レポート

研究開発戦略ローンチアウトー第43回「再生可能エネルギー導入拡大のための研究開発について」

2013.02.20

福田哲也 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 環境・エネルギーユニット フェロー

再生可能エネルギー導入拡大への動き

研究開発戦略センター 環境・エネルギーユニット フェロー 福田 哲也

 2011年3月11の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故により、政府ではエネルギー政策の見直しが進められている。そこでは原子力エネルギーの存廃や再稼働についての議論に焦点が向けられており、国民の関心もそこに集まっている(筆者補足:本稿執筆時点では、政権交代によりそれまでのエネルギー政策見直しの方向性が修正される可能性がある)。

 この議論の一方で、再生可能エネルギー(注1)が注目されている。これは太陽・風・海(波や海流)・地球内部の熱(地熱)といった、自然界から持続的に得られる力を利用して産生・供給されるエネルギー(「自然エネルギー」とも呼ばれる)(注2)である。これらは化石資源のような枯渇性エネルギーと異なり、ほぼ無限に存在する(枯渇しない)エネルギーとも定義される 1)。資源に恵まれないわが国にとってはエネルギー供給上のリスクが少なく(自給できる)、地球温暖化対策にも大きく貢献し(CO2などの温室効果ガス排出が少ない)、また放射能汚染などの安全上のリスクも少ないことから、再生可能エネルギーを増やそうという声が大きくなっている。既に脱原発を選択したドイツやイタリアをはじめ、再生可能エネルギーを拡大する動きは世界共通とも言える。

再生可能エネルギーを拡大するための研究開発とは

 研究開発戦略センター(CRDS)環境・エネルギーユニットでは、2011-12(平成23-24)年度の2年間にわたり、エネルギー分野に重点をおいて分野俯瞰(ふかん)調査を実施している(印刷中、平成24年度末に公表予定 2))。その前提となるのが「社会的な期待」にも相当すると考えられ、エネルギー政策上の基本原則でもある「3E」、すなわち、「エネルギーの安定供給(Energy)、環境保全(Environment)、経済成長(Economy)の同時達成」である(注3)。また原子力政策の方向性が不透明なことを踏まえ、現状で重点的に俯瞰検討する3本柱を設定し、「再生可能エネルギーの最大利用」をその一つに位置付けている(他の2つは「化石資源の高効率利用」、「エネルギー利用効率向上と需給システムの構築」)。

 俯瞰調査では、再生可能エネルギーのこれまでの動向や現状・課題を把握し、さらに今後の方向性を踏まえて必要な研究開発テーマ(技術課題や政策上の課題)を抽出した。その際、いつまでにどれだけの再生可能エネルギーを導入できるか(導入可能量)も検討した(注4)。この導入可能量は、技術動向や政策的・社会的な制約などを考慮しての見込みである。

 詳細な結果は省くが、エネルギーの種別ごとに、導入拡大までのタイムスパンが異なる。主なエネルギーについて述べると、太陽光は短期的(今後10年以内)に導入拡大が期待される。特に、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)などの政策効果もあり(後述)、住宅用を中心に順調に増えていくとみられる(2011年時点の住宅用太陽光の普及率は約3%)。

 これに対し、洋上風力や海洋エネルギー、それに地熱エネルギーは中長期的(2030年まであるいはそれ以降)に拡大するとみられる。周囲を海に囲まれた海洋国であり、かつ火山大国(地熱資源量が世界第3位)であるわが国では、膨大なエネルギーのポテンシャルが見込まれている 3) 4)。しかし実は、海洋エネルギーや地熱エネルギーの一部が新エネルギー法の適用から除外され、約15年もの間政策支援がなく停滞していた(注2)。

 洋上風力や海洋エネルギーについては、英国やデンマーク、ノルウェーをはじめとする欧州が特に研究開発のレベルが高く、産業化まで順調に進んでいる。また、地熱については資源量が最も多い米国やインドネシアに加え、日本よりはるかに少ないアイスランドやニュージーランドでさえも導入が盛んである。

 一方、日本の企業はこれらの分野で国内での産業化が進まないため、海外展開を積極的に進めてきた。興味深いのは、地熱発電設備は日本企業が世界シェアの7割を占めていることである 5)。洋上風力や海洋エネルギーを海洋沖合で実施するにあたっては、「浮体」と呼ばれる構造物の開発が重要になる。これは、日本がもともと得意とする造船技術を応用できる上に、欧州と違い日本特有の厳しい気象や海象への耐久性などが求められる。今後、国内で再生可能エネルギーを拡大する上では、このような企業が持つ技術力は非常に有用であり、さらに大学などの研究者の基礎・応用研究の成果によって日本オリジナルの技術が生まれ、産業力が強化されることが期待される。

政策や社会的制約も重要な課題である

 再生可能エネルギーの導入には技術以外の制約も多く、これらが開発リードタイムの長期化や開発コストの高騰を引き起こす原因にもなりうる。その一つが、わが国の地熱資源のほとんどが国立公園などにあり、地熱開発が規制されていることである。2012(平成24)年3月に環境省によりこの規制の一部が緩和されたが、地熱開発を促進するにはまだまだ障壁が大きい。

 社会的には、海洋利用に伴い多くの利害関係者(漁業関係者、港湾関係者、船舶関係者など)との調整が必要になる。政府の総合海洋政策本部は「海洋再生可能エネルギー利用促進に関する今後の取組方針」(平成24年5月)において、洋上風力や海洋エネルギー開発の促進のために府省連携で取り組むことを決定した。その中には、こうした利害関係者との調整や実証フィールドの整備などの施策が含まれている。洋上風力や海洋エネルギーの研究開発で世界をリードしている英国などでは、基礎研究から実証試験までの道筋ができており、また実証試験のためのプラットフォームも整備されている。わが国でもこのような研究開発体制を実現し、現状の導入量がゼロである海洋エネルギーが拡大することが期待される。

 再生可能エネルギーでは一般に開発コストが高く、技術面も含めて低コスト化が求められている。一方、導入支援策として2012(平成24)年7月より再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が始まった。経済産業省・資源エネルギー庁の発表によると(2012年12月14日)、7月以降の再生可能エネルギー導入量114.3万kWのうち、約96%が太陽光である。買取価格についてはいろいろな意見があると思うが、それはともかくこの制度が需給両者にとってメリットのある制度として続くよう、エビデンスに基づく見直しも必要である。

最後に:研究開発課題としての再生可能エネルギーの優先度(客観的・定量的な評価の試み)

 再生可能エネルギーの必要性ないし重要性については、冒頭で述べたようなことが社会的な期待としてあるわけだが、エネルギー分野の科学技術としての優先度はどうであろうか。前述の3Eだけでなくエネルギー政策との整合性も考慮すべきだし、原子力の安全利用や化石エネルギー、省エネ技術など他の研究開発テーマとの優先順位付けもある。研究開発の優先順位の決定は、その時々においてあらゆる要因を考慮した上で行われる必要があろう。ちなみに、平成24年度補正予算案や25年度予算案が各省から最近公表された(科学技術関係では内閣府・総合科学技術会議より概要説明資料が出ている 6))が、再生可能エネルギー関連の科学技術予算が非常に充実してきたと感じている。

 当ユニットでは現在、エネルギー分野の多様な研究開発課題について優先度を検討するための試みとして、定量的な評価の方法を検討し始めている。まだ試行段階ゆえ評価指標の設定や各指標に対する重み付けの仕方などに改善の余地は十分あるが、これから関係各方面に提案しながら改良を重ねていくところである 7)。

(注1) 再生可能エネルギーの種類は実に様々で、おおよそ大別すると太陽(光、熱)、風力(陸上風力、洋上風力)、地熱(高温熱水、温泉、地中熱)、バイオマス、海洋(海洋温度差、波力、潮流・海流)、水力(大規模水力、中小水力)などの各エネルギーがある 7)。これらはエネルギーとしての利用形態もさまざまで、発電により電力になるもの、熱利用やコジェネ(熱電併給)が可能なものや液体燃料に変換可能なものがある。
(注2) わが国では、政策上は「新エネルギー」と呼ぶこともある。これは、「新エネルギー法」(正式には「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」、1997年成立)に基づき指定される石油代替エネルギー(太陽光、風力、バイオマス、廃棄物など)である。2008年に同法が改正され、再生可能エネルギーのうち中小水力と地熱(比較的低温の熱水をアンモニア水のような沸点の低い媒体に置換して発電するバイナリー方式に限定)については普及のために支援が必要と判断されて追加された。なお、海洋エネルギーについては技術が実用化レベルに達していないことから同法の対象には含まれていない8)。
(注3) ここで記載した日本語訳は、第3期科学技術基本計画で用いられている用語である。この他にもよく用いられるのが、Environmentについては「環境、特に地球温暖化対策への適合性」「環境性」など、Economyについては「経済効率、コスト」「経済性」などである。いずれにしても、それらの意味するところは大きな相違がないと思われる。また、近年では原子力事故を踏まえて「安全性(Safety)」を加え、「3E+S」あるいは「3E+」とも言われるようになった。
(注4) 再生可能エネルギーの導入量を考える上で、電力であれば設備容量(kW、キロワット)や発電電力量(kWh、キロワット時)、それ以外では発熱量(J、ジュール)などが指標として用いられる。ここで注意を要するのは、エネルギーによって発電設備の稼働率(設備利用率ともいう)が異なる 3) ことであり、設備容量だけで導入量を議論するのは危険である。例えば、再生可能エネルギーでは設備容量が大きい太陽光や風力は、日照時間や風速などの気象条件によって出力が変動する(設備利用率はそれぞれ約12%、約20%と言われる)。これに対し、地熱発電は設備容量が少ないが、ほぼ24時間定格出力を維持でき、設備利用率は80%を超える(定期点検などによる運転停止期間を除けば、100%に近い)。

文献
1) IEA、2010、Renewables Information 2010.
2) JST CRDS、研究開発の俯瞰報告書 環境・エネルギー分野 2012年度(印刷中)
3) エネルギー・環境会議 コスト等検証委員会、2011、コスト等検証委員会報告書、平成23年12月
4) NEDO、2010、再生可能エネルギー技術白書、平成22年7月
5) Bertani R.、2012、 Geothermal power generation in the world 2005?2010 update report. Geothermics 41: 1-29.
6) 内閣府・総合科学技術会議ホームページ「科学技術関係予算について」
7) 笠木伸英、2013、「政策オプションの定量的プライオリティセッティングの試み-エネルギー分野の研究開発課題を例として-」、第1回グリーンイノベーション戦略懇談会、(2013年1月22日)配付資料3
8) 経済産業省・資源エネルギー庁、2006、総合資源エネルギー調査会 新エネルギー部会 中間報告、平成18年11月

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