レポート - その他のレポート -

《JST共催》IoTが実現する未来をテーマに対話―「情報ひろばサイエンスカフェ」で研究者と市民が語り合う

サイエンスポータル編集部

掲載日:2018年8月6日

身の回りのあらゆる物がインターネットでつながる「IoT」が実現する未来をテーマにしたサイエンスカフェが7月27日、東京都千代田区霞が関の文部科学省内ラウンジで開かれた。文部科学省が主催、科学技術振興機構(JST)が共催して隔月で開催している「情報ひろばサイエンスカフェ」の今年度第2回目となる。

写真1 情報ひろばサイエンスカフェの風景
写真1 情報ひろばサイエンスカフェの風景

今回は「IoT技術はどんな未来をもたらすか?~逆転の発想でIoTが創る次世代社会~」と題し、講師は東京工業大学で情報技術を研究する原祐子(はらゆうこ)准教授、ファシリテーターは慶應義塾大学環境情報学部の青野真士(あおのまさし)准教授が務めた。30名ほどの来場者と研究者が一緒にIoTについて語り合った。熱心なやり取りの中でどのような身近な物にコンピューターが組み込まれていると便利かなど、研究者と来場者の間でさまざまな対話やアイデア提案があった。

写真2 講師の原さん(左)とファシリテーターの青野さん(右)
写真2 講師の原さん(左)とファシリテーターの青野さん(右)

サイエンスカフェは、原さんと青野さんの趣味や研究者になった経緯などの自己紹介から始まった。続いてディスカッションテーブルを囲む参加者3、4人が自己紹介。場が和んだところで、徐々にテーマのIoTの話題に入っていった。

写真3 趣味の登山で撮った写真の話をする原さん
写真3 趣味の登山で撮った写真の話をする原さん
写真4 粘菌と呼ばれる生物が効率的に広がる性質を情報科学に応用する研究について語る青野さん
写真4 粘菌と呼ばれる生物が効率的に広がる性質を情報科学に応用する研究について語る青野さん

物がインターネットにつながる「IoT」の今

IoTは「Internet of Things」の略で、日本語では「モノ(物)のインターネット」と訳される。身の回りのあらゆる電子機器がインターネットを通じて接続し、それらが互いに情報をやり取りし、制御できる状態になることを指す。かつてインターネットは、パソコンで利用するだけのものだったが、現在ではスマートフォンをはじめ、家電、衛星、自動車など多様な物にコンピューターが組み込まれ、それらがネットワークとしてつながっている。

ここに情報処理技術が関わることで、より大きな価値を生み出すのだ、と原さん。「IoTとAI(人工知能)をはじめとした情報処理は、お互いが複雑に絡み合い助け合う技術です。ネットワーク上に集められた大量のデータを情報処理技術によって処理します。その結果をネットワーク上の機器に伝えることにより、大きな情報社会を生み出しています」。原さんは、こうしたIoT機器に組み込む小さなコンピューターの仕組みを考える研究をしているのだという。

写真5 腕に着けている活動量計をIoT機器の例にあげる原さん。Bluetooth(ブルートゥース)という無線通信でスマートフォンなどと接続され情報をやり取りする
写真5 腕に着けている活動量計をIoT機器の例にあげる原さん。Bluetooth(ブルートゥース)という無線通信でスマートフォンなどと接続され情報をやり取りする

コンピューターとクラウド

次に原さんは、一般的なコンピューターと、現在私たちが使っているクラウドの仕組みについて説明した。

パソコンのようなコンピューターは、キーボードやマウス、タッチパネルといった入力装置から計算してほしい情報を送ると、それがメモリに書き込まれる。メモリに入った情報は、内部の制御装置や演算装置によって計算され、結果がモニターなどに出力される。これがコンピューター1台の内部で完結する基本的な仕組みだという。

画像 計算機(コンピューター)の構成(原さん提供)
画像 計算機(コンピューター)の構成(原さん提供)

だが、現在のスマートフォンをはじめとしたコンピューターの多くは、それに加えて異なる仕組みがある。それがネットワークを利用したクラウド上で情報処理を行う仕組みだ。現在のパソコンやスマートフォンは、通常のコンピューターでは管理や処理ができないような膨大なデータ「ビッグデータ」にアクセスできるようになった。データ処理はクラウドを成す外部の高機能で巨大なサーバーに任せて、結果だけを受け取るのだ。

クラウドがあれば、手元の端末での大きな処理は不要で、端末も小型化でき、合理的だが課題もある。インターネットへの通信が発生するため、それによって計算の待ち時間が長くなることだ。扱うデータの量は今後格段に増えると予想される。そうした未来に向けて、IoT機器に取り付けられる小さなコンピューターにどのような仕組みを持たせるかについて新しい発想による開発研究が求められ始めているという。

手元のIoT機器に求められつつある「小さな計算機」

原さんは現在のスマートフォンの高機能化を例に出し、今後のIoT機器に組み込まれるコンピューター「小さな計算機」について話し始めた。「現在のスマートフォンを見ても、高機能化がトレンドになっています。しかし高性能だと、必要な電力もそれに応じて大きくなります。IoT機器にこれほどの性能が必要なのでしょうか」。原さんは、ウェアラブル端末などのような小さなIoT機器には、省電力で小さな仕事だけを専門でこなすコンピューター「小さな計算機」が必要と考えているという。「高機能化ではなく、小さく単純な計算機にする。データを計算機があるところに送るのではなく、データが発生するところに計算機を置く。これが逆転の発想で、私の研究の大きな柱になっています」。

ファシリテーターの青野さんは「これまでウェアラブル端末などの機器についていたセンサーは、計測した情報をそのまま通信でクラウドに飛ばすだけで、データ処理には関わっていません。これに対してセンサーのところに小さな計算機を置いて、オフライン環境でできる処理をその場でさせるというようなイメージですね」と補足説明した。

原さんと青野さんはこうした話を元に、身近にあるどのようなところに小さな計算機があったら良いか、をテーマにアイデアの提案を呼びかけた。各テーブルを囲んだ3、4人のグループによるディスカッションが始まった。

写真6 ディスカッション中に各テーブルを回る原さん(左)と青野さん(右)
写真6 ディスカッション中に各テーブルを回る原さん(左)と青野さん(右)

小さな計算機はどんな場所に求められているか

10分ほどのディスカッションの時間が終わり、各テーブルから発表があった。多くは身近な場所のセンシングや認証に関わるものだった。

「健康管理で、脈拍を測って体調が悪くなる予兆となるデータを入れておいて、問題があればお知らせする」
「宿題をする、家計簿をつけてくれる、などいろいろな意見が出ましたが、一番良かったのは、学校の教室の入口を通った時に生徒の出席確認と健康チェックを自動で行うという提案でした」
「電車のホームで酔っ払いを検出してホームから落ちないように見守る。ATMで手間取っている人を検出して振り込め詐欺を防止するなどの意見も出ました」
この他、コンパなどで好みの相手を自動的に見つけてもらい居場所まで案内してくれる、といったユニークなアイデアもあり、会場の笑いを誘っていた。

写真7 参加者がアイデア発表する様子
写真7 参加者がアイデア発表する様子

最後に原さんは「未来に向けてIoTをどういう方向に進化させていくかは、考え続けていかなくてはならない問題です。私たち研究者は、技術を先追いするだけでなく、社会の中でそれをどう使うかを考えないと、研究が人の生活の豊かさとつながっていかないと思っています」とまとめ、この日の話を終えた。

サイエンスカフェ終了後も原さんと青野さんはしばらくその場に残り、参加者たちの個別の質問に熱心に答えていた。普段何気なく使っている身近なコンピューターの話題に、参加者の関心は非常に高いようだった。

写真8 最後にギジログの前で記念写真。原さん(左)と、青野さん(右)
写真8 最後にギジログの前で記念写真。原さん(左)と、青野さん(右)
ギジログ1
ギジログ1
ギジログ2
ギジログ2
ギジログ3
ギジログ3
ギジログ4
ギジログ4

サイエンスカフェをまとめた「ギジログ」(ギジログガールズ 記録)

(サイエンスポータル編集部 腰高直樹)

ページトップへ