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《JST主催》「トップサイエンスによる社会変革への挑戦」―JSTの第2回ACCELシンポジウム開催

サイエンスポータル編集部

掲載日:2018年4月2日

「トップサイエンスによる社会変革への挑戦」をテーマに「第2回ACCELシンポジウム」(科学技術振興機構《JST》主催)が3月9日、東京都千代田区のSMBCホールで開かれた。ACCELは、JSTが新たな発想によるイノベーション創出を目指して2013年度から始まったプログラムだ。この日のシンポジウムは、材料系を中心とした5つの研究課題についてそれぞれ研究代表者とプログラムマネージャー(PM)が研究成果などを報告した。また、PMだけによるパネルディカッション(PMインタビュー)も行われた。PM制度は米国防高等研究計画局(DARPA)で成果を上げたことで知られるが、日本ではACCELへの導入が先がけになった、とされる。PMは世界でもトップクラスの研究者と議論しながらプログラムを進める極めて重要な役割を担う。5年以内の期限付きで予算も多いことから成果に対する期待も大きい。PMから時に苦労話も飛び出したユニークなパネルディカッションを中心にレポートする。

重要な研究成果であっても産業化は容易ではない。いわゆる「死の谷」の問題だ。JSTの戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ・ERATO など)で創出された有望な成果でありながら、実際には企業がリスク判断できないケースがある。こうした課題も多かった。ACCELは「トップサイエンスからトップイノベーションを生み出す」を掲げている。戦略的創造研究推進事業の中でも顕著な研究成果を抽出、PMを中心とした研究開発マネジメント体制の下、技術として成立することを証明したり、権利化を推進することで、企業やベンチャーなどの研究開発につなげることを目指している。研究開発期間は5年以内で、1年当たりの研究開発費も多いものでは3億円に達するものもあり、具体的成果を上げるためのプレッシャーも並大抵ではないと言われる。

写真1 会場のSMBCホールに掲げられたACCELプログラムの説明ポスター
写真1 会場のSMBCホールに掲げられたACCELプログラムの説明ポスター

国内PM制度の先べんつけたACCEL-5課題について成果、報告

「第2回ACCELシンポジウム」は午後1時に開会した。JSTの後藤吉正理事が主催者を代表して「未来社会創造事業を始めたが基礎的研究から産業界が関心を示すところまで行うACCELはこうしたプログラムの先べんをつけたものだ。従来のやり方ではなく、研究代表者とPMと二人三脚で進めるもので、始めて5年になるが多くの成果を上げることができた」とあいさつ。続いて来賓を代表して文部科学省研究振興局の磯谷桂介局長は「イノべーションをめぐる世界的な競争が激化しているが、近年いろいろなデータから日本の基礎科学力やイノベーション力を抜本的に強化することが重要になっている。経済成長の原動力としてトップイノベーションを起こすためには、新たな領域を切り開く成果を『死の谷』を乗り越えて社会実装する仕組みが重要だ。こうした問題意識でACCELが始まった。ACCELの理念はほかのさまざまな事業と統合される形で新たな未来社会創造事業にも引き継がれている。科学技術からイノベーションにつながる事例が持続的に創出されていくことを期待している」などとあいさつした。

写真2 主催者を代表してあいさつするJSTの後藤吉正理事
写真2 主催者を代表してあいさつするJSTの後藤吉正理事
写真3 来賓を代表してあいさつをする文部科学省研究振興局の磯谷桂介局長
写真3 来賓を代表してあいさつをする文部科学省研究振興局の磯谷桂介局長

この後5つの研究課題の報告が始まった。PMは多くが企業出身者で、企業や大学、公的研究機関で優れた成果を挙げてきた実績を有し、それぞれの実経験を生かして担当する課題の研究推進に尽力している。

シンポジウムの進行役はJST「科学と社会」推進部の保坂直紀さんが務めた。

研究代表者からは研究内容、研究開発ビジョンや成果について、PMからは活動内容や実用化への取り組み、今後の展開について講演が続いた。

(課題名と研究代表者とPMはそれぞれ以下の通り)

(1)「元素間融合を基軸とする物質開発と応用展開」(2015年度採択)
研究代表者:北川 宏・京都大学大学院理学研究科教授(所属は3月9日現在、以下同)
PM:岡部 晃博さん

写真4 北川宏教授(左)と岡部晃博さん(右)(JST提供)
写真4 北川宏教授(左)と岡部晃博さん(右)(JST提供)
写真5 成果報告をする北川宏教授
写真5 成果報告をする北川宏教授

(2)「濃厚ポリマーブラシのレジリエンシー強化とトライボロジー応用」(2015年度採択)
研究代表者:辻井敬亘・京都大学化学研究所教授
PM:松川公洋さん

写真6 辻井敬亘教授(左)と:松川公洋さん(右)(同)
写真6 辻井敬亘教授(左)と:松川公洋さん(右)(同)
写真7 成果報告をする辻井敬亘教授
写真7 成果報告をする辻井敬亘教授

(3)「エレクトライドの物質科学と応用展開」(2013年度採択)
研究代表者:細野秀雄・東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所教授
PM:横山壽治さん

写真8 細野秀雄教授(左)と横山壽治さん(右)(同)
写真8 細野秀雄教授(左)と横山壽治さん(右)(同)
写真9 成果報告をする細野秀雄教授
写真9 成果報告をする細野秀雄教授

(4)「フォトニック結晶レーザの高輝度・高出力化」(2013年度採択)
研究代表者:野田進・京都大学大学院工学研究科教授
PM:八木重典さん

写真10 野田進教授(左)と八木重典さん(右)(同)
写真10 野田進教授(左)と八木重典さん(右)(同)
写真11 成果報告をする野田進教授
写真11 成果報告をする野田進教授

(5)「PCPナノ空間による分子制御科学と応用展開」(2013年度採択)
研究代表者:北川進・京都大学物質-細胞統合システム拠点・拠点長・高等研究院特別教授
PM:山本高郁さん

写真12 北川進特別教授(左)と山本高郁さん(右)(同)
写真12 北川進特別教授(左)と山本高郁さん(右)(同)
写真13 成果報告をする北川進特別教授
写真13 成果報告をする北川進特別教授
写真14 シンポジウム会場内の様子
写真14 シンポジウム会場内の様子

PMとして「難しかったこと」とは

5つの研究課題の報告が終わり、PMだけによるパネルディスカッション(PMインタビュー)に移った。登壇者は、「元素間融合を基軸とする物質開発と応用展開」の岡部晃博さん、「濃厚ポリマーブラシのレジリエンシー強化とトライボロジー応用」の松川公洋さん、「エレクトライドの物質科学と応用展開」の横山壽治さん、「フォトニック結晶レーザの高輝度・高出力化」の八木重典さん、「PCPナノ空間による分子制御科学と応用展開」の山本高郁さんの5人。

進行役の保坂直紀さんが「極めて高い研究能力を持った研究者の方々を社会実装の方向に向いてもらう苦労はあったと思う。このディスカッションでは、そうした苦労話を聞きながら社会実装のためには何が必要か、を考える機会にしたい」と切り出した。そして5人全員に「難しかったこと、難しいと思ったこと、障壁と感じたこと」を白いボードに書いてもらった。

岡部さんは「最先端技術を泥くさく現実解に結びつけること」だった。

そして「大学の先生は技術力が高ければ高いほど完璧を目指すが実際にユーザーに使ってもらおうとする場合はいかに(ユーザーの要望に)合わせるかが重要になる。何か一つ『とがった』性能があると(大学の先生は)それを何とか使いたいと思うのも重要だが、あえて目をつぶってトータルで(ユーザーの要望に合うものを)作ってもらう方向で足並みを揃えるのは技術力が高ければ高いほど難しいかなと思う」「技術とは『とがった』高い技術がないと現実解を出すのは難しいので高い技術を持つことを奨励しつつも、実際に解を出す時は現実的な解を皆で協力していく出すことが重要だ」などと述べた。

写真15 岡部晃博さん
写真15 岡部晃博さん

松川さんは「各企業の開発スピード・ベクトルの統一化」。

松川さんは「私たちのプロジェクトは、複数の企業が(プロジェクトに)入ってるが各企業には同じスピード感でやってほしい。研究グループ内では情報をオープンにするがスピード感が違うと、後出しじゃんけんの方が得だという発想が出てくる。(商品化という目標への)難しさは参加する企業によって異なるが、その過程では同じスピード感で同じベクトル、同じ目的でやってもらうこと(が大事)だと思う」などと語った。

写真16 松川公洋さん
写真16 松川公洋さん

横山さんは「基礎研究と企業が望む実用技術の整合性」。

「私は企業で触媒の基礎研究をたくさんやってきた。(PMになって)立場が変わって(仕事、役割は)大学(との研究)に移ってそれを企業に引き継ぐということになったが、そこでどのように本音を引き出すかが大事だ。大学や研究機関のメリットは、研究論文や特許を出すと、いい成果についてはプレスリリースなどによって情報を発信する。(企業の中で)実用化技術がほしいところを選べる。企業が本当にやる気があるのか、とか、この技術はもう少し何とかしないと使えないという話があったりして進捗状況を話しながら修正して、最終的に実用化技術につながればいいと思う。そうしたことを中心にやってきた」「最終的な製品を見出した研究もあれば、(研究の過程で)派生的に出てきた新しい事がどういうものに使えるか、大学では分からないところを企業に『それ面白いからやらせてくれ』と言われたことは何度かあった」。横山氏さんは企業と大学の方向が全く異なる訳ではない、と指摘した。

写真17 横山壽治さん
写真17 横山壽治さん

八木さんは「物理的ハードルの高さと社会実装、志の確認」と表現した。

八木さんは「私は三菱電機でCO2レーザーを立ち上げたが、当時はレーザーを加工に使おうという機運が高まっていてやりやすい時期だった。企業内の新しい投資などもあり好い環境でやれた。その間に野田先生の結晶レーザーの研究論文が出て『これはとんでもないレーザーだ』と思って先生を訪ねた。その時はもの(製品)にするのはたいへんで、産業技術としては遠すぎるのかなというのが最初の実感だった。しかしその後(野田先生の研究が産業化を目指していることを知って)感激した」「(当時)電子産業、特に半導体産業は経営が厳しくなっていて経営トップに本気でトップ判断を出してもらうのは難しい状況だった」などと振り返った。そして「(企業は)研究開発をやろうという意思は共通していても実用化まであと一歩となった時に、(まさに)その時に投資してもらうために(研究の)中身を理解してもらった上で評価してもらうことに難しさがある。難しくてもこれからも続けていきたい」などと述べた。

写真18 八木重典さん
写真18 八木重典さん

山本さんは「mg→kg→Ton」などと書き込んだボードを掲げながら「ほぼ実用に近い試験装置を作ったことで(個々の目標に向かう)いろいろなモチベーションができた」と試験装置を苦労しながら作った意義が大きかったことを紹介した。そして保坂さんから「ポストACCEL」についての考え方を問われると「すべてのプロジェクトでスタートラインは違う。すべてとは言わないがACCELのようなシステムが必要なプロジェクトはあると思う。すぐに実用化に結びつくものもあるが、大きな素材産業だと実用化はそう簡単ではないものもあるだろう。そうした差もあるが、ポストACCELのような、次につながるものもあればいいなとは思う」と答えていた。

写真19 山本高郁さん
写真19 山本高郁さん
写真20 PMだけによるパネルディスカッションの様子
写真20 PMだけによるパネルディスカッションの様子

話が「ポストACCEL」に移った。「ポストACCELは重要だと思っている」と松川さん。「我々がやっている研究は出口がものすごく広い。あらゆる機械部品は使える。それをどのようにして社会実装するか、について一元管理する組合のようなものとかベンチャーとか、何かとは今は言えないが第三者的組織は必要だと思う。残りはまだ2年あるので考えたい」

保坂さんが「PMは研究者とどのような付き合い方をすれば(成果を上げるために)いいのか」と問いかけた。

岡部さんは「研究者との距離については(研究の)その時どきによって『適切な距離』は異なると思うが、こちらからいろいろなことをお願いすることになるので高いモチベーションを常に持ち続けるようにいろいろ働きかけをしながら関係を築く事が大事だと思う。それが次の材料につながる」。山本さんは「皆が同じ方向に向かっていけるということについては、皆(異なる)人間なので距離を詰めてやることが互いに言いたいことも言えるし、大切ではないか」。

また横山さんは「研究とは、基礎研究から応用研究を途中で切ってしまうといろいろな問題が生じるのでシームレスというか、情報の共有化と臨機応変の対応が必要だと思う。ACCELのように期限があるものは、限られた期間で成果を出さなくてはならないので、そのために工夫していかなければなない。それが若い人のモチベーションにもつながる。(こうしたことが)非常に大事だなと思った」「(ACCELによって)人が育てばいいと思っている。若い研究者が積極的に働けるような形でACCELが運営できればいいし、ポストACCELについてもそういうことを考えてもらえばいいと思う」と横山さん。

「社会の期待、社会の琴線に触れる研究を」

シンポジウムの最後にACCELが始まった当時の理事長だったJSTの中村道治顧問が次のように閉会のあいさつをした。

「PMの制度を本格的に取り入れたのは日本ではACCELが初めてだったと思う。これが機能するか注目してきたが今日の皆さんの話を聞いて非常にいい制度だったと思った。トップサイエンスから社会変革を目指すコンセプトも間違っていなかったと思った」「2050年には地球の人口は100億人近くになると予想されているが、今のままでは地球社会は存続しない。SDGs(持続可能な開発目標)があるが、科学技術に対する社会の期待は大きく、やりがいもある。社会の期待、社会の琴線に触れる研究、事業モデルが続くと国民の皆さんが研究開発にお金を投資してよかったと思ってくれると思う。今日の5課題はいずれも社会の琴線に触れる研究だと思う」「社会に役に立つとはどういうことかを考えた場合、(研究期間が)一律3年、5年で社会に役立てる成果を出すという風潮が強すぎる気がするが今日出された課題はそういうものではない。でないとトップサイエンスは出てこないだろうし社会変革につながらない。大学には将来のイノベーションの種を期待すべきで社会もそれを期待している。そうしたノーマルな状態に戻すべきだろう。社会変革につながる技術に育てるための共同作業は産学官でやることだが、その段階から産業界はもっと投資すべきだと思う」。

このように中村顧問からトップサイエンスを生み出し、実際に社会変革に結びつくための研究のあり方に対する具体的な問題提起が出された。

写真21 閉会のあいさつをするJSTの中村道治顧問
写真21 閉会のあいさつをするJSTの中村道治顧問

またACCEL研究開発運営委員会の松本洋一郎委員長(理化学研究所理事)は次のようにこの日のシンポジウムを締めくくった。

「トップサイエンスをどのようにトップイノべーションにつなげていくか、についてだが、トップサイエンスに携わっている研究者はなかなかイノベーションという出口まで考えないものだ。中には最後まで考えている人もいるが、PMのように社会との触媒役をする人がいると(社会実装に向けた)反応を起こす。これがPMの重要な役割だろう。触媒というか、ある種の異質な人が(研究グループ内の)コミュ二ケーションをとって『社会への目』を見せてくれたり、『こうしたやり方ならブレイクします』といった企業の考え方を教えてくれて、そのことによってSDGsの課題を解決できるんです、などと示してくれる。そうすると研究者は別のモチベーションが出てくる。ACCELはPMが重要であることを示す実証実験だった」「社会から投資が入ってくる次の段階に発展することが重要で、そこでもPMが重要になってくる。そのように次の段階に発展することができれば日本の科学技術を押し上げることができるし、日本や世界の課題解決にもつながっていくのだろう」。

(サイエンスポータル編集長 内城喜貴)

写真22 閉会のあいさつをするACCEL研究開発運営委員会の松本洋一郎委員長
写真22 閉会のあいさつをするACCEL研究開発運営委員会の松本洋一郎委員長
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