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研究現場での研究倫理教育のために ~「JST公正研究推進ワークショップ」開催

科学技術振興機構 研究公正課

掲載日:2017年4月26日

研究不正の事案が頻発すると科学への信頼が揺るぎかねない。研究不正を防止するためにはどのような研究倫理教育が有効だろうかー。 公正な研究活動を進めるための方法を体験できる「JST(科学技術振興機構)公正研究推進ワークショップ」が、東京(3月8日)と大阪(3月14日)の2会場で開催された。参加者はグループに分かれてディスカッションやワークショップを行い、研究現場での研究倫理教育の進め方を考えながら活発な意見交換を行った。

写真、図 札野順教授(左) 札野教授の講義風景(東京会場)(中) ワークショップ開催ポスター(右)
写真・図1 札野順教授(左) 札野教授の講義風景(東京会場)(中) ワークショップ開催ポスター(右)

研究倫理教育の現状と課題-単なる研究不正防止を超えて~「責任ある研究活動」(RCR)

東京会場でははじめに、講師の東京工業大学の札野順(ふだの じゅん)教授が研究倫理に関する現在の動向について講義。以下のように述べた。

「研究倫理には『予防倫理』と『志向倫理』の二つがある。従来の研究倫理教育は、『予防倫理』が中心となっていたため『これをやってはいけない』『この規則を守りなさい』などというように研究活動に制約を加える印象が強くなる傾向があった。しかし、今後はよりよい研究活動を推進するために何をすべきか、という『志向倫理』を中心に、『責任ある研究活動(Responsible Conduct of Research、RCR)』を目的としたRCR教育への転換が必要だ。RCR教育では単なる知識の習得だけでなく、個々の状況に応じて適切な対応を常に考える力を養うために、対話や議論を行うことを重視している。日本では『志向倫理』やRCR教育という考え方はまだ浸透していないため、本ワークショップを通して、その普及・啓発を試みたい」

ワークショップのプログラムは、カルフォルニア大学サンディエゴ校の研究グループが作成し、PI(研究主宰者)など指導的立場の研究者を対象としたものが使われた。参加者はその学習目標である以下の6項目について、それぞれの研究環境に適した内容を考えた。

  1. RCR教育の必要性について理解し、説得的に説明できること。
  2. 研究の現場でRCR教育を行う理由について、説明できること。
  3. (研究環境に適した)研究倫理プログラムの素案を設計できること。
  4. RCR教育の目的(教育目標)と内容を説明できること。
  5. RCR教育のツールを理解し、具体的な適用方法を考案できること。
  6. RCR教育の効果を測定・評価する必要性を理解すること。

ワークショップには、大学、公的研究機関、民間企業からさまざまな分野の研究者だけでなく研究支援などの事務局担当者ら幅広い立場の参加者が集まった(東京・大阪各30数人)。参加者は、それぞれの専門分野特有の問題についても議論できるよう、専門分野の近い者同士5~6名のグループに分かれて課題に取り組んだ。

課題:「なぜ、RCR教育が必要か」を説得できるか? RCR教育の目的と項目は? 何が有効か

最初の課題は、「今、なぜ、RCR教育が必要か」。グループごとに議論した後の発表では、「良い研究者、良い医療人を育成するため」「科学への信頼のため」などさまざまな「なぜ必要か」に対する理由が挙げられ、それらを基に更にRCR教育の目的について考え、各グループはその結果を発表した。

札野教授からは、RCR教育を行う際は研究活動に関して守るべき作法の習得にとどまらず、倫理的判断能力、問題解決能力の育成や、プロフェッショナルとしての品格、態度の育成といった目標を目指すことが必要で、まずはRCR教育を実行してみることが重要だ、との解説があった。

写真2 グループ発表の様子(大阪会場)(左) グループワークの様子(東京会場)(右)
写真2 グループ発表の様子(大阪会場)(左) グループワークの様子(東京会場)(右)

ではRCR教育はどのように実行すればよいだろうか?

RCR教育の方法には講義、e-Learning、両者を組み合わせたハイブリッド、ワークショップなどさまざまな方法がある(*)。また、RCR教育のために特定の科目を設置するのではなく、各科目の中にRCR教育の要素を加える方法がある(マイクロインサーション)。またそれらの科目を組み合わせ、教育課程全体として取り組む方法も有効だ(Ethics across the curriculum)。研究の現場でRCR教育を行えば、さまざまな具体的状況に応じて実践的に学び、日々の研究の中で継続して取り組むことができる。

札野教授によると、RCR教育プログラムの策定にあたっては、研究機関のトップがコミットすること、大学の場合は教育面でのミッションを必ず盛り込み、人を育てる機関である自覚を持つことが大切。さらに、研究室単位でミッションステートメントを作成する場合は、自分たちの研究が社会とどのように関わっているか、自分たちの大事にしている価値は何か、について具体的に考えることによりステートメントを「価値共有型」にすることができる、という。

*紹介されたその他のツール

図2
  • 「セブンステップガイド」:研究倫理プログラム作りを学生の教育に取り入れるためのツールとして有効。 セブンステップガイドを活用して学生に実際に所属する研究室のRCR教育プログラムを考えさせる授業を必修科目として行っている金沢工業大学の事例がある(JST研究公正ポータルサイト参照)
  • 「THE LAB」: ケースメソッドとして使用できる映像教材。研究者の日常を描いたシーンなどを題材に用いることで、「研究者にとって大切なものは何か」など日頃話しづらいようなテーマでも話し合う契機にすることができる(JST研究公正ポータルサイト参照)

ワークショップではこの後、RCR教育の方法、ツールなどについての概説があった後、東京会場では参加者が「現段階で最も有効と思われるRCR教育の方法」を考えた。

参加者はまず、教育のための環境づくりに関して、所属機関で苦心した経験を語り合った。そうした語り合いを踏まえて有効な方法を検討した結果、「研究者の負担感を減らすために事前テストなどでチェックし、個人別に必要な教育内容を厳選する」「研究室の学生が議論する場を設定して、そこにPIもファシリテーターとして参加してもらう」「分野による違いが大きいので、大学単位ではなく学会単位でRCR教育を行う」といった教育方法の提案が続き、リアリティのある活発な議論となった。

写真3 グループワークの様子(東京会場)(左) 「THE LAB」の活用法を解説(大阪会場)(右)
写真3 グループワークの様子(東京会場)(左) 「THE LAB」の活用法を解説(大阪会場)(右)

課題:「研究室の倫理綱領を作る」「どのツールを用いてRCR教育を行うか」

最後の課題は、グループごとに架空の研究室の倫理綱領を作成し、どのツールを利用してRCR教育を行うかを考えてその結果を発表することだった。各グループが発表した倫理綱領の項目例は、「社会へ貢献し、社会からの信頼に応える」「良き研究者たれ」「自律的に意志決定する」など。他にも、「全ての研究室の構成員と各研究プロジェクトを明確に対応付けする」「常にオープンマインドなコミュニケーションを行う」など、研究室の運営について具体的に定めた内容もあった。また、「人権を尊重する」「安全、健康、環境への配慮を万全にする」など、研究の進め方を挙げるグループもあった。

各グループとも、「複数の企業と複数の共同研究を進める研究室」や「ユニット制で複数のPIによる研究グループで構成される研究室」などの具体的な研究室を想定し、真剣に課題に取り組んでいた。これら架空の研究室のRCR教育計画は、複数のツールを組み合わせた教育方法、その実施時期や対象者別に使い分けての計画など、随所に工夫がみられた。

札野教授は「各参加者が所属機関に戻ってそれぞれの研究現場と一緒にRCR教育を考えることにより、さらに多くの優れたアイディアが生み出される、との期待がある」と指摘。「専門分野によって異なる課題も多いために全分野に共通する内容だけでRCR教育を実施すると表面的な内容となってしまう。このような一律のRCR教育を続けることは、形骸化につながることが危惧される。研究室の倫理綱領を作成する際は、規則やルールの作成にならないよう、自分たちが大切にしている価値や社会との関わりについての項目を必ず入れる必要がある」とアドバイスした。また「RCR教育を受けた個人の効果測定だけでなく、RCR教育の実施による組織の効果測定も必要だ」と述べた。同教授は最後に、全参加者に対し、これからも連携して公正な研究活動を推進することの重要性を強調して、熱気にあふれたワークショップは終了した。

今回の詳細な内容は、「研究公正ポータル」で確認できる。また、29年度のJST公正研究推進ワークショップの開催予定は、後日「研究公正ポータル」で案内予定。

写真4 いずれも大阪会場でのワークショップの様子(左と右の写真の人物は札野教授)(ST研究公正課・鶴峰 麻耶子、鹿沼智美、元同課・神戸悟)
写真4 いずれも大阪会場でのワークショップの様子(左と右の写真の人物は札野教授)

(JST 研究公正課・鶴峰 麻耶子、鹿沼智美、元同課・神戸悟)

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