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新たな知見は専門家の協働から - 緊急シンポジウム『福島原発事故を理解する~放射能と原子炉の正しい知識へ~』に参加して

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 博士前期課程(サービス経営コース) 立花浩司

掲載日:2011年4月4日

2011年3月11日に東北および関東地方を中心に未曾有の被害をもたらした、マグニチュード9.0の大震災。千葉県の自宅マンションは共用部の一部が損壊し、家の中がめちゃくちゃになったものの、命に別状はなく、幸いにも甚大な被害を免れることができました。東北地方の激甚災害地区とは比べるべくもありませんが、ほとんどの公共交通機関がまひして帰宅難民となったため、東京・品川にあるサテライトキャンパスで一晩を過ごすことになりましたが、翌朝なんとか帰宅できたことに幸運を感じずにはいられませんでした。

今回参加した緊急シンポジウム「福島原発を理解する」は、震災後に発生した大規模津波によって発生した福島第一原子力発電所(以下、福島原発と略)の事故に関して、一般市民を対象に自然科学の視点から分析し状況を判断するための情報を提供することを目途として、東京・西新宿の工学院大学で開催されたものです。南関東ではようやく震災の被害や計画停電に伴う公共交通機関の混乱がひと段落してきたこともあり、主会場(定員300人)だけでは参加者を収容することができず、別教室にサテライトが設けられ、さらにasahi.comのasahi_apitalで、インターネット中継も行われました。

本シンポジウムの話題提供者のひとりである東京工業大学原子炉工学研究所の二ノ方壽氏によれば、福島原発における現在なすべき作業の達成目標は、電源の回復と冷却系の回復の2つに集約される。さらに水素爆発を防止するための水素マネジメントの徹底、火災発生の未然防止、そして的確な情報の開示をよりどころにした総合的な判断が求められる。過酷な制約条件の中にあって、 国内外のさまざまな専門家が知恵を出し合って、互いに協働し問題解決が図られなければならない―とのことでした。

これは、昨年8月23日に開かれたシンポジウム「科学裁判を考える」で基調講演を行った、ハーバード大学ケネディスクールのシーラ・ジャサノフ氏の発言内容(2010年10月4日ハイライト・シーラ・ジャサノフ 氏 ハーバード大学ケネディスクール 教授「裁判の過程を通じて養成される専門家」参照)と重ね合わせて考えることができるのではないかと思います。彼女は、X線の利用や豊胸手術を例に、未知の新しい分野において専門家というのは最初から存在するわけでなく、裁判などを経て養成されるのだ、という話をしました。今回の福島原発についても同様のことが言えるのではないでしょうか。いま、福島原発の問題は、熟達した専門家というのが存在しない、まさに「作動中の科学」の問題なのです。

私たちは、スリーマイル原発やチェルノブイリ原発の経験から得られた知見は有していますが、今回の福島原発のように、原子炉格納容器に破損があるために放射能漏れがあり、冷却系の復旧の見込みがない中で、(高濃度の汚染水を含む)放射性物質の大規模放出を避けつつ、注水と排水のバランスを取って収束に持っていかなければならないという緊急事態は、過去に経験したことがありません。また、放射性物質の放出による人体への疫学的影響についても、がんや遺伝的影響といった確率的影響については、そもそもしきい値の設定自体がありません。

福島原発の事故を収束させる過程において、専門家の協働によって困難を克服する新たな知見が生まれてくるものと思います。その知見が構造化され、ハザード対策に向けた詳細な分析がなされることによって、このたびの貴重な失敗経験が今後に生かされることを強く期待します。

追伸:
緊急シンポジウム「福島原発を理解する~放射能と原子炉の正しい知識へ~」で発表に用いられた資料は、後日、工学院大学エクステンションセンターのウェブサイトに公開される予定です。

 

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