レポート

英国大学事情—2016年2月号「学生への授業体験アンケート調査」<HEPIとHEAによる報告書「The 2015 Student Academic Experience Survey」より>

2016.02.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。

 2015 年6月、Higher Education Policy(HEPI)とHigher Education Academy(HEA)は共同で実施した、2015年度の授業体験に関する学生へのアンケート調査(The 2015 Student Academic Experience Survey)の結果を発表した。この調査には、15,129名のフルタイムの学士課程学生が回答を寄せている。今月号では、その調査結果の一部を抜粋して紹介する。

1. 授業への満足度

* 87%の学生が授業に満足していると回答した一方、12%は期待ほどではなかったとしている。期待ほどではなかった一番の理由は、講師とのコンタクト時間、クラスの規模やフィードバック等の問題ではなく、学生自身が授業に打ち込む努力の欠如であるとしている。

* これは、学生は自分自身を受動的な「顧客」と見ているという一般的見方への重要な反証であり、学生は、授業体験の質は学生自身と大学の両方の努力によることを理解している。

2. 事前情報、コース選択、対費用価値

* かなりの数の学生は、受講開始前に与えられた情報が不明瞭(21%)で、誤解を与える(10%)としている。約3人に1人は、現在の状況を事前に知らされていたら、異なる授業コースを選択していたと回答した。

* 41%の学生が、対費用価値(value for money)は高かったと感じている。当然ながら、授業料が無料のスコットランド地方の学生のわずか6%が対費用価値は低いと回答した。最大で年間9,000ポンド(153万円)の学士課程授業料を払うイングランド地方の学生では、その比率が約6倍の34%であった。

* 75%の学生は、納入した授業料がどのように使用されたか、大学から十分な情報を得ていないと回答した。

3. 学生の学習量とクラスの規模

* 学生は授業、自習や授業コースの一環としての学外学習を含め、週平均30.5時間の学習をしている。

* スタッフとのコンタクト時間は、歴史や哲学の週8時間から、医学・歯学の19時間まで
履修科目ごとに大きく異なる。自習時間についても、マスコミ科目の10時間から歴史・哲学の18時間と科目によって異なっている。

* 教育と学習の質を判断するためには、「クラス規模」は不完全な基準ではあるが、学生は50名以上の大教室にはあまり大きな価値を見出していないことが分かる。

4. 教育と学習

* 教育スタッフに関しては、39%の学生は「スタッフが授業方法の訓練を受けていること」、 44%は「スタッフが教育プロフェッショナルとして、又は産業界での経験があること」が最も重要と回答した。

* 学生にとって、「教育スタッフが、活発な研究活動を行っていること」はあまり重要度が高くなく、54%の学生が3番目と回答した。研究に力を入れる教育スタッフから得られる教育的ベネフィットが、学生にとって明確でないことも一因であると思われる。

5. 学生の幸福度

上記の「ONS」は英国の国家統計局(Office for National Statistics)の略称
上記の「ONS」は英国の国家統計局(Office for National Statistics)の略称

* 一般人口に比べ、学生の幸福度は全般的に低いことが分かる。また、学生の学習量が多いほど、幸福度は高いという結果が出ている。学習量が週10時間以下の学生の43%しか、現在行っていることに価値を見出せないとしているのに対して、週50時間以上の学習時間の学生の78%が価値を見出している。

6. 大学の経費削減策への学生の見方

* 政府の運営費交付金削減に伴う大学の経費節減策について、リストの中から最も好ましい3つのオプションを質問したところ、スポーツやソーシャル施設の経費削減(46%)がトップとなり、次が建物への経費削減(45%)であった。

* 学生は、物理的な施設が、必ずしも学習環境の質への良い指標とは言えないことを認識している。学生が最も嫌う節減策は、学習施設経費の削減(5%)、スタッフとのコンタクト時間の短縮(6%)、スタッフの教育スキル改善支援(8%)であった。

(原文には、ウェールズと北アイルランドのデータも掲載されているが、上記の表には人口が最多のイングランドと授業料の無料制度を維持しているスコットランドの学部学生のみのデータを記載した。上記の「全国平均」は4つの地方の平均値。)
(原文には、ウェールズと北アイルランドのデータも掲載されているが、上記の表には人口が最多のイングランドと授業料の無料制度を維持しているスコットランドの学部学生のみのデータを記載した。上記の「全国平均」は4つの地方の平均値。)

* スコットランドの学生の37%が授業料は全額政府助成とすべきとしているのに対して、イングランドの学生は22%、ウェールズの学生18%、北アイルランドの学生22%であった。
しかし、英国の4地方とも大部分の学生は「学生も授業料を負担すべき」と回答している。

7. 筆者コメント

* この「授業体験アンケート調査」には15,000名以上の学部学生が回答を寄せており、英国の学部学生が授業をどのように感じているのか率直な意見が分かり、興味深く読んだ。

* 「授業に非常に満足している」とした28 %を含め、全体で87%の学生が授業に満足していると回答しているのは、かなりの高水準であると思う。また、「授業が期待以下である」とした理由のトップに、36%の学生が「授業への自分の努力が足りない」と回答しており、学生が現状を冷静に把握し、他人のせいにしていない姿勢は特に印象に残った。

* かなりの数の学生は受講の開始前に与えられた情報が不明瞭(21%)で、誤解を与える(10%)としている。また、約3人に1人は、現在の状況を事前に知らされていたら異なる授業コースを選択していたと回答している。授業料の値上げが続いていることもあり、「顧客」でもある学生に、事前に十分な情報を提供することが、今後ますます重要になってこよう。

* 一般人口に比べて学生の幸福度は全体的に低いことが分かる。また、学生の学習量が多いほど、幸福度は高いとの結果も興味深く感じた。

(参考資料:HEPI/Higher Education Academy 「The 2015 Student Academic Experience Survey」
HEPI/Higher Education Academy「The HEPI-HEA 2015 Student Academic Experience Survey: Summary and recommendations」)

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