レポート - 大学等レポート -

北海道洞爺湖サミット開催記念シンポジウム「体内環境の改善を目指したライフスタイルイノベーション -食と免疫と健康-」

SciencePortal特派員 成田優美

掲載日:2008年8月7日

2008年6月22日(日)13時から藤学園(札幌)の講堂で、表題のシンポジウムが開かれた。主催は特定非営利活動法人 イムノサポートセンター(理事長:北海道大学 遺伝子病制御研究所 西村孝司教授)。名称は免疫学を意味するイムノロジー(Immunology)に由来しており、人間の体内環境に影響を及ぼす免疫バランスの正常化、そのための社会環境の整備・改善に向けてさまざまな取り組みを行っている。当日は札幌市内4大学の専門家と中央卸売市場関係者が医学・食・観光など多方面から議論を進めた。生産農家も会場から発言、科学者との連携に期待を寄せた。

<講演>

「腸内環境を整える乳酸菌パワー」
藤女子大学 人間生活学部食物栄養学科 池田隆幸 教授:

専門の微生物(細菌・バクテリア)に特化して話した。人間の細胞は約60兆だが、100兆を超えるわれわれの体内の微生物の役割、細菌の構造、乳酸菌の特徴と定義、代表的な種類を概説した。『腸内細菌の働きは、高脂肪・高タンパクの極端な欧米食、抗生物質による耐性菌の増加、薬、過労、ストレスなどさまざまな要因で変動する。腸内環境を整えるため、いま求められるのはプロバイオテクスである。21世紀は予防医学を最重視する時代』と語り、ビフィズス菌や乳酸桿菌の服用による効果を複数の実際データで報告。発ガンリスク低減、アトピー性皮膚炎の予防、便通の改善などを明らかにした。発酵食品のなかでもヨーグルトの特質を取り上げ、女子大生の摂取実験では朝食後が最も便通に有効と述べた。

「食物と健康:最近話題のメタボリックシンドローム」

札幌医科大学 医学部 教育研究機器センター 分子機能解析部門 小海康夫 教授:

血糖値を調節するホルモンと人間が太るメカニズムを導入部分に、欧米化した食生活が原因となる疾患に危機感を表明した。メタボリックシンドロームとの因果関係を説明、20年、30年の長いスパンで対応するように話し、『国民栄養調査で見るメタボの疫学では40代で現れ始めている。よき日本の文化を取り戻し、“五里四方に病なし”を心がける。食習慣と遺伝の背景を知り、早食い・ドカ食い・かため食いしない』と肥満防止を訴えた。脂肪組織から分泌される種々の生理活性物質を図説し、糖、脂質の代謝異常の発症予防のために運動と食事の改善を推奨した。自己の状態をチェックできる方法を研究中で、『子どものメタボは両親の責任』と、科学的な根拠を持った具体的な行動を呼びかけた。

「免疫バランスと健康 ~子育てと北海道活性化における意義~」

北海道大学 遺伝子病制御研究所 免疫制御分野 西村孝司 教授:

冒頭で世界の環境破壊とともに子どもたちの体内環境(免疫バランス)が破たんし始めていると問題を提起した。『日常のバランスの良い食事と規則正しい生活、ストレス解消、自然回帰、健康によい食品をキーワードにライフスタイルイノベーションしかない。どうやって忙しい現代に昔の生活を持ち込むか。団塊の世代の力を活用できないか。北海道はヘルスツーリズムを優位に展開できる食材や大自然を持つ』とめざす方向を示した。

次に先進国で特徴的な問題であるアレルギーの増加について、現代社会におけるばい菌を含めた自然と人類の共存の破たん、免疫とは何かという根本に入った。樹状細胞・マクロファージ・抗原の貪食・T細胞の増殖ほか、身体を守る2大免疫防御機構(細胞性免疫、体液性免疫)、2種類のヘルパーT細胞(Th1、Th2)を画像で解説、『免疫にはキラー細胞がある。Th1が正常に機能していれば免疫が強い人はガンを倒す。あきらめないこと』と語った。

免疫バランスを改善・制御しうる機能性物質を探索する上で北海道の農畜水産物に着目、市場関係者とのface to face の意義を話した。「黒千石」という豆が紹介され、『1960年代、滝川に50粒あったうち28粒が発芽、現在北竜町で400トンを生産している。すりつぶして活性化物質を見て、Th1を改善する物質を産生する力があることを確認できている。商品化と流通ができた。眠っていた豆に科学的な付加価値をつけた』と述べた。

いろいろな大学の連携による科学的データで食の安全を検証し、北海道が単に材料の供給地であることから脱却することと、学者が機能的なエビデンスをつけて道産品を発信することを説いた。その手段として食育や教育を挙げた。『今の子どもたちは感染しやすく、すぐ熱を出す。お袋の味がなくなり袋になり、しつけが押しつけになっている。0歳から5歳まで免疫機能は決まってしまう。』と苦言、親子の食と免疫の体験学習の成果に触れた。

最後に体内環境の改善をめざすニューヘルスツーリズムの推進について。『平成17年3月、医科学的根拠に基づいた初めての花粉症疎開ツアー“スギ花粉リトリートツァー”を上士幌町で行なった。国土交通省に提言してネットワーク構築の方向性はできた。課題は大きなウェーブを作って観光客を呼ぶこと。メタボ対策を契機に北海道の活性化を国の政策として提言、産学連携体制やNPOに対する助成を求めたい』。食・健康・環境・医療を横断的に結び付けた拠点形成と若い人が住める街への展望を語った。

<パネルディスカッション>

「健全な子育てと北海道経済における産学官連携食育啓発活動の重要性」

    司会 西村孝司 氏
藤女子大学 人間生活学部食物栄養学科 傳法公麿 副学長・教授
  健全な子育てという視点から食に絞って問題点を2点挙げた。1つは次世代を担う子どもたち。平成18年度国民栄養健康調査による朝食の欠食について、『夜型の生活や夜にごちそうの習慣により朝は食欲も食事の時間もない。身体に脂肪としてたまることも心配。体力や試験に差が出る』と話した。2つめは20代~30代の欠食の増加。『やせ願望が背景にあり、肥満が横ばいでやせが増えてきている。低栄養が続くと若いうちに老化に似たことが起こる』。厚生労働省の人口動態統計では2500g未満の低出生体重児が増加傾向で、妊婦さんの体重の目安と胎生期の低栄養による影響に注意を促した。
藤女子大学 人間生活学部食物栄養学科 三田村理恵子 講師
  アレルギーのある人は緑黄色野菜の摂取が少ないというデータを提示、1日350グラムの野菜摂取が目標で、「おやさい10レンジャーの食育教室~子どもと保護者向けの食と免疫体験型教室~の実施報告をした。『収穫体験した野菜でレシピや分量にこだわらずカレーを作り、子どもたちは積極的に手伝った。アンケートでは85%が野菜嫌いだったが90%がカレーを完食。北大と藤女子大生による寸劇を見せた』。お弁当の塗り絵やセレクト給食も紹介、『科学的根拠に基づいて子どもたちに野菜を食べてもらうように努めたい』と結んだ。
天使大学 看護栄養学部栄養学科 荒川義人 教授
  近年「アカデミー政策研究」研究チームリーダー、現在は札幌市食育推進会議会長として、日本の食育の動向とのかかわりから話し始めた。食育の必要性について、『食環境の変化への対応、家庭における教育力の低下、食の簡便化・外食化、情報の氾濫(はんらん)』を指摘した。健康や栄養にかかわる課題解決のために食の正しい選択力を養い、地域の活性化を図ることを強調した。林業と給食をリンクした置戸町の地産地消の事例を述べ、米・豆類・野菜・魚介類を中心とする北海道型食生活の構築を提案した。
札幌市中央卸売市場 丸果札幌青果株式会社 勇崎恒宏 社長
  最近は青果物の輸入が難しくなっていることに対し、バイオエタノール推進によるエネルギー問題が要因と話した。ブラジルや米国の作付け転換、中国、インド、ロシアの購買力アップ、輸出国が輸入国になった現状から、『北海道は高い自給率と冷涼な気候による減農薬の2つの優位性を活かそう」と訴え、原油の高騰による生産・流通のコスト上昇に理解を求めた。関連する“目利きの達人、見~つけた運動 ”を紹介、科学的根拠に基づいた評価をつけることで、販売のときにアピールが一段と高まると述べた。
北海道大学 観光学研究センター 内田純一 特任准教授
  まずブランドづくりの必要性と高級ブランドが地道な取り組みを経て世に浸透していった背景を考察した。映画 “いのちの食べ方”と“ファーストフードネーション”の論評では『なぜハンバーガーが100円で世界中同じ味か』と、日常何気なく食べているものへ関心を持つよう促しブランドと対照した。栗山町の赤玉ねぎ「さらさらレッド」が普通の玉ねぎの1.5倍~3倍のケルセチンを含有、抗酸化作用と抗炎症作用が科学的に実証されブランド化、百貨店や成城の高級スーパーで販売されていると紹介。『事業スキームは広報の側面が重要。大手と組んだ大量流通だけを当てにせずやっていくこと。北海道は東京の会社から見ると一地域、一候補である』と述べ、観光と連携した地域ブランドづくりについても提言した。


パネルディスカッション
向って右から、西村教授、傳法教授、三田村講師、荒川教授、勇崎社長、内田特任准教授


その他

北竜町の「黒千石」生産農家の村井さんが会場から実績3年の現状を話した。『納豆、炊き込みご飯、洋菓子などに製品化されている。豆の分析では皮膚病やガンの抑制、ポリフェノール、アントシアニンなどの機能性が認められた。せっかくの安全・安心が流通と加工の段階で損なわれることがある。農産物に添加物を入れているのではとの誤解もあるので、皆さんに理解とチェックをお願いしたい』。質疑応答は、「20代の女性は葉酸が必要」、「北海道産の地域固有の種の保存ライブラリー、シードバンクの取り組み」、「ライフイノベーションから観光につながる相乗効果に期待」ほか。

  本シンポジウムは、独立行政法人 福祉医療機構 『長寿・子育て・障害者基金』 助成事業として開催されました。

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