢献したとされている。

またドイツは2009年1月に発足した国際機関IRENA(The International Renewable Energy Agency)の設立を主導することで気候変動対策に力を入れていることを国際的に大きくアピールした。IRENAは再生エネルギーに関する国際機関で、ドイツは2008年4月の第1回準備委員会以来、複数回の委員会をベルリンやボンで開催し、委員会の議長や委員を外務省や環境省の幹部が務め、また事務局の経費(5億円超とも言われる)なども負担することでIRENAの設立を主導した。最終的にIRENAの本部はアブダビとなったが「改革本部」という組織をボンに設置することに成功した。これはドイツの環境分野への外交面での力の入れ方の表れである。

 

まとめ

以上の分析より、ドイツにおける気候変動対策としては以下のようにまとめることができる。

  • 「温室効果ガス削減と、環境分野での技術的優位確立のための積極的な研究開発」
  • 「原子力を廃止する一方で現状でも高い再生可能エネルギーの割合を高める」
  • 「税制などでの市民が温暖化対策を行うインセンティブの向上」
  • 「環境関連の国際機関への積極的な関与」

ドイツがこのような気候変動対策を進める背景は、気候変動自体への危機感や人類の将来への貢献といった側面もあるが、もう一つ重要な点としてドイツが地球温暖化対策研究を推進することは、ドイツの環境分野での技術的優位を生かし、ドイツ経済にもメリットがあるという点である。実際にドイツは環境関連で550億ユーロ(これはドイツの産業全体の5%にあたる金額)の製品を製造しており、また2003年には研究開発費全体の3.3%が環境関連(これはOECD、EUの平均を超える)だった。また欧州の環境関連特許の4分の1をドイツが占める。さらに環境関連製品は全般に知識集約型で高付加価値であるため、産業や社会全体への貢献も大きい。ドイツでは2002年時点で150万人を環境関連産業で雇用し、これは全雇用の3.8%に相当する。

したがってドイツでは温暖化対策が経済を停滞させるものではなく、経済発展と両立するものであるとの見方が強い。2008年にフラウンホーファー研究所が行った研究では、2020年までに温室効果ガス40%削減を行った場合のCO2の1トンあたりの削減コストは、-(マイナス)27ユーロ、即ち投資よりも得られる利得が27ユーロ上回るということである(原油価格が1バレル70ドルの場合の試算)。

こうしたドイツの地球温暖化・気候変動対策を参考にしつつ、日本も2020年の温室効果ガス25%削減に向けて努力し、今後地球温暖化・気候変動対策の分野で世界を牽引(けんいん)していく存在になるべきだと思われる。

 

研究開発戦略センター「科学技術・イノベーション動向報告~ドイツ編~

 

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