レポート

研究開発戦略ローンチアウトー第45回「構造化俯瞰とシステム構築方法論との合体」

2013.05.20

金子健司 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター システム科学ユニットフェロー

 平成8(1996)年度に第1期科学技術基本計画が始まってから現在4期目、18年が過ぎようとしており、合わせて85兆円もの研究開発費が投入されようとしています。はたして、それに見合ったアウトカムが達成されているのか? さまざまな評価指針が一層複雑化し、かえって事務や研究の停滞の一因となっていないか?

 本論では「なぜ国プロがうまく行っているように見えないのか」について構造化俯瞰的手法で考察し、「システム構築方法論」による改善効果を論じます。

 下図は、2010年、研究開発戦略センター(CRDS)が研究開発戦略立案の方法論(10XR25)で提案した構造化俯瞰図で、社会との契約に基づき、社会的期待を満たすことが望まれる“社会の中の科学者”のあるべき姿を示したものです。このループに、それぞれの関係者の本音を入れてみると下のようになるのではないでしょうか(あくまで個人的推測です、念のため)。

構造化俯瞰図

研究者:研究キャリアを全うするため論文を書かないといけない。
行政:新しい技術は、責任問題に発展することを恐れて使えない。
企業:社会実装は、製造・販売部門の責任じゃないの?
(産学連携やマッチングファンドが必須の制度が多いにもかかわらず、プロジェクト参加者は研究開発部門からが多い)

 こうした構造を解決するには、個別課題を全体の中での関係として捉える「システム構築方法論」が重要です(本ローンチアウト第38回「システムを科学する」も参照ください)。

 システム科学ユニットでは、平成23(2011)年3月に、戦略提言「システム構築による重要課題の解決に向けて」(CRDS-FY2010-SP-04)を上梓しました。その中で、個別の社会的課題の解決には、個別の要素研究だけではなく、求められる全体システムを構築する合理的な意思決定手法が重要であることを強調しています。

 さらに、その後の検討で、研究課題の抽出、研究開発構想の立案、評価、研究開発実施、実装など、すべてのフェーズで必須となる関係者相互の合意形成のためには、それぞれ独立して持っていたモデリングやシミュレーションなどを統合可能とするプラットフォームが重要であり、従来、各々の要素研究に多くの経費が割かれていたのに対し、そうしたモデルやシミュレーションと、それらが動作する土台であるプラットフォーム自体の研究および構築に時間と経費を投入すべきだ、という議論がなされました。これを図示すると、下の様になります。

 下図のように、具体的社会課題を計測解析し、仮想空間に、関係者が容易にアクセスでき、モデル化やシミュレーションを実行することができる環境を作ることで、研究を担当する研究者だけでなく、想定されるサービスの受益者を含め、実行者である行政や企業などが合意形成し、社会実装のために必要不可欠な新技術に求められる詳細な仕様を作ることが可能になります。また、企業の製造・販売部門もそうした情報を共有し、目標達成が明確になった時点で、製品化のためのラインを並行して立ち上げることができます。

構造化俯瞰図

 こうしたプラットフォームがあれば、プロジェクト遂行中でも、仕様に達する見込みがなくなったり、開発技術が陳腐化した時点で、即刻、プロジェクトを終了させることで、むだな経費や時間の浪費を防ぐことができます。同時に、不成功の責任の所在も、自ずと明確になるでしょう。さらに、評価者もそうしたシミュレーションを実行することで、実現可能性や社会受容性、費用対効果などを、それぞれの視点で詳細に評価することが可能となります。

 しかし、問題点が2つあります。1つは準備期間、2つ目はこうしたプラットフォームを作る方法論が確立していないことです。

 いわゆる通常の競争的資金は、毎年12-1月の予算成立、2-9月募集、選考、10月研究開発の開始といったスケジュールがほとんどで、プラットフォーム構築の時間がほとんど取れないということになります。

 そのため、
(1) 予算成立前に、ボランタリーな勉強会を組織して、プラットフォームの構造やモデル、シミュレーションの予備的検討を行う。
(2) 予算成立して1年は、プラットフォーム構築の準備期間をとる。
(3) プロジェクトスタートの初年-2年度は、多くの提案を採用し、個別要素技術の可能性を評価しつつ、プラットフォーム構築のためのデータや入出力様式などの技術的課題の解決、多くの人が理解し、実際に試行可能なモデル、シミュレーション技術の開発を同時並行的に進める。
などの方策が考えられます。

 プラットフォームを作る方法論については、一昨年から実施したシステム科学分野の俯瞰活動(CRDS-FY2012-FR-07)によって、それぞれの得意分野で学問的に確立されてきた「意思決定とリスクマネジメント」「モデリング」「制御」「最適化」「ネットワーク論」の5部門の連携が進められています。何らかの個別社会課題が設定されれば、それら5分野が今まで培った、分析、評価、見える化などの技術を統合、一般化することで、システム構築のための方法論を確立し、社会的課題の探索から基礎、応用、企業化、社会実装まで一気通貫したイノベーションシステムを実現することができると考えられます。
* 本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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