サイエンスポータル SciencePortal

レポート - その他のレポート -

市民が本当に必要としている情報

札幌市在住 神村章子 氏

掲載日:2011年3月30日

3月11日午後に東北地方を中心に起こった「東北関東大震災」で、日本はこれまで経験したことのない規模の地震とそれに伴う大津波で、多大なる被害を受けました。亡くなった方のご冥福をお祈りし、被災された方々には、お見舞い申し上げます。

北海道在住の私は、その時11階建ての建物の5階におりました。突然始まった大きな横揺れはなかなか収まる気配もなく、途中で船酔いのような気持ち悪さも加わり、ただひたすら揺れの収まるのを待っていました。これまでもいくつも地震は経験してきましたが、「今までとは違う」と直感し、スイッチを入れたテレビには、そのうちに信じられない映像が次々に流れてきました。

東北に住む両親に連絡がついたのは、その日の夜。二人とも無事であることを確認しましたが、ライフラインがすべて止まってしまい、ラジオの情報しか得られないとのことでした。とりあえず食糧や水、灯油などがあることを確認し、余震に気をつけるようにだけ伝えました。その後も連絡は取れにくい状態が続きましたが、今回気をつけたことは、「今両親に必要な情報は何か」ということでした。次々に報道される岩手や宮城の状況は、その時点で連絡の取れていなかった岩手在住の親類のことを思うと、伝えるべき情報ではないと思ったからです。

「必要な情報」の問題は、その後さらに福島第一原子力発電所の災害でも、大きな課題を私たちに突き付けていると思います。トラブル発生直後から、政府は枝野幸男官房長官が連日情報を流しています。東京電力も同じです。しかしそれには、一般の人々には聞きなれない単位(ベクレル、シーベルトなど)や専門用語が次々に登場し、測定数値、安全基準値との比率などがほとんどです。研究者や専門家は、これらのデータで現状がどうなっているかと今後の展開を検討することは可能かもしれません。しかし、ごく一般の人々にとっては、どうでしょう。ただただ中途半端な情報に振り回されて疲れ切ってしまっている人々に対して、さらに無用に不安をあおっているだけだと歯がゆい思いをしています。

数年前に「原子力発電所の安全規制の最適化」というシンポジウムに参加したことがあります。原子力安全委員会、原子力安全・保安院、東京電力、そして大学の研究者が「安全規制」という視点での発表をしていました。日本の原発に対する安全規制は、これまで事故が起きるたびに厳しくなり複雑化していました。その現状を整理し、行政側が監査重点型に移行することを念頭に置いた、保全プログラムの最適化を目指す、という発表もありました。専門外の私には、これは「最適化」というよりは「簡略化」のように見えました。しかもトラブルは、設備や人為的なミスだけではなく、今回のような外からのダメージもあります。その場合の責任の所在は、ここでは分かりませんでした。

また、「原子力発電の安全規制の顧客は国民であり、顧客重視の原則を忘れてはいけない」という発言がありました。本当に顧客である国民重視というのであれば、今回のような事態で流すべき情報は変わってくると思います。日々流される情報が、市民が本当に必要としている情報とかけ離れているために、不信感とイライラが募るのです。またマスメディアで、ミネラルウオーターの棚が空っぽになっている店頭をいくつも取材している報道など、ただただ混乱を助長させるだけです。

今必要なのは、原子力安全委員会のように政府にアドバイスする立場にある人々や研究者などの専門家、そして事態をきちんと把握し市民の目線で対処できる人材の連携と情報の共有、そして必要な情報をより多くの人々に効率よく公開する手段だと感じています。

 

ページトップへ