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産学共創の視点から未来の世界を、日本を支える人材育成を考える―日本学術会議と経団連が学術フォーラムを共催

サイエンスポータル編集部

掲載日:2019年6月25日

国際的なインパクトを与えることができるイノベーションを生み出せる人材育成は今や日本の科学技術政策の最重要課題だ。このため、政府や産業界、大学といったさまざまな場で人材育成の在り方について議論されている。産学官連携が叫ばれて久しいが世界の動向が刻々と変化する中で日本の強みを再確認しながら若手の育成方針を具体的に定めることが急務だ。そうした中で日本学術会議と日本経済団体連合会(経団連)が共催し、文部科学省が後援した学術フォーラムが5月22日、日本学術会議講堂(東京都港区六本木)で開かれた。題して「産学共創の視点から考える人材育成」。

いずれも独創的な活動や大学運営をしている登壇者から自らの体験や信念に基づいた発言が続き、「産」と「学」が未来の世界、日本を支える人材育成のあり方を見据えながら向き合った。

学術フォーラム「産学共創の視点から考える人材育成」の会場の様子(東京都港区六本木の日本学術会議講堂)
学術フォーラム「産学共創の視点から考える人材育成」の会場の様子(東京都港区六本木の日本学術会議講堂)
学術フォーラム「産学共創の視点から考える人材育成」のチラシの一部(提供・日本学術会議/日本経済団体連合会)
学術フォーラム「産学共創の視点から考える人材育成」のチラシの一部(提供・日本学術会議/日本経済団体連合会)

日本学術会議は、山極会長を委員長とする「科学と社会委員会・政府・産業界連携分科会」を設置し、これまで11回分科会と1回シンポジウムを開いている。この日の学術フォーラムは主に講演とパネル討論で構成された。日本学術会議副会長で科学技術振興機構(JST)副理事の渡辺美代子さんの司会でフォーラムが始まった。

「横連携がこれまではうまく機能していなかった」

経団連の五十嵐仁一さんがまず開会のあいさつをした。五十嵐さんはJXリサーチ代表取締役社長で、経団連の未来産業・技術委員会産学官連携推進部会長を務めている。あいさつでは「イノベーションが生まれにくい真の問題は、産業界、大学学術界、そしてベンチャーの横連携が(これまでは)うまく機能していないためだ」などと産業界の立場から率直な感想を述べた。

五十嵐仁一さん
五十嵐仁一さん

日本学術会議は昨年11月に「産学共創の視点から見た大学のあり方」と題した提言をまとめ、公表している。この提言は(1)大学への新たな研究資金の提供、(2)大学の情報資源の活用、(3)大学が育てる人材の活躍、(4)大学の研究分野の総合性―の4点について改革の方向を提示している。五十嵐さんは「(提言作成の過程で)産業界と大学でこれほど考え方が違うのかと思ったが、こうした考え方の違いを乗り越えて提言をまとめた。そのプロセスをより多くの人と共有したいという思いがこのフォーラムを開催する理由の一つだ」などと述べた。

続いて渡辺さんがこの日の学術フォーラムの趣旨を説明した。この中で提言の骨子を改めて紹介。ビジネスへの投資と連動した産学連携の推進や、地域の大学を拠点とした情報・データの蓄積と活用、若手の多様な経験の促進を中心とした国際プラットフォームの構築、人文・社会科学を強みにした未来社会戦略と科学の新展開―の4点の大切さを指摘した。そして3月7日にやはり日本学術会議と経団連が共催した知識集約型社会を目指すシンポジウム「Society5.0に向けた産学共創のあり方」の議論を紹介した。

渡辺美代子さん
渡辺美代子さん
日本学術会議が2018年11月に出した提言の表紙(提供・日本学術会議)
日本学術会議が2018年11月に出した提言の表紙(提供・日本学術会議)

講演のテーマは「これからの人材育成」。国際の視点から至善館学長のモンテ・カセムさんが、地域振興の視点から劇作家で大阪大学特任教授の平田オリザさんが、また産業界の視点から富士通理事の梶原ゆみこさんがそれぞれ登壇し、講演した。

講演の一番手はカセムさん。カセムさんは、スリランカ・コロンボ生まれ。工学を中心に都市工学、地域産業政策など幅広い分野に精通している。1972年に国費留学生として来日、大阪外国語大学日本語プログラムを修了。82年に東京大学大学院で都市工学の博士課程単位を取得し、その後94年に立命館大学の教授に就任。立命館アジア太平洋大学の学長も務め、2018年8月に大学院大学の至善館の学長に就任した。

モンテ・カセムさん
モンテ・カセムさん

大学での成果を社会に役立てるための中立・公的プラットフォームが必要

カセムさんの講演タイトルは「7つ星大学を目指す産学共創 国際展開、インクルーシブ、イノベーション、未来創造」。カセムさんは、「大学の中で創造性豊かなことをやってもそれを社会に役立てるためのプラットフォームが必要だ」と指摘し、「7つ星の大学」になるためには「産学の共創を国際的に展開することが不可欠で、未来を創造できるたくましい人間をどうつくるかが鍵だ」という。

そして「これまで社会への還元という点では(大学は)受け身だったが、そこを積極的に変えるためにはどうしたらいいか(を考えることが大切)」「世の中が目指す目的意識について大学の理解が足りなかった」「大学が世の中に知的環流できる場をつくることに大学が挑戦することが必要だ」などと述べた。

カセムさんは、大学での成果を社会に役立てるための中立・公的プラットフォームをつくるための「7つの星」つまり「7つの課題」として以下の7つをパワーポイントで説明した。

「受け身的な思考型から積極的行動型へ」「学生留学・研究交流型から未来創造重視型へ」「言語コミュニケーション型からリベラルアーツ重視人間力型へ」「個別機関・個人型から知的環流・体験型へ」「狭い専門性型から広い視野の文理融合型へ」「課題整理の評論型から問題解決の体験型へ」「超真面目型から不条理を受け入れる余裕型へ」。この7つだという。

カセムさんは「7つ星の大学」になるための7つの課題について「世の中を変えていくぞという元気な人材が必要だ」「評論家型の大学人には課題を解決する生々しい現場を体験させること必要だ」などと述べている。

産業界に対しては「発展途上国との付き合いは下手で、ODAの枠を超えて進出するリスクに慎重すぎる」などとずばりと指摘。一方大学に対しては「中長期的に技術を積み重ねる力や学生を未来の担い手としてみる高い志がいる」と指摘した上で「大学の創造性の基本は大学がダイバーシティを受け入れることだ」と注文している。

カセムさんによると、大学も現在の「社会のエクスクルージョン」、つまり排除の風潮に影響されている。「排除は楽だから」という。大学が創造性豊かなイノベーションを促進するためにはインクルージョン(包摂性)、つまり多様なものを受け入れることを保障することが大切だ、と強調していた。

そして人材育成のための「中立・公的なプラッフォーム」の好事例として2015年10月にできた「日本・スリランカ共同包括パートナーシップ」プロジェクトを紹介した。

カセムさんは最後に「見え隠れする未来に向けて我々が何をしなくてはならないか、というと創造性豊かな旅をするしかない。大学をともに行く旅人として見てもらいたい」と述べて講演を締めくくった。

芸術と観光を融合する大学をつくり、世界と直結する街を兵庫県豊岡市に

次に登壇したのは平田さん。平田さんは劇作家、演出家で自ら劇団「青年団」も主宰している。大阪大学のほか、東京藝術大学など多くの大学の教壇に立っている。大阪大学でロボットを使った演劇研究などもするユニークな研究者でもある。現在、劇作家としてだけでなく、兵庫県豊岡市に観光と芸術を融合する専門職大学の設立に向け精力的に活動している。

平田さんは既に豊岡市にある「城崎国際アートセンター」で芸術監督を務めている。

平田オリザさん
平田オリザさん

平田さんは、この国の人口減少の話から講演を始めた。「スキー人口が減っているが、その第一の要因は若者人口が減っていることでこの20年間に1000万人減っている。だが、劇作家の見方としては、スキー人口が減ったから若者人口が減ったと言いたい。それは出会いの場が減ったら」と会場の笑いを誘いながら語り始めた。しかし、すぐに真顔になって「これほど少子化が進むと社会全体が壊れてしまう可能性があるので、どうにかしなければいけない」と強調した。

続けて「面白い街」「出会いのある街」づくりの必要性を説きながら話を展開した。これからの人材育成を地域振興から考える例として、「まだ申請前なんですが」と前置きして兵庫県豊岡市に設立を目指す「国際観光芸術専門職大学」(仮称)の紹介に入った。

平田さんは新たな大学の姿を「地域に開かれた」だけでなく、制度設計の最初の段階から「地域とともにある」大学と定義。日本初の試みとして、「地域とともにあり、演劇やダンスを本格的に学べる専門職大学」の構想を紹介した。「地域とともにある」は「地域と学ぶ」でもあるという。演劇を学べる国公立大学設立は悲願だった、という。

計画では、入学定員80人。4年制、完全クォーター制(3カ月で1期、年間4期 )、60分授業時間制。「人生の滋養となる『海の教養』」として哲学、歴史学、数学や人類学など。「登り詰める『山の教養』」として評論、華道・茶道やキャンプや料理などを重視するユニークな授業内容だ。それが「自立した学び」になるという。このほか新たな学びの場の特長として、3年次全員留学とそれを前提にした語学教育や自主講座、外国人学生の積極的受け入れ(全学生の2~3割目標)などを挙げた。平田さん自ら初代学長に就任予定という。

観光の視点では、ホテルの「フロントマン」を育成するのではなく、地域の文化やさまざまな知識を持つ「コンシェルジュ」を育成するのだという。そして、多くの国が観光と文化を一つの省庁が担当していることを指摘し、この両者を統一的に考えることができる人材育成の必要性を強調している。

「子どもを含めた家族で夜も安心して楽しめる場所が国際観光都市には必要だが、温泉地・城崎がある豊岡市はその候補地としての条件が揃っている」と平田さん。国際観光都市には昼のスポーツと夜のアート(芸術)は必須で、昼のスポーツは神鍋高原などに既にあるのであとは夜の芸術を補完することが必要だが、豊岡市は「観光と芸術を融合させる専門職大学」をつくる条件が揃っていたという。

豊岡市は城崎を抱え、教育政策も2017年度より小中連携を完全実施している。既に、ふるさと教育、英語教育、コミュニケーション教育を重視し、コミュニケーション教育の柱として演劇教育を実施している。

平田さんは、豊岡市と国際映画祭で有名なフランスのカンヌやアビニョンとの類似点を指摘し、「世界と直結する街を豊岡につくりたい。その結節点として大学がある」と講演を結んだ。

組織中心の考え方から人間中心の考え方へ

講演の最後は梶原さんだ。梶原さんは富士通入社後、モバイルフォン事業本部、法務本部で管理職を務めた後、現在は理事・CTO補佐・人事副本部長。政府の総合科学技術・イノベーション会議議員も務めている。

梶原ゆみ子さん
梶原ゆみ子さん

梶原さんは、自身の経歴に触れながら「ビジネスを支える人材、イノベーションを支える人材とは何かを考えてきた」と講演を始めた。デジタル時代を「あらゆるものがデータ化されている時代で、さらに何かしらの価値を創出する時代」と定義しつつ、地球温暖化といった社会課題も生じている時代、としている。

そしてAI(人工知能)を例に、データ時代でも倫理問題が重要であることなどを指摘。富士通がAIを顧客と考えるときに大切にしている姿勢を紹介しながら、ヒューマンセントリック、つまり人が中心であることを徹底していることを強調した。さらに「ヒューマンセントリックな組織づくり」に関するビジネスリーダーを対象としたアンケート調査結果を示しながら、多くのリーダーがワークライフバランスやダイバーシティ、インクルージョン(包摂性)などが大切と考えていることを紹介した。

梶原さんは「イノベーション=人」と記したパワーポイントを映しながら、AIが進歩する中で必要なのは、創造性、構想力、共感力、課題解決力であり、組織中心の考え方から人間中心の考え方へ展開することの大切さを強調していた。

パネル討論会の様子
パネル討論会の様子

産学連携について産業界と大学が向き合って議論

休憩を挟んでパネル討論会が始まった。

パネル討論会は、大阪大学理事・副学長の小林傳司さんが進行役を務めた。登壇者は講演した3人にジュエリーブランドHASUNA代表取締役の白木夏子さん、経団連教育問題委員会企画部会委員で日立アカデミー代表取締役社長の迫田雷蔵さん、文部科学省科学技術・学術政策局長の松尾泰樹さんの3人も加わり、多彩な6人が揃った。

小林さんは「講演では、産学連携での大学に関する最近よくある議論とはかなり毛色が違った話を聞けた」と討論会の口火を切った。そして講演しなかった3人が自己紹介を兼ねてコメントした。迫田さんは「産学連携について産業界と大学が(向き合って)議論できるようになっている」「大学でも国公立と私学の間で、また大学の地域によっても意識の差がある。3人の講演でいろんなヒントが得られた」とコメントした。

白木さんは、実業家であると同時に27歳で起業した経験を生かして起業家の経営サポートや、内閣府の委員会委員も務めるなど多方面で活躍している。大学時代には貧困問題の研究をし、インドのNGOのインターンも経験している。その経験の中で子どもを含む貧しい人たちが貴金属の採掘をしている場面を目の当たりにし、発展途上国の採掘現場での記憶が貴金属原料を大切に扱い「貴金属を採掘する人も、貴金属に加工する人も、身につける人も幸せになる」ことをコンセプトとする起業につながったという。

文部科学省で科学技術・学術政策局の責任者を務める松尾さんは高等教育局勤務の経験もある。「大学に多様な人が入るようになって大学運営はたいへんで、産業界、地域の自治体、他の大学と連携して教育することがマストになっている」などとコメント。学生に大学の外、つまり社会に向かってもらうためには「学生にわくわく感を持ってもらうか、大学が学生にどのようにしてわくわく感を提供できるかが大切だ」と指摘した。大学と産業界のプロジェクトに学生も参加できる場を用意すること、ひとつの大学だけでなく全ての日本で学生を教育していくことが必要なのだという。

左からモンテ・カセムさん、平田オリザさん、梶原ゆみ子さん
左からモンテ・カセムさん、平田オリザさん、梶原ゆみ子さん

平田さんは、東日本大震災の後の2013年に長崎県で高校生による演劇の全国大会が開かれたことを紹介した。その大会には東北の高校生も参加し、「不条理」をテーマにした劇が多かったと、次のように語っている。

「(被災し、家族や友人を失った)高校生は生き残った理由が何もなかった、生の根拠が危うくなっていた。震災の後に岩手大学や弘前大学にも行ったが、当時入った学生は非常に優秀で、社会性が高かった。重要なのは自分たちが生き残った根拠が何もないということを痛切に感じていたことだ。『生の根拠のなさ』は私たちが不条理な社会に生きていく上で、不条理を受け入れながらもニヒリズムに陥らずにどう生きていくのかが大事だ。私たち教育者は常にそのこと考えていかなければならない」

「課題解決、課題解決と言うが日本の子どもたちは真面目なのですぐに落としどころを見つけてしまい、課題に絶望することはない。こんなこと解決できないけど放っておいてはいけない、というところから出発しなければいけない。その経験を与えるのが芸術のひとつの役割だと思う」。

パネル討論会の様子。一番手前は小林傳司さん
パネル討論会の様子。一番手前は小林傳司さん

平田さんのコメントに刺激されたように進行役の小林さんは「私はこの後、大阪までひと言も口をきかずに、土も踏まずに帰ることができる。私たちは科学技術でとんでもない空間をつくってしまった。(今の若い人は)コミュニケーション能力がない、と言うがそりゃそうだろうと正直思う」と現代社会の深い問題に触れた。

これを受けて平田さんは「発達障害の子どもは昔からいたが、アクティブラーニングの時代、ディスカッションが盛んに行われる時代になって彼らはどうしたらいいか戸惑う。国立大学も多様性を確保するためにそうした学生もどんどん入ってもらうべきだが、(彼らときちんと向き合う)取り組みが遅れている。私たち大学関係者が多様性にどう応えていくかが重要だ」と問題提起した。

梶原さんは企業人の立場から「発達障害の方は企業の中にも一定数いる。企業のダイバーシティというとジェンダー、国籍、年齢といったさまざまな属性があるが、多様な人がそれぞれの居場所がこの会社にあると思い、認め合い、尊敬し合いながら仕事をする環境が大事でそうした環境があれば個人と組織のパフォーマンスも上がる」。人は存在する価値があるのだからインクルーシブな文化をつくっていくことが重要だと梶原さんは強調している。

「何のために」にこだわる

小林さんは「今日講演した3人は『何のために』にこだわることで共通していた。共創、共創というが何のために共創しなければいけないのか、というところに今や来ている。その場面で大学がどのような役割を果たし、産業界が大学に何を期待するか、だと思う」。

白木さんは「私が起業する際は大学で学んだことが大きかった。南インドの子どもが働いている現状を見てショックを受けたが、(その経験を生かして)何かをやろう、何かを変えていこうと考えた時に根拠となるデータが、数字的に示すことが大事だった。持続可能な開発目標(SDGs)を企業の取り組みに生かしていくためにも説得するためのデータが大切だ」。

左は梶原ゆみ子さん、右は白木夏子さん
左は梶原ゆみ子さん、右は白木夏子さん
左は迫田雷蔵さん、右は松尾泰樹さん
左は迫田雷蔵さん、右は松尾泰樹さん

この後、登壇者が会場からの質問に答える形式で討論会は続いた。

平田さんは、地域で医療問題が起きたときにはその地域の大学病院と公立病院が連携せざるを得ないことを挙げながらこう述べた。「教育の公共性や独立性は大事だが(現実に即応しなければならない)公共性の意味が変わっていることを前提にこれからの大学を考える必要がある」。

コストパフォーマンス(コスパ)優先の風潮に関するコメントを会場から求められた松尾さんは「我々もコスパと言われるが余裕と無駄の積み重ねが人生の楽しみだ。だからコスパの概念を心のパフォーマンス(という観点で)捉えることが必要かもしれない。評価の軸を多様にしていくこと、評価の多面化が大事だ。余裕とか時間とか笑顔とか心とか感性とか、いろんな軸を持つことが多様な価値観を我々が身につけ、多様な人を受け入れていくことになるだろう」と語っている。

迫田さんは「(コスパ優先で)過剰なスペックで必要でないものもたくさんつくってきたことを反省しなければならないと思う」とコメント。白木さんは「経営者としてもちろんコスパは意識するが、私がやっていることは手間と時間をかけて遠くに石ひとつ探してくる仕事なのでコスパは良くないかもしれない。でもそこに介在するロマンとか人間らしいこととかを大切にしたい。ビジョンけん引型のビジネスはあると思うがコスパだけを求めるとそれができなくなってしまう。バランスが大切だ」。梶原さんは「やるところはやるし、やらないこと(不要なコスパ)はやらないということ。何が大事かを自分で判断することだ」。

この日のフォーラムの後半になって「コスパ」に関してコメントが続いたのは、大学ばかりでなく、産業界にも依然「効率優先」の風潮があり、それが産学連携のプロジェクトにも影響しているからだ。登壇者のコメントに共通していたのは、今の時代の状況の中でそれぞれの責務をしっかり自覚して主体的に判断して行動することの大切さ、だった。

わくわく感や幸せ感が重要

小林さんに「最後にひと言」と求められてカセムさんは「産学連携を進めて(その成果を)本格的に生かすためには、中立な場(プラッフォーム)をつくることだ」。平田さんは「イノベーションは冒険と同じで感動を伴わないと本当のイノベーションにはならない。感動をつくるような大学をつくりたい」と述べた。

左から小林傳司さん、モンテ・カセムさん、平田オリザさん
左から小林傳司さん、モンテ・カセムさん、平田オリザさん

また梶原さんは「インクルーシブカルチャー、つまり多様な人たちが認め合ってそれを社会に広げる。日本はそういう社会になってほしいし、若い人のために、そうした環境を整えていきたい。皆さんと夢のある日本にしたい」。白木さんは「大学で学んだことが役立つということを今の学生も感じてほしい」。迫田さんは「大事なことは課題をちゃんと見つけてそのためにどうアプローチしていくか、どんな未来をつくるかだ。どういう課題に向き合うか、しっかり考えられる場を産学でつくっていきたい」。松尾さんは「生きるに当たって、わくわく感や幸せ感が重要だ。人生100年という。大学も何度も行ける大学、例えば働きながら学ぶ大学、定年になってから学び直す大学など、何度も学べるプラットフォームが大事だ。そうした場は今の大学では無理で、大学と自治体や産業界が一緒にやっていく。それが共創の場だと思う」。

違うところから出発するから連携できる

最後に日本学術会議会長で京都大学総長の山極さんが登壇し、それぞれの経験や知見に基づいた登壇者の印象的なコメントを引用しながら、この日の学術フォーラムを総括した。

「今日は(産学の連携のあり方について)本質的な議論ができたと思う。カセムさんは大学の“でたらめさ”を企業と連携すると面白い。それを中立的なプラットフォームに乗せて創造性豊かな旅を一緒にしよう、と呼びかけた。大学が持っている(いい)ものをいかに産業界と生かせるか。そういうものだと私も思った。平田さんは、世界の人を迎え入れる国際化に傾注した方がいいと言った。産業界は世界に出て行き、世界で勝つことを強調するが、それだけが国際化ではない。日本を国際化の舞台にしようとする提言だった。日本を舞台にして世界の人を呼び込んで、さまざまな世界の課題を解決する。この発想はすごい。日本がこれから直面する地域創成に生かせる」

「文化は細切れであってはいけない。いろいろなところに生かせる総合的な視野を持つこと(が重要)だ」「大学は多様性というか、面白いことが出てくる場所でなくてはならない」

「産業界も大学もそれぞれ違うことをやっている。そこから出発した方がいい。だからこそ連携もできるし、違うものを持ち寄って新しいことを創造できる。同じことをやっていたら幅がどんどん狭くなっていく。我々は今そういうことを真剣に考えるべきだと(今日の議論を聴いて)思った」

「日本の大学の研究力と日本の産業の低迷を叫ぶだけだったら日本の文化も政治も世界に遅れているという印象しか与えない。もっと自信をもっていろんな強みを結集して、世界を意識して歩むという意識、世界の先頭に立つ意識を持つべきではないか」

「若者の人生観は大きく変わってきている。これからの若者は複線型の人生を目指していくだろう。ひとつの職業で単線的な人生を歩むのではなく、複数の仕事をしながら、日本と世界を股にかけながらいろんなところで自分の能力を出していく。プラットフォームをいくつかつくって若者達が複数活躍できる場を提供することが産業界と学術界が協力してできることではないだろうか」

山極壽一さん
山極壽一さん

山極さんは産学連携に関連づけながらSDGsの意義についても語っている。

「研究はSDGsと常に共にあるものではない。研究は面白いことを見つけるためにあっていい。だが、政治を司る行政マンや、産業を司るビジネスマンの人たちと、大学という利益をあまり考えないアカデミックな世界とがプラットフォームでつながるときにSDGsはいい目標になる。そこで新たな知を呼び起こして(社会)実装して、それが世界の課題を解決することにつながれば研究者の本望を遂げることにもなる。頭の片隅にSDGsを置くことでいろんな人とつながれる。つながることで新たな社会、新たな世界が浮かび上がってくる。それが大学にできる一番の貢献ではないか」

(サイエンスポータル編集長 内城喜貴)

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