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《JST共催》研究者と地元高校生が「科学の未来・未来の科学」について語り合う ~神戸でも「サイエンスアゴラ」連携企画を開催~

「科学と社会」推進部

掲載日:2019年11月14日

「Youth of the future ~科学の未来、未来の科学~」をテーマに「サイエンスアゴラ in KOBE」(主催・神戸医療産業都市推進機構、神戸市、共催・理化学研究所、神戸大学、甲南大学、JST)が11月9日の土曜日、甲南大学ポートアイランドキャンパス(神戸市中央区)で開かれた。科学技術振興機構(JST)が主催する「サイエンスアゴラ」の連携企画の一つだ。「サイエンスアゴラ」とは、「科学と社会をつなぐ」広場(アゴラ)としてJSTが2006年から毎年主催している対話イベント企画で、今年は11月15日から3日間、東京・お台場地区で「Human in the New Age ―どんな未来を生きていく?―」をテーマに開催される。神戸の会場には高校生を中心に約150人が参加。「科学者の社会的役割」や「自分の将来と科学・技術の未来」について、研究者と地元高校生らが立場を越えてオープンに語り合った。

会場前の「サイエンスアゴラ in KOBE」案内板
会場前の「サイエンスアゴラ in KOBE」案内板
会場の受付に並ぶ高校生たち
会場の受付に並ぶ高校生たち

「サイエンスアゴラ in KOBE」は今回で3回目。開催にあたり、主催者である神戸医療産業都市推進機構クラスター推進センター・センター長の佐藤岳幸さんは「これからの科学の担い手となる高校生の皆さんが、科学は自分とどのような関係にあるのかを考える機会にしてほしい」とあいさつ。続いてJST理事の佐伯浩治さんは「社会課題の解決には研究者だけではなく、幅広い立場の人が未来をどうしたいのか議論する必要がある。サイエンスアゴラはそのような対話を進め、科学技術にも関心をもっていただく機会として重要です」と述べた。

科学が未来を変える ~最先端の再生医療から見えてくるもの~

まず今年の8月から株式会社ビジョンケア代表取締役社長に就任した髙橋政代さんが基調講演を行った。髙橋さんは理化学研究所生命機能科学研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトの客員主管研究員でもある。髙橋さんは2014年9月にiPS細胞を患者へ移植する臨床研究を世界で初めて実施したことで広く知られる。2017年には神戸アイセンターを設立し、研究、治療、患者ケア、社会実験を兼ね備えた施設を実現させている。再生医療の研究に加え、眼科の臨床医でもあり、現在は経営者でもある。髙橋さんの講演は、未来についてのビジョンが明確で、次世代を生きる若い世代への熱いメッセージが込められていた。

「私自身はいつも20年後の未来に身をおいて、今を考えています。昔は夢だったことも実現するかもしれません。そして、それを可能にし、未来を変えていくのが科学です。今、海外ではダブルメジャーと言って、理系・文系の区別なく、医学と法学の博士号をとることも普通になっています。幅広い知識を持っていることが価値を生みます。一つ一つの分野では特別でなくても、境界領域ではトップになれることもあり、新しいことも生まれてきます。ぜひ、いろんな知識を得てください」

髙橋さんは、工学機械の発達をうまく利用すれば、再生医療の細胞作りもAIロボットなどを導入してコストを下げることが可能かもしれないという。「iPS細胞を患者へ移植するには、実は匠(たくみ)の技が必要で、簡単ではありませんでした。ですが、この匠の技を全て数値化してAIロボットに移したところ、AIロボットは短期間で匠の技と同程度のものができるようになりました。あらゆることが、このように大きく変わっていきます。今の社会の概念ではなく、皆さんには20年後の未来を考えてどういう仕事をするか考えてほしいと思います」

高校生が成人していく未来は、これまでの価値観が変わるのは間違いない、と髙橋さんは言う。そして「障害のグラデーション」という言葉をスクリーンに映して「障がいの概念も福祉のあり方も変わっていくだろう」と強調。「今はもう、障がい者はかわいそうと考える時代ではありません。障がいがあることで、かえって能力が高くなる場合があります。障がいはバリアーではなく、ニーズが分かるというバリューにもなるのです。社会はどんどん変化していて、私たちは今までの価値観を変える必要があります。これから先100年後の未来を考えると、お金中心の社会から人の幸せをいかに増やすかが大切になるでしょう。皆さんにはぜひ、そのような未来の社会をつくっていただきたいと願っています」と会場に語りかけた。

基調講演する髙橋政代さん
基調講演する髙橋政代さん

基礎研究から学ぶこと ~植物の生きる工夫~

基調講演で次に登壇したのは神戸大学大学院理学研究科教授の三村徹郎さんだ。日本植物生理学会会長でもある三村さんは、植物の生きる工夫について次のように説明した。

「植物は太陽の光エネルギーを用いた有機物合成(光合成)を行えるようになったことで、動物のように歩き回って餌を探す必要がなくなりました。代わりに環境変化を鋭い感覚で認識し、対処するための工夫が見られます。例えば、植物は外敵から身を守るために、自らさまざまな物質を作り出すことが知られています。タバコのニコチンやコーヒーのカフェイン、あるいはケシが含有するモルヒネなどがその一例です」

三村さんはさらに、このような基礎研究が応用され、社会課題の解決に貢献する事例も紹介してくれた。

「実は植物は塩に弱いのですが、マングローブは海のすぐそばで生育します。私は今から30数年前に、どうしてマングローブは塩に強いのかという研究を始めました。研究のきっかけは自分自身の興味でしたが、その後、友達の共同研究者と一緒に特殊な遺伝子を発見。その遺伝子に耐塩性があることが分かり、今ではある製紙会社がそれを応用して、アフリカの砂漠に植林をするという事業につながっています。基礎的な研究には時間がかかりますが、応用され、いつか世界で新しい環境を作れるかもしれません」

基調講演をする三村徹郎さん
基調講演をする三村徹郎さん

会場とステージが一体となって、科学について語り合う

2人の研究者による基調講演が終わった。ステージには甲南高等学校2年の本多諒大さん、神戸大学附属中等教育学校5年(高校2年)の長澤春香さん、神戸市立六甲アイランド高等学校2年の松元優貴さん、兵庫県立神戸高等学校1年の熊野柚瑞華さん、そして基調講演で登壇した2人の研究者とJST「科学と社会」推進部部長の荒川敦史さんが並んで「トークセッション」が始まった。

まず、荒川さんが自己紹介を兼ね、未来に向けた科学技術戦略を考えたり、研究開発を推進しているほか、本日のように科学技術と社会をつなぐ仕事もしているなどとJSTの事業を紹介。国連の持続可能な開発目標(SDGs)を分かりやすく説明しながら「科学技術で社会課題を解決し、SDGsの達成に貢献するには、科学技術だけでないいろんな分野の人たちと議論する場が必要です」などと高校生に語りかけた。  トークセッションのファシリテーターはメディアでも活躍する科学コミュニケーターの本田隆行さんだ。本田さんは身近な話題からみんなの発言を引き出し、笑いを誘って場を和ませ、トークセッションを盛り上げていく。

ステージ左から本田隆行さん、本多諒大さん、長澤春香さん、松元優貴さん、熊野柚瑞華さん、髙橋政代さん、三村徹郎さん、荒川敦史さん
ステージ左から本田隆行さん、本多諒大さん、長澤春香さん、松元優貴さん、熊野柚瑞華さん、髙橋政代さん、三村徹郎さん、荒川敦史さん
トークセッションのやり取りを熱心に聞く会場の高校生ら
トークセッションのやり取りを熱心に聞く会場の高校生ら
ファシリテーターの本田隆行さん
ファシリテーターの本田隆行さん

本田さんはまず、「科学って何でしょう」という質問から始めた。

高校生の本多さんは「社会に貢献できる技術を開発する分野」、松元さんは「実験など通じて得たものを社会に生かしていけるもの」など社会への貢献に目を向けた回答だった。一方、研究者の髙橋さんと三村さんは「論理的に解析して真理を明らかにしていくもの」、「他人と共有できる考え方」、荒川さんは「真理を探究するもの」と答えていた。いずれも科学は真理を問うもの、という考え方だ。

続いて、「みんなの身の回りには、どんな科学があるの?」という問いが本田さんから投げかけられた。「電車」、「スマートフォン」、「調味料」、「電気」、「水道」などなど、会場からもステージからも次々に声が上がる。確かに私たちの身の回りには科学があふれている。でも、私たちが今使っている科学や技術は昔からあったわけではなく、誰かが研究してその土台を作ってきたわけだ。では、今から10年経つと、どういう未来が描けるのだろうか。

「再生医療でも10年経つと、今は治らない病気が治ったりします。遺伝子治療では、症状が現れる前に治療することができるようになるでしょう。でも、病気になる前に治療しても、感謝されないですね」と髙橋さん。そんな髙橋さんの話に会場は和やかな雰囲気に包まれた。三村さんは「2030年にはおそらく火星に行けるだろうと言われています。帰って来られないかもしれないけれどね。火星でなくても、地球とは違うタイプの生物がどこかにいるのではないかと期待しています」とユーモアを交えて答えていた。2人の話を受けて長澤さんは「帰って来られない火星は嫌だけれど、帰って来られる月なら1週間くらい行ってみたい。地球を飛び出してみたい」と積極的だ。また、熊野さんは「医療の分野で、ロボットにはできず、人間にしかできないものは何でしょうか」と質問すると髙橋さんは「診断はAIロボットができるでしょう。でも、その結果の解釈やそれを患者さんにどう伝えるかは人間の仕事」と答えていた。

にこやかに語る髙橋政代さん、三村徹郎さん、荒川敦史さん
にこやかに語る髙橋政代さん、三村徹郎さん、荒川敦史さん
積極的に意見を述べる本多諒大さん、長澤春香さん、松元優貴さん、熊野柚瑞華さん
積極的に意見を述べる本多諒大さん、長澤春香さん、松元優貴さん、熊野柚瑞華さん

また、「反対に科学が発展して困ることは?」との問い掛けに三村さんは「AIが進化して実験などの実体験が少なくなると、知識からしか発想できず、発想が教科書的になり広がらないことが怖い」。

では、どうすれば幅広い発想や探求心は育つのだろうか。三村さんは「疑問を持って考え続けることが大事。考えるのは学校だけでなく、日常、身の回りに考えるタネはたくさんある」と言う。髙橋さんは「専門を究めて違う分野に挑戦すると、そのタネが次々に見つかってくる」とコメントしている。最後に荒川さんが「今は研究する人だけでなく、研究を社会と結ぶ人も増えてきている。科学によって社会もどんどん変わっていく。若い皆さんはアンテナをつねに張りながら、科学をどうやって社会や人の幸せに活かしていくのか考えていってほしい。今日のこの場がそんなことを考えるきっかけとなれば嬉しい」と締めくくった。日常の中から素朴な疑問を見つけること、それが未来の科学につながるかもしれない。

(「科学と社会」推進部 前尾津也子)

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