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「日本発イノベーションが未来を拓く」-SIPシンポジウム2016開催

科学技術振興機構 サイエンスポータル編集部

掲載日:2016年10月14日

「日本発の科学技術イノベーションが未来を拓く」をテーマに「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)シンポジウム2016」が10月4日 、東京都港区の品川インターシティホールで開かれた。鶴保庸介内閣府特命担当大臣(科学技術政策)は「イノベーションによる成長エンジンが以前にも増して重要になっている」とあいさつした。日本学術振興会の安西祐一郎理事長は基調講演で「イノベーションをどう達成するかはこれからの日本の運命を決める大きな分岐点だ」などと述べ、第5期科学技術基本計画の大きな柱である「Society5.0」を実現するためにも「人工知能技術戦略会議」の下「産業連携会議」による産業化ロードマップ作りや人材育成が急務であることなどを強調した。続いてエネルギー、次世代インフラ、地域資源など広い分野にわたるSIPの11課題について各課題のプログラムディレクター(PD)が課題進捗(しんちょく)状況を発表、PDによるパネルディスカッションが行われた。(安西氏の多くの問題提起を含んだ基調講演を中心にレポートする)

写真1 開会のあいさつをする鶴保庸介内閣府特命担当大臣
写真1 開会のあいさつをする鶴保庸介内閣府特命担当大臣

シンポジウムの冒頭、鶴保大臣があいさつし、前日の3日に東京工業大学の大隅良典栄誉教授がノーベル医学生理学賞を受賞することが決まったことを引き合いに「大隅教授は受賞会見で基礎研究を見守ってくれる社会であってほしい、と言われたが、そうした社会を作っていくためにもイノベーションによる成長エンジンが以前にも増しても重要になっている」「SIPは、社会に不可欠で国民にとって重要な課題や、わが国の経済、産業競争力を高めるため(の課題に)産学が連携し各府省を越えて挑戦するプログラムだ」「本日はSociety5.0をどのように実現しようとしていくか議論を深めていただきたい」などと述べた。

この後、人工知能(AI)技術戦略会議議長でもある安西氏が「AI、ビッグデータ、IoTの研究開発とSociety5.0の実現」と題して基調講演した。要旨以下のように話し、日本が将来、イノベーションの分野で世界を先導する国になるためには多くの課題があることを訴えた。

(主な発言要旨)

「SIPのマネジメントは日本の科学技術政策の中でたいへん参考になるモデルになると思っている。(理事長をしている)日本学術振興会としても基礎研究を支えているが、日本を挙げてイノベーションをどうすれば達成できるか、はこれからの日本の運命を決めるたいへん大きな分岐点だ」

「第5期基本計画の本文にはあらゆるところに多様性、柔軟性という言葉が出てくる。これまでこの二つは日本にはないと言われてきた。(基本計画はこうした状態を)ITを基礎に変えようということだ。ITの技術を入れればそれで変わるというのではなく社会を変えなければいけないというのが我々のスタンスだ。基本計画の期間の5年で多様性や柔軟性を持った社会が実現できて、それをICTがサポートしていくことができるようになるかどうかは我々がやらなければならないことで、誰かがやってくれるものではない」

「喫緊の課題がいくつかある。ひとつは経済の再生、そして仕事の転換だ。これらをICT、AI、ビッグデータなどでどうサポートできるか、は非常に大きな転換点だ。それから社会の変革、構造改革をし、(各分野の)協力の在り方も変え、連携していかなければならない」

「大学の研究者は社会の中に目標を求めることが大事で、大学研究者のマインドをどう変えていくかも課題だ。また産学連携はウインウインの関係でないといけない。(略)。企業(の研究開発)は製品を売るとことを目標とするなら今の技術を見極めていけばいいが、(国の)研究開発は社会の中に目標を求めることが大事だ。オープンイノベーションについても、いろんなところでパイプが詰まっている。人材の問題などだ。これを変えていかなくてはいけない」

「ICT全体の底上げをしなければならないが日本はまだICTの人材の層が薄い。いっぱい課題があるがそれらは全部関係、連携している。どれか一つを取り除けばいいというわけではない。人材を育成してもジョブマーケットがちゃんとしていなければならないし、ジョブマーケットができるためにはイノベーションが完成して経済再生も(必要)だ。全部関係している。将来18歳人口、若年人口が急減する。1993年に205万人いたのが今は120万人を切っている。これは国内需要が減ること、働き手が減ることだ。大学卒は減っていないが高校卒が激減している。高校を出てプログラマーとかになる人が激減している。(こうした状況で)大学でどういう教育をしたらいいかは大きな課題だ。人工知能の研究開発のバックにはこうした日本のイノベーション人口の問題がある」

「(安倍総理の指示の下)総務省、文部科学省、経済産業省の3省が連携して人工知能技術戦略会議ができた。その下に産業連携会議ができて現在産業化ロードマップを作成中だ。これからどういう社会をどう実現するかの解決策はまだない。(AI、ビッグデータ、IoTを活用して)どういう社会になるのかというはっきりした輪郭を持たないと産業化のロードマップはできない」

「オールジャパンで推進する体制ができつつあるが産業界が参加しやすいような体制を作らなければならない。試行錯誤中だが、日本特有の縦割りの問題など課題がまだまだあり、一つ一つ穴を空けていかなければならない。それができるかどうかは日本にとっては死活問題だ」

「アルファ碁の成功(の要素)はディープラーニングだけでない。確率探索や、GPUを並列に並べたアーキテクチャーとディープラーニングの相性が非常によかった。論文著者は20人いる。一人ではない。いろんなことが重なってそこにディープラーニングがあった。日本もICTのいろんな分野が総合的に進むこと、応用分野が一緒にコミュニケーションをとっていくことが重要だ。材料研究で例えると、自分の材料開発研究だけでなく、社会がどういう動きをしているのか、これからどうなるのかを見込んで、何年か先にどういうこと(材料)を実現したいのかという目標を持って研究をする必要がある」

写真2 基調講演する安西祐一郎氏
写真2 基調講演する安西祐一郎氏

「SIPでもPDのような主要研究者とAI、ビッグデータなどの研究リーダーが真摯(しんし)に議論することが大事だ。どういう技術が使えるのか、どういう技術をAI研究側が開発していくのか相当白熱した議論をして初めて結果が出る。グーグルは1企業の中でそういうことをやっている」

「大学の研究構造は変わっていない。デバイス関係の論文は多いがソフトウエアや信号処理の論文は少ない。情報通信系の研究が中心にならない構造が続いてきた。情報通信系の大学の予算が増えていない。いろんなことが重なって人材が育っていない。AI人材が足りない。(略)。必要な人材は世界に求める必要がある。組織体制の整備も必要だ」

「科学技術と社会の関係で言うと、(歴史上)グーテンベルクの活版印刷の技術があった。(最近は)パケット通信技術があった。誰かが(偉大な)技術を作るとだいたい50年ぐらいで社会は変わってきた。今ディープラーニングが出て、IOT、クラウドもあって、いろいろなことが変わりつつある。2000年から50年経て 2050年。ITの技術により社会が激変している可能性がある」

写真3 スクリーンに映しだされた「産業競争力の強化を目指したオールジャパンの体制構築」の図
写真3 スクリーンに映しだされた「産業競争力の強化を目指したオールジャパンの体制構築」の図

安西氏は講演の最後に「日本が(将来)ほんとうにイノベーションをリードする、あるいは、ちゃんと経済が成り立って発言力がある国であるためには、まだ(第5期基本計画に出てくる)多様性と柔軟性が欠けている。この問題を何とか突破してイノベーションを起こしていくことがSIPの課題を含めて喫緊の課題だ」と多くのSIP関係者らを前に強調した。

松本英三内閣府大臣官房審議官がSIPの概要や特徴などを分かりやく説明した後、11の課題ごとに計11人のプログラムディレクター(PD)が交代しながら登壇し、進捗状況などを説明した。

写真4 SIPの概要を説明する松本英三内閣府大臣官房審議官
写真4 SIPの概要を説明する松本英三内閣府大臣官房審議官
SIPの課題は以下の11。カッコ内はプログラムディレクター(PD)とPDの現在の肩書き。詳しい研究開発内容などは内閣府ホームページ「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:エスアイピー)」関連サイト参照(http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/)
  • 「革新的燃焼技術」(PD・杉山雅則氏・トヨタ自動車パワートレーン先行技術領域長)
  • 「次世代パワーエレクトロニクス」(同・大森達夫氏・三菱電機開発本部主席技監)
  • 「革新的構造材料」 (同・岸輝雄氏・新構造材料技術研究組合理事長・東京大学名誉教授、物質・材料研究機構名誉顧問)
  • 「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」(同・後藤厚宏氏・情報セキュリティ大学院大学研究科長兼教授)
  • 「エネルギーキャリア」(同・村木茂氏・東京ガス常勤顧問)
  • 「次世代海洋資源調査技術」(同・浦辺徹郎氏・東京大学名誉教授・国際資源開発研修センター顧問)
  • 「自動走行システム」(同・葛巻清吾氏・トヨタ自動車CSTO補佐)
  • 「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」(同・藤野陽三氏・横浜国立大学先端科学高等研究院上席特別教授)
  • 「レジリエントな防災・減災機能の強化」(同・中島正愛氏・京都大学防災研究所教授)
  • 「次世代農林水産業創造技術」(同・野口伸氏・北海道大学大学院農学研究院教授)
  • 「革新的設計生産技術」(同・佐々木直哉氏・日立製作所研究開発グループ技師長)
写真5 前列左から杉山雅則氏、大森達夫氏、久間和生氏、安西祐一郎氏、岸輝雄氏、村木茂氏。後列左から浦辺徹郎氏、葛巻清吾氏、藤野陽三氏、中島正愛氏、後藤厚宏氏、野口伸氏、佐々木直哉氏
写真5 前列左から杉山雅則氏、大森達夫氏、久間和生氏、安西祐一郎氏、岸輝雄氏、村木茂氏。後列左から浦辺徹郎氏、葛巻清吾氏、藤野陽三氏、中島正愛氏、後藤厚宏氏、野口伸氏、佐々木直哉氏

この日のシンポジウムの最後に11人のPDによるパネルディスカッションが行われた。

SIPの課題はいずれも基礎から社会実装、産業化までを視野に入れた成果が求められている。予算が確保されて権限も持たされている分、評価も厳しく行われる。さまざまな面でPDの苦労も多いという。それぞれのPDは抱えている苦労や思いなどを要旨以下のように語った。

「課題を見つけて解決していくよう進めている。各委員からいろんなサポートをもらっている。若い人も含めいろんな人の力を借りていい方向に向いているように思う」(「革新的燃焼技術」の杉山雅則氏)

「(研究開発の)現場を訪問すること大事だ。SIPのよいところは(研究開発の進め方、あり方を)当初の形から途中で変えられることだ。仕事として面白い」(「次世代パワーエレクトロニクス」の大森達夫氏)

「水素は多岐にわたる分野なので全体を俯瞰して最適プログラムを推進していかなくてはいかない。関係する府省も多く連携は簡単でないことも実感している。5年で社会実装ではできないと思うが日本の社会、経済、産業に貢献できるように育てていく仕組みをうまく作っていくことが大切だと思っている。産官学連携の太い幹はできている」(「エネルギーキャリア」の村木茂氏)

「深海の技術であり、対象が自然なので台風が来たりする苦労もある。広い海を対象にした(確立した)テクノロジーは世界的にもまだない。産業化の例が世界にない中で世界に打って出るという課題がある。こういうテクノロジーがあればこういうサービスが提供できるということが分かってきた。こういうことをやっているのは世界でも日本だけで成果が挙がっているのも我々だけと思いながら今後もうまく行くようにしたい」(「次世代海洋資源調査技術」の浦辺徹郎氏)

「SIPには成果が社会に埋め込まれる喜びがある。そういう価値がある。(課題の成果を挙げて)日本の次の世代にいいインフラを残していきたい。私の専門は橋だが(次世代への)橋渡しが仕事と思っている」(「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」の藤野陽三氏)

「防災の世界は守りの世界でマーケットに委ねるわけにはいかない。防災は『公』が関与する。10省庁が参画して連携も多いが、各省庁独自のスタイルがあり連携も容易ではない。平常時の最適化は非常時にはあまり役立たない。非常時に備えて顔が見える人間関係、信頼関係が大切で、これを平常時から作ることが大事だ」(「レジリエントな防災・減災機能の強化」の中島正愛氏)

「ユーザーにとって価値があるのか、社会実装でみんなに使ってもらえるツールとはどういうものか、を考えているがこれが大きな課題だ」(「革新的設計生産技術」の佐々木直哉氏)

パネルディスカッションの後半は、総合科学技術・イノベーション会議常勤議員で、SIPガバニングボードの久間和生座長が登壇し、Society5.0実現に向けSIPがどういう役割を果たすべきかなどについて精力的に発言した。

久間氏は「第5期基本計画はこれまで(の計画)と違って産業界と一緒になってやっている。Society5.0という名前も産業界からの提案だ」と産業界との連携の重要性を強調、自動走行などSIPが関係した成果を挙げた上で「Society5.0(が目指すの)は人間中心の社会という。(Society5.0では)サイバー空間が重要で、サイバーとフィジカルなものがうまく融合して日本経済が発展することと日本が抱える世界的課題を解決することが両立すること。ここが重要で、その結果人間中心の社会を作っていくということを忘れないでほしい」と述べた。

また11課題については「うまくいっている課題ともう少しがんばってほしい課題がある」と指摘し「SIPでは事業化を進めるとともに基盤技術も強化し、人材育成も継続してやってほしい。多くの課題で産学官の連携がうまくできているがPDにお願いしたいのはもう少しグローバルな活動をしてほしい。国際連携の推進が大事だ。先進国ととも新興国との連携も意識してほしい。行ったら何かを持って帰ってほしい」などとSIP関係者に要請した。

久間氏は閉会のあいさつで「SIPのそれぞれの課題は成果が着実に出ているがどの課題もグローバル競争が熾烈な分野だ。今社会が大きく変化している。皆さんは現状の開発に満足せず、常に状況を分析し、グローバル展開を視野に入れるだけでなく、グローバル競争に勝ち抜くことを目標にしてほしい」と述べた。この日のシンポジウムは昼休みを挟んで7時間近くにわたり白熱したやり取りが続いた。

(サイエンスポータル編集部)

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