レポート

「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)」第9回年次総会

2012.11.05

北場 林 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター戦略推進室 調査役

 “科学技術版のダボス会議”といわれる国際会議「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム:Science and Technology in Society forum)」の第9回年次総会が10月7-9日、国立京都国際会館で開かれた。第9回となった今年は、世界96カ国・地域・国際機関から約1,000人の科学者、科学技術担当大臣などの政策当局者、各国主要大学の長、世界的企業の経営者、ジャーナリストなど、科学技術分野に携わる各界のリーダーが一堂に会した。

概要

 STSフォーラムが掲げる「科学技術の光と影」というメーンテーマのもと、「環境とエネルギー」「人口と資源」「21世紀の大学の役割」などをテーマにした全体会議と21の分科会が開かれ、再生可能エネルギーの可能性や原子力技術の将来、産学官連携の推進方策や世界的な人口増加への対処方法など、多岐にわたる論点について活発な論議が交わされた。

 開会式で登壇した田中眞紀子・文部科学大臣は、昨年3月に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故について、「まさに科学技術の『光』と『影』が顕在化した問題」と指摘し、「今後も科学技術の発展に伴う不測の事態は起こり得ると認識し、対処を考えることが重要」と訴えた。フランスのジュヌヴィエーヴ・フィオラゾ高等教育・研究大臣は、「長期にわたる経済危機に直面している今こそ科学技術イノベーションが重要」と述べ、「単に富の生産だけが目的ではなく、社会の重要な諸課題に解決策をもたらす」として科学技術への期待を表明した。

 「原子力の安全と将来の発展」と題したセッションでは、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長が「地球温暖化や資源問題などから原子力は多くの国で重要な選択肢となる傾向が強まっている」と指摘、「エネルギー政策のあり方は個々の国家次第だが、原子力の将来には国際協力が不可欠だ」と主張した。「イノベーションの推進」をテーマにした会議では、ロシアの政府系投資会社ロスナノのチュバイス最高経営責任者(CEO)が、グラフェンなどの新素材を建築に活用する技術の有効性を説きつつ、「新興市場に技術移転するためには大規模な科学プロジェクトが必要だ」と訴えた。

 また、「世界の保健問題」を扱った全体会議では、翌日にノーベル医学生理学賞を受賞することになる京都大学の山中伸弥教授が登壇し、iPS細胞技術を発展途上国に普及していく際の課題として、企業の特許取得によるコスト高が新しい医療技術の発展を妨げてしまう問題などを指摘した。山中教授ノーベル賞受賞の報は、フォーラム2日目の晩さん会中にもたらされ、会場が大きな拍手で包まれるなど、今年の会議を一層盛り上げることとなった。

 最終日には、STSフォーラムの創設者である尾身幸次理事長(元財務大臣)が、各セッションにおける議論を18項目に取りまとめた声明を発表し、3日間の日程を終えた。

関連会合

 STSフォーラムでは、本体の会議の他に各種の関連会合が同時並行的に開催されることが一つの特徴であり、今年も下記のようなステークホルダーごとの会合が開かれた。

  • 科学技術関係大臣会合:内閣府主催、12カ国大臣+10カ国政府代表参加
  • 大学学長会合:東京大学・カリフォルニア工科大学共催、40大学参加
  • 学術アカデミー会長会合:日本学術会議主催、21機関参加
  • 工学アカデミー会長会合:日本工学アカデミー主催、13機関参加
  • ファンディング機関長会合:JST・DFG共催、26機関参加
  • 研究機関代表者会合:理化学研究所・産業技術総合研究所共催、16機関参加

 これらのうち「ファンディング機関長会合」は、世界のファンディング機関が共通して抱える関心事項や課題について知見を共有し連携を促進することなどを目的に、科学技術振興機構(JST)とドイツ研究振興協会(DFG)が2010年から共催しているものである。3回目となる今年は、中村道治JST理事長とマティアス・クライナーDFG会長が共同議長を務め、「科学の健全性の確保と科学者の行動規範にかかるファンディング機関の役割」、「科学技術関連情報のオープンアクセスの重要性」、「研究者の発想に基づくファンディング(ボトムアップ型)と政策に基づくファンディング(トップダウン型)の運営」の3つのテーマについて討議が行われた。

 上記の他にも、STSフォーラムの付属プログラムである地域気候変動セッション(RCC:Regional Climate Change Conference)や、欧州連合(EU)代表部と政策研究大学院大学(GRIPS)共催の日本EU科学政策フォーラム「日本の新しいエネルギーミックス」などが、フォーラム前日に京都で開催されるなど、STSフォーラムの前後は多くのイベントが相次いで開かれた。

 近年では、STSフォーラムに出席する科学技術関係の要人の訪日に合わせ東京でも多くの会合が組まれており、10月の第一日曜日の前後は、さながら「科学技術の国際交流週間」とでもいうべき状況になっている。2004年から始まったSTSフォーラムは、来年記念すべき10回目を迎えるが、“科学技術版ダボス会議”としてますます定着してきたようである。

第9回STSフォーラムの主な参加者

 政官界:田中眞紀子・文部科学大臣、前原誠司・内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)、ジュヌヴィエーヴ・フィオラゾ高等教育研究大臣(フランス)、リノ・バラニャオ科学技術・生産革新大臣(アルゼンチン)、ゲリー・グッドイヤー科学技術担当国務大臣(カナダ)、ナディア・イスカンダル・ザハーリ科学技術研究大臣(エジプト)、グスティ・ムハメド・ハッタ研究技術大臣(インドネシア)、プロートプラソプ・スラサワディー科学技術大臣(タイ)、マーガレット・カマル高等教育科学技術大臣(ケニア)、ジョン・ベディントン政府主席科学顧問(英国)、森口泰孝・文部科学省事務次官、丸尾眞・外務省科学技術協力担当大使 など。

 産業界:米倉弘昌・経団連会長、長谷川閑史・経済同友会代表幹事、西田厚聰・東芝会長、永山治・中外製薬会長、内山田竹志・トヨタ副会長、小林喜光・三菱化学会長、チャールズ・ホリデー バンク・オブ・アメリカ会長(米国)、アブドラ・アルサーニ カタールテレコム会長(カタール)、アナトリー・チュバイス ロスナノCEO(ロシア)、ジェレミー・グランサム GMO 共同創業者兼最高投資戦略責任者(米国)、エリアス・ザフーニ サノフィ グローバルR&D担当社長(米国)、ジェラルド・スコットマン ロイヤルダッチシェルイノベーションR&D 副社長兼最高技術責任者(オランダ)など。

 学術界:ジェローム・フリードマン マサチューセッツ工科大学名誉教授(米国、1990年ノーベル物理学賞受賞)、カルロ・ルビア サスティナビリティ研究所技術担当理事(イタリア、1984年ノーベル物理学賞受賞)、李遠哲・台湾中央研究院名誉院長・国際科学会議(ICSU)会長(台湾、1986年ノーベル化学賞受賞)、野依良治・理化学研究所理事長(2001年ノーベル化学賞受賞)、ジョン・サルストン 科学倫理イノベーション研究所長(英国、2002年ノーベル医学生理学賞受賞)、山中伸弥・京都大学iPS 細胞研究所所長(2012年ノーベル医学生理学賞受賞)、ベルナール・ビゴ・ 原子力庁最高顧問(フランス)、マーク・ウォルポート ウェルカム・トラストディレクター(英国)、ジャン=ルー・シャモー カリフォルニア工科大学学長(米国)、ハリエット・ウォルバーグ=ヘンリクソン カロリンスカ研究所長(スウェーデン)、デービット・ネイラー トロント大学学長(カナダ)、大西隆・日本学術会議会長、安西祐一郎・日本学術振興会理事長、吉川弘之・JST研究開発戦略センター長など。

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