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サイエンスアゴラ2014「開幕セッション:アゴラ:あなたと創るこれからの科学と社会」

掲載日:2014年12月2日

2014年11月7日-9日まで開催されたサイエンスアゴラ2014は「あなたと創るこれからの科学と社会」をテーマに、さまざまなステークホルダーが参加し、科学と社会について議論する場が設けられました。開幕セッションおよび、キーノートセッション1~6それぞれについて7回にわたってレポートします。

会場の様子

今年で9年目を迎えるサイエンスアゴラ。2011年の東日本大震災や、昨今の科学コミュニケーションの概念そのものの広がりによって、科学リテラシーや科学者自身による市民とのコミュニケーション、また政府の政策立案に対して科学者がどのように関わるべきか、といった課題が浮上してきました。

現代は、科学技術の楽しさを伝えるだけではなく、科学が社会においてどのような位置づけをもち、科学者がどのように情報発信や対話を行っていくのかが求められる時代とも言えます。今回のイベントは、まさにそうした科学と社会のあり方を改めて見つめなおすひとつのきっかけとなりました。

開幕に先立ち、政府首脳に対して科学的な立場から助言を行っている、ニュージーランド政府首席科学顧問のピーター・グルックマン氏より基調講演がなされました。

 

■科学と社会のつながりをもつための政策立案の助言がますます求められる

会場の様子
ニュージーランド政府首席科学顧問のピーター・グルックマン氏

科学技術の進歩は、経済発展や私たちの生活改善など、いまや人類の未来にとって欠かせないものとなりました。同時に、イノベーションによるCO2排出量の増加や人口増加、さらには技術による価値観や倫理観の対立を生むなど、科学技術が問題の原因を生み出している、という事実も見逃してはなりません。

グルックマン氏は「科学の進歩を、社会がそのまま受け入れるとは限りません。進歩すればそれでいい、と科学者が考えていては、社会において矛盾や対立を発生させてしまいます」と指摘。

技術の進歩そのものだけではなく、社会においてどのように受け入れられるかといった「価値観を伴った科学」を考えなければいけないと言います。また、社会問題を科学がすべて解決するわけでもありません。もちろん技術の進歩によって選択肢をつくることはあるかもしれませんが、科学も万能ではないことを科学者やあらゆる人たちが認識しなければなりません。さまざまな事件や事故によって、科学の信頼自体が揺れ動かされている昨今、科学が可能なものと可能でないものを理解したうえで、市民に対して適切な情報開示やコミュニケーションを行うことの重要性がますます求められています。

こうした状況のなか、政府はイノベーションを推進するために研究開発に対して予算を投入する動きが起きています。経済発展だけではなく、環境や保健科学、生物保護、公衆衛生の改善など、さまざまな分野に対する技術への期待は日々高まるばかりです。そのためにも、国家間の連携や世界の科学者同士のコミュニケーションの密度も高めていかなくてはなりません。

さらに、グルックマン氏が政府首席科学顧問を務めているように、科学者自体が政府に対して助言を行う場も増えてきました。「政府の現場と科学とのつながりをどのように行うか。科学への信頼と連携性を高めるためにも、科学分野の考えを政策立案者に反映する助言を行わなければいけないのです」(グルックマン氏)。

グルックマン氏は、科学的助言に対して3つのポイントがあると言います。一つ目は政治家と専門家が集まり、熟議を重ねる正式なアドバイス。二つ目は科学者と政治家が適宜コミュニケーションを行い、適切な政策立案を行うための非公式なアプローチ。三つ目は災害時などの緊急時において、イシューを即座に決定する緊急性の高い助言です。

科学者は、これまでは公式のアドバイス以外にはあまり積極的に政策立案に関わってきませんでした。今後は、社会において科学を有用に活用するために、積極的な助言やコミュニケーションを図る努力が求められるなど、科学者のあり方自体が見直されているのです。

 

■科学者同士の連携や分野の垣根を超えた科学体験の必要性

左から、モデレーターの金子直哉氏、狩野光伸氏、富田達夫氏、高橋真理子氏、原山優子氏、ピーター・グルックマン氏
左から、モデレーターの金子直哉氏、狩野光伸氏、富田達夫氏、高橋真理子氏、原山優子氏、ピーター・グルックマン氏

基調講演のあとは、パネルディスカッションが行われました。登壇したのは、岡山大学教授の狩野光伸氏、朝日新聞社編集委員の高橋真理子氏、産業競争力懇談会(COCN)実行委員の富田達夫氏、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員の原山優子氏、基調講演にも登壇したピーター・グルックマン氏、モデレーターに横浜国立大学教授の金子直哉氏。

金子氏は、グルックマン氏の講演の流れを受けつつ、「科学と社会との関係において、科学者だけではない多様なステークホルダーとの関係を考えるためのパネルセッションにしたい」と、ディスカッションの方向性について提示。登壇者それぞれの意見をもとに活発な議論をしていきたい、と話を促しました。

狩野氏は、科学を目的、方法、結果、考察、講評といったそれぞれのフェーズで考えるべきだと指摘。市民が科学に求めるものと科学者がもっている目的のズレを認識し、目的を共有した上で科学がもつ創造性や客観性のある研究を行うことが重要だと語りました。また、研究によってどのような結果が得られるか、逆にどのような結果が得られないのかを論理化し、目的に対してどこまで達成しているのかを伝える努力をすることが求められると言います。それを踏まえて、科学は誰のためのものか、科学が社会や人々のこれからに対して貢献しているのかを科学者は再認識するべきだとコメントしました。

高橋氏は、欧州の統一的な研究体制を推進するための会議である「ユーロサイエンス・オープンフォーラム」が科学者の草の根活動から生まれてきたことを踏まえ、国を越えて科学者が市民との対話を実現している動きに注目。サイエンスアゴラは市民の対話を促進する場としての意義を認めつつも、足りないものとして「科学者による科学者のための分野を超えたオープンな議論」、「多様性」、「アジアにおける組織的な共同研究体制」と指摘しました。科学者同士の連携や科学者自身の能動的な活動が今後ますます必要になるとコメント。「みんなでつながりサイエンスを良くする場として、サイエンスアゴラを考えていきましょう。科学のためにアゴラを利用することが大切です」と語る高橋氏は、多様な議論と能動的な活動を活発にし、そこから生まれた実績を広く伝えていくことが、社会と科学の関係性がより良いものへ進むと述べました。

富田氏は、産業競争力懇談会(COCN)において、企業同士が連携しイノベーションの推進のため77もの推進プロジェクトを立ち上げたことについてプレゼンテーションを行いました。内閣府が主導するSIP(戦略的イノベーション創造プロジェクト)にも採択された活動を行っているとし、企業も今後ますます科学技術を社会のニーズに対応していくことの重要性を指摘しました。

原山氏は、今回のサイエンスアゴラのテーマである「あなたとつくる」の「『あなた』とは科学者であり、ひとりひとりの市民でもある」とコメント。科学者のみならず、すべての人が科学と社会のあり方について考え、コミュニケーションから更に一歩踏み込んだ「ともにつくりだす」ための共同作業を行うためにも、オープンな活動がこれから求められてくると語りました。

「既存の概念の延長ではなく、これまでにない新しい可能性を追求するためのきっかけをつくりだすこと。科学において今までにない飛躍やイノベーションを起こすためにも、若い世代のチャレンジを推奨するような場をもうけていきましょう」(原山氏)

各登壇者の話をうけ、グルックマン氏は「新しい技術や知識をどのように使っていくか。科学がもつリスクを社会がどのように受け止めるか、リスクに対して市民との対話をしっかりと行うことが必要です」と語り、技術がもつ良い面と悪い面をきちんと科学者が理解し、かつ、それを市民に対して理解を促進していくことの重要性を説きました。

狩野氏や高橋氏が指摘するように、分野を越えた科学者同士のコミュニケーションを活発に行うことは今後ますます求められてきます。分野を横断する素地をつくるためにも、文系や理系、国内や国外といった考えを取り除かなければなりません。そのためにも、特に若い世代に対して幅広い科学の知識や教育の場の提供、自然科学や社会科学に関係なく科学そのものが刺激的だと感じる経験を提供することが求められます。若い世代へバトンを渡す認識を既存の科学者たちが認識し、高校生などがサイエンスアゴラに気軽に参加する機会を提供することは、今すぐにできるアクションだと登壇者たちは賛同の声をあげました。

文理の垣根を取り除き、さまざまな分野を体験できる場を提供しながら、社会における科学への理解を広げ、かつ社会における科学のあり方をあらゆる人が考えるようになることが、これからますます求められてくるといえるでしょう。

 

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