レポート

《JST主催》「SDGs達成の先に何を見るか」—人類の幸福実現に向け未来社会像を探る—「サイエンスアゴラ2018」キーノートセッションから

2018.12.12

荒川敦史 / 「科学と社会」推進部

 サイエンスアゴラ2018の初日の11月9日、のアゴラのメーンイベントの1つとして企画された「SDGs達成の先に何を見るか—未来の幸福をデザインする社会の共創」と題するキーノートセッションが開かれた。

 いま世界中で、国連が2015年に採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に向けて何をすべきか、盛んに議論されている。このセッションでは、SDGsのさらにその先を見据え、真に目指すべきゴールである未来の人類の幸福を実現するためにどのような未来社会像を描くのか。これからの研究開発や産業はどのような価値を提供していくべきか。またそれに向けて、多様なステークホルダーがどのように知恵と力をあわせて「共創」を進めていくのか—。こうしたテーマについて熱心な議論が展開し、それぞれのパネリストのミッションと経験に基づいた多様な、しかし、未来をしっかり見据えた貴重な発言が相次いだ。

セッションは、サイエンスアゴラ2018推進委員会の委員長である駒井章治さん(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科准教授)がモデレーターとなって進められた。
セッションは、サイエンスアゴラ2018推進委員会の委員長である駒井章治さん(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科准教授)がモデレーターとなって進められた。

 冒頭、駒井さんは次のような問題意識をパネリストや会場に投げかけた。

 「サイエンスアゴラは『共創』や『越境』をテーマにしているが、そのためには何が必要か。世界には多様な価値観、課題が存在する。例えば、遺伝子改変の食べ物は日本では規制対象だが、世界ではそんなことは言っていられない、たくさんできる方が良いじゃないかという国もある。同じテクノロジーでも場所によって多様な価値観が出てくる。現状を考えたときに、これらのテクノロジーについて本当にアクセルを踏むだけで良いのか、我々が求めている幸福はどこにあり、それを解決する形でテクノロジーが使われているのかということを考えてみたい」

駒井章治さん
駒井章治さん

 次に小松太郎さん(上智大学総合人間科学部教授、グローバル教育センター長)は、国連勤務時代の経験を踏まえて以下のように指摘した。

 「SDGsは環境を保全しつつ経済を発展させる開発モデルと理解されることが多いが、環境を大事にするとか、必要な資源を残していくことだけなのか。我々が持続したいと思う社会の社会的・倫理的側面にもっと焦点を当てるべきではないか。コソボ(旧ユーゴスラビア)で教育復興の仕事をした。担当地域に150近くの小中学校があったが、紛争終結後には全て壊されていた。民族間の対立によって武力衝突が起きると憎しみが生まれ、その憎しみはずっと継承されていく。こういった社会は紛争が起きる前に不公正があった場合が多い。特定の集団が質の高い社会的サービスを受けられる一方で他の集団は受けられないという格差が不満を生みだし、それが武力的な衝突につながっていく。

 そもそも持続可能な社会というものはどういうものなのか、また、どういった社会を持続したいのか。これを考えるキーワードは『次世代に対する責任』ではないか。ソーシャルメディアでは、根拠なき情報や中傷的な表現が溢れている。憎悪などの社会的不公正、社会的負債を残していくと、そもそも社会は持続し得ない。そういった社会は次世代には継承したくないという考え方を持って、現在我々は何をやらなければいけないかを考える必要がある。そのためには自然科学・社会科学・人文の『協働』による複眼的思考を教育する必要がある。旧ユーゴスラビアで民族対立を煽った政治家は高学歴者だったし、それを支持した人たちも比較的学歴が高い人たちだった。今、東南アジアではSTEM(科学・テクノロジー、工学、数学教育)を非常に重視した高等教育が発展している。だからこそSTEMと社会科学・人文の融合を目指したような教育がこれから求められるのではないか。

 SDGsを実現していく上で科学技術の発展は大事で、途上国でも太陽光を使ったタブレット等が使われている。多様な環境で学ぶ機会をつくることも、科学技術が貢献できる分野だろう」

小松太郎さん
小松太郎さん

 続いて、米国スタンフォード大学で人文科学と情報技術にフォーカスした「メディアX」というプログラムを主宰するマーサ・ラッセルさんが発言。次のように「分野を超えること」の大切さを強調している。

 「メディアXは学際や産官学の間の対話を行うインターフェースであり、スタンフォードにある約30の研究所のバーチャルネットワークの一部になっている。メディアXで鍵となる要素は『対話を継続すること』。ここにはITにも人間にも関心がある人々、人文学、工学、化学、医学、音楽、教育などの分野の人々が集まっている。メディアXをスタートするにあたり、各メンバーがどのような関心をもっているのか、どうすればもっと賢くなれるのか、どういう解決法があるのか等についてビジョンのシェアを行った。

 そもそもなぜ分野間の協力が必要なのか。世界の問題は(学問領域のようには)きれいに細分化されていないからである。スタンフォード大学の工学部の教授が、『AIをやりたいなら工学を超えて、箱から飛び出して他分野の課題も拾わなければならない。そして同時に、学会に新しい風を吹き込まなければならない』と言っていた。ある業界では関係ないと思われたものが別の業界では大いに関係があることもある。分野を超えることで視野が広がる。ビジョンをシェアすることにより形が変わってくる」

マーサ・ラッセルさん
マーサ・ラッセルさん

 JST上席フェローの國枝秀世さんは、JSTの研究開発プログラムである未来社会創造事業で「持続可能な社会の実現」領域の運営統括をしている。國枝さんは、未来のために科学技術はどう貢献するかという観点から、次のように指摘している。

 「未来社会創造事業は、10〜20年先を見越して、未来社会で想定される課題を革新的技術により解決することを目指している。研究テーマの設定にあたっては、『科学技術でつくりたい未来社会像』を広く社会から募集し、いただいた千数百件のアイデアを参考にした。(國枝さんが担当する)「持続可能な社会の実現」領域では、(1)資源循環サイクル、(2)社会活動寿命の延伸と生産性を高める『知』の拡張、(3)革新的な食料生産技術をテーマとしている。

 未来事業には二つの側面がある。一つは「未来に想定される課題の解決」。科学技術はもちろんだが、社会改革も必要となる。この事業が始まる少し前からSDGsが始まったが、この事業はうち9つの目標(飢餓、保健、エネルギー等)に直結している。特に日本では「少子高齢化」「安全・安心」の2つの課題に対応していく必要がある。もう一つは「未来の夢の実現」。将来にわたる課題は見通しがつくが、夢を想像することが難しい。この点は社会からのアイデア募集やサイエンスアゴラなどを活用して、いいものを取り込んでいきたい。それにより議論が議論に終わらないで実現につながっていく」

國枝秀世さん
國枝秀世さん

 「サイエンスアゴラ2018」初日の11月9日には、このキーノートセッションに先立って、「あらゆる制限を超えて75億人をつなぐ挑戦」と題した基調講演が行われた。「アバター技術」の実用化に向けて挑戦してきたANA ホールディングス株式会社デジタル・デザイン・ラボによる意欲的な取り組みが紹介された。アバターとは分身となるロボットなどと、自分の視覚・聴覚・触覚などを同期して遠隔操作をする技術。深堀さんらは自分の業務範囲を「人をつなぐこと」であると位置付けて「移動を伴わない旅行」の実現を目指している。

 これまでの登壇者により、さまざまな問題提起や指摘が相次いだが、基調講演で登壇した深堀昂さん(ANA ホールディングス株式会社デジタル・デザイン・ラボ アバター・プログラム・ディレクター)は、自身の取り組みと関連付けて次のように語った。

 「ANAが世の中に良いインパクトを与えられるとしたら、それは『人を繋ぐ(つなぐ)』ことだ。ANAは世界の人々をつなぐという経営ビジョンを掲げているが、現実にはエアラインのユーザーは世界人口の6%程度で、この壁はなかなか超えられない。いよいよ新しい技術を考えなければならないということでアバターを考えた。これがあればインターネットさえあれば世界中をつなげる。私たちは『解決できない社会課題はない』」という強い信念を持っている。いまは『課題解決できる能力を持った人』が『適切な時』に『適切な場所』にいないことが問題であり、これを実現できればグローバルアジェンダもSDGsも加速できると信じている」

深堀昂さん
深堀昂さん

 次に、マイケル・コールマンさん(エルゼビア社上級副社長)が、出版社の視点から、情報をシェアすることの重要性について述べた。

 「SDGsは普遍的に行動を求めているが、これには『共創』が必要で、単独では達成できない。では科学系出版社である私たちエルゼビアは何が出来るのか。まずは医療や科学を前進させるため、研究者を支援することだ。従来から質の高い情報発信を通じて『読む』こと、『探す』ことを支援してきたが、これを『やる』ことの支援にまで推し進めたい。このためには機械学習も必要になる。例えば医師が手術するときには私たちが正しい情報を伝え、人が手術の要否を判断するなど。

 科学に限定せずに言えば、出版社はSDGsのうち教育の質の向上、ジェンダー平等、平和・公正の3つに貢献できる。検閲や発禁、作家への攻撃などに対抗し、出版の自由を堅持することが重要である。(コールマン氏が代表を務める)国際出版社連盟(International Publishers Association)は、国連との共創により『SDGsブッククラブ』という取り組みを開始した。青少年に向けてSDGsに関連する本を今後17か月にわたり推薦し、読んでもらうようにしていく取り組みである」

マイケル・コールマンさん
マイケル・コールマンさん

 欧州でさまざまなセクターをつなぎ、課題解決に取り組んできたハンク・クネさん(フューチャー・センター・アライアンス創設パートナー)は、欧州域内でのイノベーション創出に向けた連携の取り組みを紹介した。

 「2050年の世界はどうなっているだろうか。私は『ニューコモンズ』の時代になっていると思う。『ニューコモンズ』の時代には、個人・組織・社会いずれにおいても強靭性(レジリエンス)が重要になる。つまり危機が生じた際にもそこから回復するだけの力、チャンスがあればそれに向かっていける弾力性、レジリエンスが求められる。

 世界にはいろいろ大きな問題があるが、それは危機であると同時にチャンスである。さまざまな課題や不確定要素があるが、アイデアやチャンスが足りないわけではない。ただ、前向きなイメージを打ち出して未来を描くことはできていないかもしれない。ここは変えていく必要がある。欧州では刺激的な起業家精神が非常に重要になっている。国境を超えた協力、域内でのイノベーションエコシステムも重要である。また、個人に力を与えて市民主導のイノベーションを推進すること、子供たちのいうことを聞くことも重要である。

 欧州における課題解決やイノベーション創出に向けた取組事例を紹介したい。欧州委員会の共同研究センター(JRC)は、『スマート・スペシャライゼーション』をはじめとして多くの重要な課題に取り組んでいる。欧州域内の複数地域が連携して共通の課題に取り組む動き、例えばバルト海沿岸諸国とロシアが連携して地域の共通課題に取り組むプロジェクトや、複数地域が若い起業家を支援するプロジェクトなどがある。他方、アムステルダム・エコノミック・ボードが、循環社会やデジタルデータ、健康医療など都市の問題について2025年をゴールとして検討するプロジェクトもある。社会イノベーションを目指すキャンプも複数動いている。キャンプの方法論については、フィンランドのアアルト大学の事例をもとにしてハンドブックを作成・公開しているので参照してほしい。

 こういった取り組みが成功するために重要なポイントはいくつかあるが、やはりイノベーションの創出には『アクター=人』が極めて重要である。レジリエンスも、人的資本・構造資本・社会資本も重要になってくる。新たな社会的契約を結ぶ必要がある。勇気を持って想像力と創造性を総動員する必要がある」

ハンク・クネさん
ハンク・クネさん

 次に世界経済フォーラム(WEF)のケイ・ファース・バターフィールドさん(同フォーラムAI・機械学習プロジェクト長)は、AIをSDGsや未来社会のためにどのように活用するかという観点から次のように述べている。

 「AIが全ての問題を解決する、全てのSDGsにAIを使えば良いと考えられているようだが、AIは魔法の杖ではない。しっかりしたロードマップがないと、リスクが増えるかもしれない。ハリーポッターが何年もかかって魔法の杖の使い方を学んだのと同じように、私たちはAIを活用するためのしっかりした基盤を作らなければいけない。

 WEFではまさにそれをやろうとしている。私たちは複数のステークホルダー(政府、企業、アカデミアそして市民社会)とともにAIのためのアジャイルな枠組みを作ろうとしている。枠組みをつくり、それを政府や企業とともに試行して、そのモデルを世界全体に広げていく。重要なことは、AIのガバナンスの中に、倫理、インクルージョン、それからヒューマンセントリック・デザイン(人間を中心に据えて全体像を描くこと)の3つを含めることである。

 各国政府にアドバイスする場合気をつけていることは、AIをSDGsに使う場合、必ずロードマップが必要であるということである。政府は何をやりたいのか、どのようにトレーニングするのか、そしてどのように支持を得るのか、そういったことを考えないといけない。

 あるベンチャーキャピタルのリーダーがニューヨークタイムズ紙に寄稿した記事で、AI戦略を間違えると全ての国が(AI研究で先行している)米国、中国の属国になってしまうと警鐘を鳴らしていた。ではどうすればいいのか。AIの国家政策があるなら、何をやりたいのかをまず考えないといけない。世界経済フォーラムでは英国とともに、ベストプラクティスのガイドラインを作ろうとしている。それに基づいてAIをどのように公共部門で使っていくか。これは政府としては非常に重要な宣言である。また他に何が出来るかというと、AIを将来の世代のために活用する、すなわちAIの研究者をしっかりとトレーニングしていくことも必要だ。AIの研究者は、AIを使った場合の結果、社会的インパクトをしっかりと理解しなければならない。

 WEFでは、AIの研究者がつくった社会的インパクトのベースとなるものを世界中のAIの専門家たちと共有するプロジェクトもやっている。それぞれの状況が文化的に合っているかをレポジトリにアップロードし、そしてWEFを通じて皆が使えるようにする。

 AIを教育に使う際にもプライバシーの観点から基盤を考える必要である。例えば教育を受ける子どもたちのデータに関して、AIを子供たちの教育に使った場合、誰にデータが帰属するのか。また(AIと)社会とのインタラクションをどう考えるのか。たとえば子供達がロボットとインタラクションすることが起きてくるだろうが、それが果たして良いことなのかどうかはまだ分からない。その段階に入る前に、子供が何を学んでいくのか、教育のカリキュラムはどうしていくのか、どんなデバイスを使うのかなどはまだ決まっていない。まずは基盤を作ることが必要だ。AIを使うことにはもちろん大きなメリットがある。SDGsはかなり前進させられるだろう。だがその前にしっかりとした基盤を作らなければさらなる問題になってしまう」

ケイ・ファース・バターフィールドさん
ケイ・ファース・バターフィールドさん

 これまでの発言を駒井さんは次のようにまとめ、さらに意見を求めた。

 「(SDGsのうち)テクノロジーで直接物理的にアプローチできるところ、例えば水をきれいにするとかは、比較的達成されているように思う。このセッションではSDGsのその先、向こう側というテーマでご議論いただいたが、先ほど、バターフィールドさんが述べたように、倫理、インクルージョン、ヒューマンセントリックの3つが課題として残っているのではないか。それをクリアすることが出来れば、例えばアバターや情報のシェアリング、教育なども手がかりかもしれないが、こういったものをさらに促進する技術が求められるだろうと感じた」

駒井さんがモデレーターを務めたキーノートセッションの様子
駒井さんがモデレーターを務めたキーノートセッションの様子

 これに対して、マーサ・ラッセルさんは「技術にフォーカスしすぎず、コミュニティにフォーカスすべきだ。技術にコミュニティをつくらせてはいけない。コミュニティをつくるのは人間だ。人間が独自性を尊重しながらともにコミュニティをつくる、そこに技術が使われるならば良いが、技術が全てのギャップを埋めてくれるわけではない。私たちの責任として思慮深く、もっと将来への責任を持つ必要がある」とコメントした。

 この後、会場から質問を受け付けた。すると2つの質問が出された。

 質問は「日本の場合、技術アイデアは良く出るが、より良い社会とは何かを考える機会が少ないように感じる。哲学や宗教が浸透していないということかもしれないが、この点についてどのようにお考えか」、「私たちの将来が映画『ブレードランナー2049』で描かれたような暗い未来になってしまわないか。そのような社会にならないためには何をすべきとお考えか」

 これらの質問に対しパネリストがそれぞれの見解を述べた。

小松太郎さん:

 「大学における教養教育が重要になってくると考えており、現在のように最初の2年間だけではなく4年間を通じて教養科目を受けられるようすべきではないかと学内で議論している。また、科学技術が急速に進化する中だからこそ、科学技術教育と人間とは何かを考える倫理や哲学の教育を統合した形に何かできないか」

國枝秀世さん:

 「科学の進歩が暴走し、制御が効かなくならないように注意する必要がある。AIは人間が我々は何者かを考えるその試金石になるのではないか」

ケイ・ファース・バターフィールドさん:

 「実は日本は3年ほど前、AIの倫理について考えた最初の国であり、政府として8つの基本的な原則を打ち出した。それに対しては感銘を受けている。先日、ある会議に出席したが、AIをやっている教授のプレゼンテーションが、ジェンダー平等などさまざまな観点で偏見に満ちたものだった。AIには偏見も反映されてしまう。AIに関与している人たちは、自らの偏見がアルゴリズムに反映されてしまうのだということを自覚しなくてはいけない。これに対応するために、AIに関する何らかの『宣言』を出してはどうかという議論がされている」

深堀昂さん:

 「アバターのXプライズを検討していた際、日本の研究者は素晴らしいと実感した事例を紹介したい。

 『アバターオリンピック』という構想を持っていたが、日本の研究者から夜にもかかわらず電話をいただき、『なぜ対戦要素を入れるのか。それでは勝ち負けしかない。将来、軍事に使用されてしまうのではないか。そうであれば協力しない』と率直なご指摘をいただいた。他の高名の先生方からも、情熱を持ったアドバイスをいただくなど、日本の研究者は実に素晴らしい倫理観を持っていると実感した。ロボットと人間の共存という意味では、日本では自動運転でいかに人とぶつからないようにするかなど非常に繊細な取り組みをしてきており、とにかく高性能化をねらう海外のスタートアップ企業と違うと感じた。

 AIの時代は、人間はみな哲学者にならなくてはならない時代になると思う。細かいことはみな機械がやってくれるので、なんで自分は生きているのかを問う時代になるのではないか。ANAで検討を進めているアバターは人間の経験値を爆発的に進化させるためのツールであり、人間自身の機会を増やすような、人間自体が進化するような使い方にしなくてはならないと考えている」

マーサ・ラッセルさん:

 「シリコンバレーには『共創(Co-creation)』の文化がある。何か重要なことを話したいと思うと、意見を言えるし、聞いてもらえる。どのように技術を使うのか、私たちの生活にどのようなインパクトをもたらすのかという議論は時間がかかる。ジャズの演奏のように、メロディやキーを決めて、それぞれの演奏を聴きながら自らの演奏を順番にやる、それを積み上げて『共創』の環境を創っていくのではないか。こういった会話は非常に生産性があると思う。意思決定を価値ベースでやっていくことが必要だろう」

ハンク・クネさん:

 「『ブレードランナー2049』で描かれた世界とはディストピアということだと思うが、必要なのはもっとポジティブな、理想的なイメージを描くことであると思う。複数のステークホルダーの協力が重要で、それを進めるための枠組みが必要である。科学者と政治家が一緒に考えることができる場を創ることで、『ブレードランナー2049』のような世界を避けることが出来るのではないか」

 最後に駒井さんが次のように全体を総括し、キーノートセッションを終えた。

 「このセッションではSDGsのその先というテーマで議論をしてきた。現時点で明確な解があるわけではないが、皆さんを刺激することはできたのではないかと思う。先日、ある国際会議の際に『Enlightenment 2.0(啓蒙2.0)』と題するワークショップが開かれた。その場で議論になったのは、ロジックを積み上げていくことも大事だが、それに付随するエモーションやパッションの部分(例えば人々を繋ぐとか、ロジックに意味や価値を与えていくこともエモーションである)が間違った方に行かないように、レギュレーションを自ら考えていかなくてはいけないということである。本日の議論との関連を感じたのでご紹介した。

 今日から始まるサイエンスアゴラでは、4つの問い(「新しい技術はどう使う?」「地球規模の社会課題を解決するには?」「快適に暮らせる毎日をどう作る?」「科学と文化のつながりを考えよう」)を皆さんに投げかけている。この問いを考えて頭をヒートアップさせながら、アゴラを楽しんでいただければと思う。」

 こうしたキーノートセッションでのやり取りは「グラフィックレコーディング」により記録され、翌日「サイエンスアゴラ2018」の2日目、3日目の会場となった「テレコムセンタービル」一階でそのサマリーが掲示された。

左から、司会者、駒井章治さん、小松太郎さん、マーサ・ラッセルさん、國枝秀世さん、深堀昂さん、マイケル・コールマンさん、ハンク・クネさん、ケイ・ファース・バターフィールドさん
左から、司会者、駒井章治さん、小松太郎さん、マーサ・ラッセルさん、國枝秀世さん、深堀昂さん、マイケル・コールマンさん、ハンク・クネさん、ケイ・ファース・バターフィールドさん
「テレコムセンタービル」一階に掲示された「グラフィックレコーディング」のサマリー
「テレコムセンタービル」一階に掲示された「グラフィックレコーディング」のサマリー

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