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海外レポート [シリーズ] 諸外国における製造業強化のための研究開発戦略 <第3回> ドイツ:製造業高度化プロジェクト「インダストリー4.0」

2015.08.18

澤田朋子 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 海外動向ユニット フェロー

注目される製造業再活性化の動き

 世界的に製造業再活性化の議論が高まっている。複雑化する生産プロセスや日進月歩の技術革新など、現代の製造業は大きなチャレンジの中に置かれている。エネルギーをはじめとした有限な資源をどう利用していくか、ますます短くなるイノベーションサイクルにどう対応するかなど課題は多い。

 ドイツをはじめとした先進工業国にとって、これまで主に安い労働力で組み立てを中心に行ってきたアジア諸国や南米諸国が技術力、イノベーション力を備えてきていることは大きな脅威である。また、急激に進む高齢化で将来の労働人口が減少することは避けて通れない事実であり、国際競争力維持のためにも新たなコンセプト下で次世代の稼ぎ頭を生む努力が必要となってきている。

 このような背景を踏まえてドイツ連邦政府から2011年に出されたのが、産学官共同のアクションプラン「インダストリー4.0」である。「インダストリー4.0」とは、第四次産業革命の意で、 ワットの蒸気機関発明に代表される手工業から機械工業への転換「第一次産業革命」、電気を利用したベルトコンベアによる大量生産「第二次産業革命」、コンピュータ制御によるIT利用の「第三次産業革命」を経て、現在、グローバル化した世界経済は新しいものづくりの時代にきているという認識で命名されたドイツ特有の概念である。

 輸出競争力のある、高度に個別化された製品を輸出することと、工作機械の輸出大国としてスマートファクトリの生産プロセスを輸出する二段階の戦略(デュアル戦略)を持っている。生産の標準化をいち早く推し進め、世界の工場でその一番のカギとなる部分をドイツが握るというのが「インダストリー4.0」の戦略である。

図. 産業革命の4段階
図. 産業革命の4段階

 2006年に発表されたドイツ初の科学技術イノベーション基本政策「ハイテク戦略」の更新版、「ハイテク戦略2020(2011〜14年)」の中で政府は、社会的な課題を解決するための10のアクションプラン(政策)を順次提示した。そのうちの一つが「インダストリー4.0」である。他の9つのプランと比べて、「インダストリー4.0」は、ドイツの主産業である自動車、機械などに関わること、経済成長や雇用の確保など喫緊の課題を包含することなどから、政策としての優先度が高いとドイツ国内では認識されている。産業界、アカデミア、政府、労働組合が力を合わせ、日本や欧米の先進国、BRICSなど新興工業地域に先んじて製造業再生のイニシアティブを握ろうと一丸となっている様子がうかがえる。

インダストリー4.0 「考える工場」

 「インダストリー4.0」では、スマートな「考える工場」の実現を目指している。ここでは、(1)全ての製品は製造に必要なデータを備え、(2)製造工程の全ての機械がネットワークにつながり自立的に動作し、(3)生産の状況に応じて機械、プロセスが適宜最適化される。資源やエネルギーの無駄の少ない工場で、小ロットでも低コストの生産を可能にすることが期待されるのが未来の「考える工場」である。

 IoT(もののインターネット)により生産設備や製品が相互につながる高効率な生産を可能にした工場は、完全なる自動化生産ではなく人間もつながって生産の中心は人間であるとされている。ドイツ連邦教育研究省(BMBF)が2012年に出した「インダストリー4.0」に関する計画書(Zukunftsbild ? Industrie 4.0)には、2025年までに米国、中国を抜いて輸出が世界第1位になるという目標が明記されている。

インダストリー4.0 産学連携ケーススタディー

 ハイテク戦略の下で実施されている、旗艦プログラム「先端クラスター競争」に採択された15のクラスターの中で、オストヴェストファーレン=リッペ(デュッセルドルフから北東に150km)のit’s OWL(Intelligent Technology System OstWestfalen-Lippe)を7月に視察した。連邦政府から5年で4千万ユーロ(日本円で約60億円)、6千万ユーロ(約80億円)を産業界が拠出するマッチングファンドである。

 参加機関は、大学、FhGなどアカデミアが17機関、研究開発プロジェクトを率いる企業が22社、賛助会員企業が80社、商工会議所など関連団体が約30機関となっている。5つの基盤技術をアカデミアが、33のイノベーションプロジェクトを企業が主体となって研究し、小規模企業である賛助会員には技術移転プロジェクトを通して、新技術を還元する仕組みとなっている。2012年の助成開始から2年あまりで、既に当初目標の1万人の新規雇用、50社の新規起業、地元大学における4つの学部・学科新設を達成した、成功しているクラスターのひとつである。

 「インダストリー4.0」の目標である「考える工場」の研究開発を行っており、ドイツ国内でも研究拠点として注目されている。下記の写真は、オストヴェストファーレンーリッペ専門大学(Hochschule Ostwestfalen-Lippe)構内に企業の寄付で建設された研究棟で、クラスターに参加している企業の研究部門や、フラウンホーファーIOSB-INA(オプトエレクトロニクス・システム技術画像処理研究所産業オートメーション研究センター)、オストヴェストファーレンーリッペ大学の研究者がまさにFace to Faceで研究を行っている。

 フラウンホーファーIOSB-INAは、総合大学(University)ではなく、専門大学に設置されたFhGとしては初めての研究センターで、限りなく実践的な応用研究を行っている。このデモ機は、今春のハノーバー見本市で展示されたもの。集中制御で動線を指示するのではなく、パーツに搭載されているチップが次の工程を示し、ベルトコンベアを進んでいく。ロボットアームがそのチップを読み取る機能と、Google Glassのようなデバイスで労働者に作業の手順を示すアシスト機能を持つ機械の実証実験が行われている。

写真.it’s OWL 研究拠点で展示されているデモ機
写真.it’s OWL 研究拠点で展示されているデモ機

 同プログラムの助成期間終了後(2016年)は、欧州技術機構(Eeropean Institute of Technology)の資金の活用を計画している。2018年スタート予定のKICs(Knowledge and Innovation Communities)Added-value Manufacturingへの応募を検討中で、引き続き製造業におけるイノベ-ション創出に取り組み、ドイツそしてヨーロッパを代表する拠点となる目標を持っている。

「産学官連携ジャーナル」の記事を一部改変

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