レポート

研究開発戦略ローンチアウトー第71回「超スマート社会のデザインに向けて」

2016.03.29

山田直史 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター システム・情報科学技術ユニット

情報科学技術の進展と社会への普及拡大

 情報科学技術の進展は目覚ましく、その高度化と社会への普及はいっそう進んでいる。データ処理技術や通信技術の進展とともに、ネットワークに接続される機器は増大し、その数は2020年には500 億端末に上るといわれている。これに伴い、IoTやビッグデータといった技術やクラウド環境の整備が進んでいる。こうした変化は、産業構造の変化を引き起こし、あるいは個人の生活や社会の在り方にも影響を与えはじめている。

 ビジネスの場においては、これまでは、モノ自体に付随して価値が提供されてきたが、モノ(スマートフォン、電子機器、自動車等)を通じたサービスによって価値が提供されるようになってきた。モノに付随する機能の提供に主眼を置き、モノ(ハードウェア)の機能をソフトウェアによって構成するソフトウェア定義技術に基づいたサービスの展開が進んでいる。

 また、生活の場に目を向けると、スマートフォンやパソコンを通じてインターネットに接続する人口は、2025年には55億人に達するとされ、その多くがSNSを利用すると見られている。これにより、コミュニケーションの基盤が物理的世界からサイバー空間へとさらに拡大していくと考えられる。

第5期科学技術基本計画における超スマート社会

 こうした状況の中、政府は、2016年1月22日、科学技術基本法に基づき第5期科学技術基本計画(以下基本計画)を閣議決定した。政府は2016年度から5年間、この基本計画を基本指針としつつ、科学技術イノベーションの実現に向けた施策を展開することとなる。

 基本計画では、「超スマート社会」が一つのキーワードとして取り上げられ、その実現を目標として掲げている。ここで超スマート社会は、以下のように定義されている。

超スマート社会とは、「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々
なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、
性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことので
きる社会」である。

 このような社会では、多様なニーズにきめ細かに応えるサービスの提供や、誰もがサービス提供者になれる環境の整備等の実現が期待される。また、エネルギー、交通、製造等、個々のシステムだけでなく、組織のマネジメント機能や労働力提供及びアイデア創出といった作業の価値が組み合わされ、さらなる価値の創出が期待できる。

 こうした超スマート社会の実現に必要となる取り組みとして、基本計画では、さまざまなサービスに活用できる共通のプラットフォームを構築していくことが掲げられ、その構築に必要な基盤技術として、ビッグデータ解析技術や、AI技術に加えて、「ハードウェアとソフトウェアのコンポーネント化」等が挙げられている。

CRDS「REALITY2.0」のコンセプト

 一方、CRDS(科学技術振興機構 研究開発戦略センター)では、基本計画の検討に合わせた超スマート社会の一つの像として、物理社会とサイバー空間との融合・一体化が進んだ社会「REALITY2.0」※1をコンセプトとして掲げ、内閣府CSTI(Council for Science, Technology and Innovation。総合科学技術・イノベーション会議)等に提案してきた。

※1 CRDS報告書「情報科学技術がもたらす社会変革への展望 -REALITY 2.0の世界のもたらす革新-」

 REALITY2.0の世界では、サイバー空間の機能群だけでなく、社会にあるさまざまな機能がサービスプラットフォーム上にコンポーネント化(ソフトウェア化)され、モジュール(システム要素)として動的に組み合わされることで、一つのサービスとして提供される。既にこうしたサービスは、「Uber」(ウーバー)という配車サービスや、「AirBnB」(エアビーアンドビー)といった宿泊サービスで進みつつある。

 Uberの例では、利用者は、専用のアプリケーションから配車を手配し、目的地まで移動して、決済を済ませる。配車側はUberに登録している運転手であり、こちらもUberのシステムを介して利用者の情報を得て、配車サービスを行う。ここでは、自動車の運転という機能の他、利用者と運転手とのマッチングやクレジットカードによる決済、利用者と運転手の相互の評価システムといった機能が、Uberのプラットフォーム上で組み合わされることで、一つの配車サービスという形で社会に提供されている。

 上記で挙げたサービスは、現在、既に展開されているが、REALITY2.0ではさらに進んだ世界を想定している。配車や宿泊だけでなく、社会のさまざまな"機能"がコンポーネント化され、サイバー空間を通じて提供されることで、それらを組み合わせた新たなサービスの構築が可能となる。

 ここで、コンポーネントの構成を指定するものを、CRDSではソフトウェア定義(Software Defined)技術を核とした「実体定義レンズ」と呼んでいる。実体定義レンズはプログラムの一種であり、サービスの要求者は、実体定義レンズを通じて、必要となる機能を要求する。実体定義レンズは、その要求に応じた機能を持つコンポーネントをサービスプラットフォーム上で検索・発見し、それらを組み合わせることで要求に応じたサービスを構築する。

 また、実体定義レンズは、適用ドメインやサービスに応じて複数作られる。例えば、サービスプラットフォーム上に存在する、ケアプランナー(サービス)、配車サービス、介護機器・センサーといった機能モジュールを、実体定義レンズを通じて組み合わせることで、利用者(被介護者)に合ったヘルスケア・介護サービスを構築、提供できるようになる。

 さらに、これらは多段階に組み合わせることができる。例えばモビリティとヘルスケアサービスを重ね合わせることで、災害時の災害救助や救急治療、被害状況確認、安否確認、避難所への物資手配・管理といったシステムを動的に、特定の地域や期間を限定して構築することが可能となる(下図参照)。

図.REALITY2.0におけるサービスシステムの構築イメージ
図.REALITY2.0におけるサービスシステムの構築イメージ

 こうした世界に向けて必要な具体的な研究開発の一例として、CRDSでは、平成28年3月、戦略プロポーザル「IoTが開く超スマート社会のデザイン -REALITY 2.0-」をまとめた。この中では、サービスプラットフォームの構築とそれを基礎とした先進的サービスの構築に向けて必要となる技術に焦点を絞り提案を行っている。

超スマート社会の実現に向けては、ここで挙げた研究開発以外にも、倫理的、法的、社会的問題(ELSI。Ethical, Legal and Social Issues)等、解決すべき課題が山積している。今後も引き続き、本研究開発戦略について、検討を重ね超スマート社会の実現に貢献していきたいと考えている。

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