レポート - 研究所レポート -

日本最大のバイオメディカルクラスターをご存知ですか?(№3)

先端医療振興財団 調査役 中島佳子

掲載日:2012年3月1日

本シリーズでは、先ず、「日本最大のバイオクラスターをご存知ですか?(№1)」で、阪神淡路大震災をきっかけとした神戸医療産業都市の生い立ちを、そして、前回、「日本最大のバイオクラスターをご存知ですか?(№2)」では、中核支援機関として設立され、また、最先端医療の基礎から臨床への橋渡し研究の中核研究機関となっている(財)先端医療振興財団についてご紹介しました。

今回の№3では、いよいよ、「神戸医療産業都市」の基礎研究の中核研究機関であり、神戸医療産業都市を支える最大の研究機関である 「理化学研究所」について、簡単にご紹介をしてみたいと思います。


(2) 理化学研究所・神戸研究所

「神戸医療産業都市」における主たる中核研究機関です。

構想着想当時、大学も研究機関も存在していなかった神戸医療産業都市は、その後、この理化学研究所・神戸研究所を中核アカデミアして、研究クラスターとしての形が整えられてきました。現在は、3つのセンターと1つのプログラムで構成されていますが、主たるものは以下の2センターです。このほかには、生命システム研究センター(QBiC)と、HPCI計算科学推進プログラムが、設置されています。

発生・再生科学総合研究センター(CDB)

理研CDBは、2003年3月に完成しました。世界に冠たる発生学、幹細胞(ES細胞など)研究機関として有名で、世界中から当該領域のトップクラスの研究者が集まり、公用語は英語となっています。またCDBでは、毎月、国内外からトップクラスの研究者を演者に招き、最先端の研究についての公開のセミナー、シンポジウムも精力的に開催されています。(2011年8月末の人員は総勢365人で、海外からの研究員は16カ国、35人です)

現在、理研CDBで行われている再生医療研究のうち、「iPS細胞由来網膜色素上皮細胞」の臨床応用に向けた研究は、先端医療振興財団とも共同して進められており、iPS細胞を用いた再生医療の世界初のケースになるのではないかと期待されています。

発生・再生科学総合研究センター


分子イメージング科学研究センター(CMIS)

2006年9月の開設。日本における「分子イメージング研究」の二大拠点の1つです。文部科学省では、放射線医学総合研究所(千葉)を「PET(*)疾患診断研究拠点」として位置づける一方、理研CMIS(神戸)を「創薬候補物質探索拠点」として位置づけています。

理研CMISは、日本さらにはアジアにおける、分子イメージング技術を活用した新しい医薬品研究開発の中心となっています。研究の詳細については上記URLからご参照ください。(2011年8月末の総人員は176人で、海外からの研究員は3カ国、8人です)

なお、理研CMISの周辺には、現在、外資系製薬企業の日本ベーリンガーインゲルハイム(株)、第一三共グループのアスビオファーマ(株)、バイオベンチャーなど、創薬関連の研究所や本社が集積してきています。

分子イメージング科学研究センター



(3) 理化学研究所・計算科学研究機構(AICS)「京」

事業仕分けで一躍全国的に有名になった「京コンピュータ」を擁する機構です。「京」は、2011年6月には、スーパーコンピュータ性能ランキングで世界№1に、2011年11月には、目標の10ペタフロップスを達成し、HPCwire年間賞、HPCチャレンジ賞、ゴードン・ベル賞など、ハイパーフォーマンスコンピュータ(HPC)に関連する世界的な賞を全て受賞するという栄誉に輝きました。

なお、「京コンピュータ」の完成は2012年6月、共用開始は同11月の予定ですので、今年末には、本格稼動していることになります。

理化学研究所・計算科学研究機構(AICS)



(4) 計算科学振興財団(FOCUS)

こちらは、理化学研究所ではありませんが、このFOCUSとAICS「京」は渡り廊下でつながっていることもあり、今回のご紹介に加えておくことにしたいと思います。

FOCUSは、「京コンピュータ」の北隣に、2011年4月に高度計算科学研究支援センターを開設しました。これは、スパコンを利用した研究支援や、産業利用推進をミッションとしています。FOCUSスパコンは、すでに企業向け運用が開始されており、好評です。

計算科学振興財団(FOCUS)



以上、神戸医療産業都市の中核研究機関である理化学研究所を中心に、その概略をご紹介しました。

ところで、理化学研究所・神戸研究所のCDBやCMISが医療産業と密接に関連していることは分かりやすいと思います。しかし、計算科学研究機構が医療産業にどうつながっているのか、なかなか分かりにくい部分もあるのではないでしょうか?

スパコンといえば、飛行機やロケットエンジンの設計、自動車などの流体力学計算、天文学、地球環境予測などへの利用がまず思い浮かびますが、ペタフロップスレベルになると、今までのスパコンではできなかった、生命科学分野における高度計算もできるようになるのだそうです。

このため、「京コンピュータ」および「FOCUSスパコン」を擁する神戸医療産業都市では、スパコンの創薬研究-特に分子動力学研究(*)-への活用の取り組みにも力を注いでおり、本テーマでの種々のセミナーやシンポジウムが、神戸にとどまらず、全国で展開されています。興味がおありの方は、一度、ぜひ、参加されてみてはいかがでしょうか?

  http://www.kobe.riken.jp/stpr1-life/overview/

また、先日、2012年2月16日には、東京大学先端科学技術研究センターが、国内企業や、スウェーデン・ストックホルム大などとの共同研究で、「京」を使った抗がん剤の開発に着手すると発表して、注目を集めています。

  http://www.asahi.com/science/update/0216/TKY201202160568.html

*   分子動力学法(MD法、molecular dynamics method)とは、計算機シミュレーションの一つで、ある分子(例えばタンパク質)の一つ一つの原子について、ニュートンの運動方程式を適用し、時間に対する原子の位置と速度を計算し、それを順次数値的に解くことによって、すべて原子の動きを追跡し、物質の諸性質を知る方法。したがって、膨大な量の計算が必要となることから、高い演算能力を持つ「京」クラスのスパコンが有用となります。
この方法により、実験では得られないような高解像度で、タンパク質の構造やその揺らぎについての情報を得ることができることから、新しい創薬の道を拓くと期待されています。


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