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第2回「砂漠は今でも中生代 その1」

肉食爬虫類研究所代表 富田京一 氏

掲載日:2012年10月17日

肉食爬虫類研究所 代表 富田京一 氏
富田京一 氏
(肉食爬虫類研究所 代表)
御存知のとおり、力士の名産地として知られるモンゴル国と中国・内モンゴル自治区。この双方にまたがるゴビ砂漠は、中生代に栄えた恐竜化石の埋蔵量が極めて多い地域だ。ゴビという単語自体がモンゴルの言葉で砂漠を意味するらしいから、「骨が骨折した」「後で後悔するぞ」みたいにヘンな言い回しではある(笑)。

内モンゴル自治区エレンホトにて。地面に散らばっている何気ない石ころ。その何割かは風化した恐竜の骨である。   夕日に見とれる間にも気温は急速に下がる。夜の帳が下りて迷子になったら…行き倒れ。
内モンゴル自治区エレンホトにて。地面に散らばっている何気ない石ころ。その何割かは風化した恐竜の骨である。   夕日に見とれる間にも気温は急速に下がる。夜の帳が下りて迷子になったら…行き倒れ。

ちなみに恐竜ががっぽがっぽ出てくるような発掘現場は、たいていこのような砂漠地帯だ。それは必ずしも彼らが砂漠に住んでたことを意味しない。その土地が砂漠と化すのは、たいていはその恐竜が死んでのち随分経ってからの出来事のようだ。

伝統住居のパオ。今じゃ住む人は少なく、このパオもよく見たらドライブインだった。モンゴル国側ではゲルと呼ぶ。
伝統住居のパオ。今じゃ住む人は少なく、このパオもよく見たらドライブインだった。モンゴル国側ではゲルと呼ぶ。

例外的に、当時も砂漠だったとしかいいようのないケース(化石が砂嵐の作用で埋没しているとか)はある。しかしやはり、砂漠で恐竜がよく見つかるのは、生きていた頃の環境よりも後世の事情に負うところが大きいのは確かだろう。砂漠は樹木が少ないから地面が丸見えで、かつ、はびこる木の根っこに骨が粉砕されることも少なかったはずである。それに、たいていの砂漠は内陸にあるから、大陸プレートの端っこにある地層に比べて、マグマの熱や圧力にも晒されにくいという利点もある。

「恐竜」という概念そのものが造られた研究の出発地イギリスや、近年鬼気迫るほど気合の入った発掘作業が展開している日本でもなかなか保存状態のよい全身骨格が見つからないのは、これら恐竜化石の保存や発掘に適した条件がどれも満たされていないことも影響している。そもそも、日本やイギリスは当時も大陸の端っこにあったか、もしくは大半が海底に没していたはず。恐竜の死骸は、そこへ流れ着いた時点でずいぶんと傷んでいるのだ。ただし、どちらもさすが海国というか、首長竜や魚竜といった同時代の海生爬虫類やアンモナイトの化石は豊富である。

お揃いのユニフォームがどこか可愛い若手の発掘スタッフ。
お揃いのユニフォームがどこか可愛い若手の発掘スタッフ。

全長10mはあろうかという獣脚類(肉食恐竜の仲間)の下肢骨現る。左は中国を代表する恐竜学者徐星(じょせい)さん。   内モンゴル竜昊地質古生物研究所にて。ほとんどこの付近で産出した恐竜だ。
全長10mはあろうかという獣脚類(肉食恐竜の仲間)の下肢骨現る。左は中国を代表する恐竜学者徐星(じょせい)さん。   内モンゴル竜昊地質古生物研究所にて。ほとんどこの付近で産出した恐竜だ。

話をいきなり飛ばします。
生物の教科書でも「まれには」間違った記述を見かける。たとえば魚類→両生類→爬虫類→哺乳類と続く進化の道すじは単純明快で判りやすい。けれどもおそらく、哺乳類の祖先は、爬虫類という道筋をいっぺんも経由していない。両生類から爬虫類へと進化する枝の中から、途中でにょろろっと分岐してしまった小動物がいて、それが歴史上どこかの時点で哺乳類とよばれる者たちへ進化したと考えるほうが妥当なのである。

哺乳類の祖先系統が、爬虫類を生み出す系統と袂をわかった時期はいつだろう。英科学誌「nature」2004年9月号に掲載された国際ニワトリゲノムという団体の推定によれば、ヒトとニワトリ(広義の恐竜!)の血統の分岐点は約3億1千万年前だという(この数字に関しては、現在に至るまでそう大きな異論は出されていない)。

以来、爬虫類系と哺乳類系の2大系統は、それぞれの栄枯盛衰を繰り返しながらも今日まで続いている。異論も承知で言うけど鳥は広義の恐竜、つまりぶっちゃけ爬虫類の一部だから、制空権は今なお爬虫類が握っている、といえる。< /br> そして実は「空」以外にも、爬虫類が哺乳類よりも大繁栄している場所がこの地球上にある。それは「砂漠」(およびこれに準ずる環境)なのだ。

爬虫類といえば、その全盛期≒中生代(約2億5100万~約6550万年前)という万国共通の認識がある。実際の中生代には魚や昆虫も普通に多かったし、哺乳類だって数の上では恐竜より多かったと推定されているくらいだから、生物学的にかなり危うい思い込みではある。ま、それはひとまず措いて、世間に浸透したイメージを踏襲するなら、砂漠ではいまだ「中生代」が続いていると形容できるだろう。爬虫類のなかでも、ワニのすべてとカメの大半は(おそらく二次的に)、水辺の環境に適応している。砂漠で圧倒的によく出くわす爬虫類は「トカゲ」である。

全長7cmほどのワキアカガマトカゲ( Phrynocephalus versicolor )。砂の上を音もなく、滑るように走る。   忘れた頃に現われる半野生のフタコブラクダ。砂漠で成功した数少ない大型哺乳類だ。
全長7cmほどのワキアカガマトカゲ(Phrynocephalus versicolor)。砂の上を音もなく、滑るように走る。   忘れた頃に現われる半野生のフタコブラクダ。砂漠で成功した数少ない大型哺乳類だ。

もちろんトカゲはトロピカルなジャングルにもたくさんいるし、市ヶ谷のお堀や六本木交差点のそばだって、探しゃいくらでも出てくる。ただしこれらの場所には他の動物もたくさん生息しており、いわばワンオブゼム。これが砂漠となると、トカゲがマジョリティーになるわけだ。なぜ? どーして? 次回で考察してみよう。

 

肉食爬虫類研究所代表 富田京一 氏
富田京一 氏
(とみた きょういち)

富田京一(とみた きょういち) 氏のプロフィール
1966年福島県生まれ。肉食爬虫類研究所代表。日本生態学会自然保護委員会・西表アフターケア委員。主として沖縄県南部の爬虫類をフィールドワーク。世界各地の恐竜発掘現場を野次馬的に見て歩き、各地で開催される恐竜博や、CGによる恐竜復元にも関わる。いっぽうでは、幼稚園から大学までと、やたら幅広く理科教育にも携わっている。「日本のカメ・トカゲ・ヘビ」(山と渓谷社)「トミちゃんのいきもの五十番勝負」(小学館)など著作多数。

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