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第3回「砂漠は今でも中生代 その2」

肉食爬虫類研究所代表 富田京一 氏

掲載日:2012年10月24日

肉食爬虫類研究所 代表 富田京一 氏
富田京一 氏
(肉食爬虫類研究所 代表)
一般的に、砂漠は昼夜の温度差が激しいことで知られる。

オーストラリアのウルル山(通称エアーズロック)にて。砂漠では、このような巨岩の裏と表ですら相当な寒暖の差が生じる。
オーストラリアのウルル山(通称エアーズロック)にて。砂漠では、このような巨岩の裏と表ですら相当な寒暖の差が生じる。

多くの砂漠は緯度でいう亜熱帯あたりに集中しているが、ゴビ砂漠は他の砂漠より北方(緯度的にいうと青森から北海道くらいがその中心)に位置する。そのせいか、夏の日中でも灼熱度はそれほどでもない。といったって、最高気温45℃以上、地表70℃以上には達するし、夜は夜で日によっては10℃を割り込むほど寒暖の差は激しい。冬場は未体験だけど、最低気温マイナス40℃とかまで下がると聞く(ぞ~~)。
このゴビ砂漠へ足を踏み入れた途端、歓迎してくれるのが「トカゲ」なのだ。

哺乳類や鳥類は自己の体内で熱を発生させ、かつそれを一定に維持することで恒常性を保っている。こうしたシステムを備えた連中が「内温動物」、トカゲのように熱源を概ね外部に頼っているものは「外温動物」と呼ばれている。ただしマグロやミツバチは鳥獣ではないが内温動物的だし、卵を抱いて温めている時期のニシキヘビも然りで、ちらほらと例外もある。

ウルル山の隣、カタ・ジュタ山で日光浴中だった、Ctenophorus属のトカゲ。全長たったの6cmほど。
ウルル山の隣、カタ・ジュタ山で日光浴中だった、Ctenophorus属のトカゲ。全長たったの6cmほど。

トカゲは典型的な外温動物だが、昼間は積極的な日向ぼっこなどでかなりの高体温を保っている。とくに砂漠の種はたいてい哺乳類の平熱を上回っており、42℃を保つものすら珍しくない。生ける湯たんぽの如き砂漠のトカゲに触れると、昔用いられていた「冷血動物」という呼称がいかに不適切なものであるか思い知らされる(もっとも、体温の高いトカゲは尋常ならざる逃げ足を発揮するから、触れるチャンスは滅多にない)。

で、昼間はまるで干潟に群れるカニのごとく砂上を走り回っているゴビ砂漠のトカゲたちが、日没が近くなるといずこともなく姿を消してしまう。地中や岩の陰に潜み、そこで眠るのである。こんなときは周囲に合わせて体温が下がり、文字通り「冷血」となる。毎晩冬眠しているようなもので、エネルギーを浪費せず、餌も少なくて済むので、過酷な砂漠ではかえって好都合である。

飼育実験中のガマトカゲたち。床の一部をライトで55℃程度に温め、それとは別に紫外線灯も照射している。暑くなり過ぎた際に退避できるよう、ケージは幅90cmの細長いものを使用。   タイマー ケージの下面にある引き出しを開けると配線。タイマーで照射時間を調節しており、夜間はたとえ真冬であっても、すべての電源を落としてトカゲを休息させる。
飼育ケージ
飼育実験中のガマトカゲたち。床の一部をライトで55℃程度に温め、それとは別に紫外線灯も照射している。暑くなり過ぎた際に退避できるよう、ケージは幅90cmの細長いものを使用。
  タイマー
ケージの下面にある引き出しを開けると配線。タイマーで照射時間を調節しており、夜間はたとえ真冬であっても、すべての電源を落としてトカゲを休息させる。

また、トカゲの体は鱗で覆われている。この鱗は魚のそれとは由来も組成も異なり、いわば硬い爪で全身をコーティングしたようなものである。一切汗をかかないのはもちろん、体表から水分が蒸発することもほとんどない。

極めつけは尿を固体まで凝縮して排泄する泌尿器系のシステム。トカゲは人間なら即刻通風と診断されるほど尿酸値が高いのであるが、再吸収可能なギリギリまで水分を搾り取ってから捨てる方式なので、水分ロスが少ない。恐竜は地球の乾燥が進んだ時期に勢力を伸ばしているが、トカゲと類似の尿排出方式が彼らに有利に働いたとも考えられている。

水飲み ガマトカゲは当初、液体の水を飲んではくれなかった。ところが間違えて霧吹きをしたところ御覧のポーズ。鱗の間にわずかな溝があり、その毛管現象を利用することで、朝霧や稀に降る雨から口まで水を集めているのだ。   ウルル山の麓で車に轢かれていた、全長15cmほどのモロクトカゲ(Moloch horridus)。全身棘だらけで、その間を無数の溝が通る、いわば「歩く毛管現象」だ。手足の指にも溝があり、地表のわずかな水分さえ口へ運ぶことができる。
水飲み
ガマトカゲは当初、液体の水を飲んではくれなかった。ところが間違えて霧吹きをしたところ御覧のポーズ。鱗の間にわずかな溝があり、その毛管現象を利用することで、朝霧や稀に降る雨から口まで水を集めているのだ。
  ウルル山の麓で車に轢かれていた、全長15cmほどのモロクトカゲ(Moloch horridus)。全身棘だらけで、その間を無数の溝が通る、いわば「歩く毛管現象」だ。手足の指にも溝があり、地表のわずかな水分さえ口へ運ぶことができる。

ちなみにヘビ(実は広義のトカゲに含まれる)も砂漠によくみられる動物のひとつだが、トカゲに比べればはるかに見かけない。ヘビの多くはトカゲよりも高次の捕食者ゆえ、必然的に個体数は少なく保たれているのだろう。同じトカゲでもオオトカゲのようなでかい連中がそうそういないのも同じ理由と思われる。

ところで、ここで述べたような特性は概ね鳥も備えているが、いかんせん常にエネルギーを消費し続ける内温動物だということがネックになっている気がする。いくら空腹とて、炎天下ずっと飛び続けて(あるかどうかも分からない)餌を探すわけにはいかんだろう。

そんなわけで、砂漠のどこかでは人知れず? 健気にもトカゲたちの全盛時代は続くのである。さすがにもっと砂漠化が進んだらどうなるかは知れないけれど…。

 

肉食爬虫類研究所代表 富田京一 氏
富田京一 氏
(とみた きょういち)

富田京一(とみた きょういち) 氏のプロフィール
1966年福島県生まれ。肉食爬虫類研究所代表。日本生態学会自然保護委員会・西表アフターケア委員。主として沖縄県南部の爬虫類をフィールドワーク。世界各地の恐竜発掘現場を野次馬的に見て歩き、各地で開催される恐竜博や、CGによる恐竜復元にも関わる。いっぽうでは、幼稚園から大学までと、やたら幅広く理科教育にも携わっている。「日本のカメ・トカゲ・ヘビ」(山と渓谷社)「トミちゃんのいきもの五十番勝負」(小学館)など著作多数。

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