レポート - 英国大学事情 -

2015年7月号「高等教育機関における効率性、有効性、費用対効果促進活動」<英国大学協会報告書「Efficiency, effectiveness and value for money」より>

掲載日:2015年7月1日

英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

2015年2月、英国大学協会(Universities UK)は、「Efficiency, effectiveness and value for money※1」と題する報告書を発表した。この報告書は、2011年度に英国大学協会のEfficiency Task Groupによる調査報告書を基に、最新の調査資料等を加筆したもので、原文は80ページを超える。当報告書は、英国の大学は英国経済や社会に大きな貢献をしていると共に、運営の効率性や有効性を常に追求している実態を社会に訴える役割も担っている。今月号の英国大学事情では、この英国大学協会報告書のサマリーを紹介する。

※1 http://www.universitiesuk.ac.uk/highereducation/Documents/2015/EfficiencyEffectivenessValueForMoney.pdf

1.英国高等教育分野の実績

*英国の高等教育機関は英国経済に非常に大きな貢献をしている。

  • 英国経済に少なくとも年間730億ポンド(13兆8,700億円※2)以上の貢献
  • 年間100億ポンド(1兆9,000億円)以上の輸出貢献
  • 英国全土に70万名以上の雇用に貢献
  • 大学の直接雇用者100名あたり、117名の間接雇用を創出
    (2011年度において、大学の直接雇用者は約38万名で英国の全雇用者数の1%強)

英国高等教育分野の経済的、社会的インパクトは、研究やイノベーションの卓越性と多様性、産業界のニーズへの対応、質の高い高等教育への世界的評価等、ワールド・クラスの教育の提供等によっても明白である。

*高等教育分野は効率性を追求しており、ほぼ過去10年間にわたり継続的に効率の改善を達成してきた。

高等教育分野は、政府の包括的歳出見直し(Comprehensive Spending Review※3)によって定められた効率性の目標値を継続的にクリアしてきた実績を持つ。直近では、12億3,000万ポンド(2,337億円)の効率性の改善目標値に対して、過去3年間で13億8,000万ポンド(2,622億円)の経費削減を達成している。

*効率性や対費用効果の追求への原動力は、単に政府の緊縮財政のためだけではない。

英国の大学は、多様な学生コミュニティーのニーズに応えるため、より競争的環境に置かれている。公的助成が減少する中であっても施設への投資が必要不可欠であると共に、学習者のニーズに応えるためにワールド・クラスの教員の提供や卓越した研究成果の創出も必要である。そのため、今後も費用効果を高めていくために、大学には一層の努力が求められている。

※2 1ポンドを190円にて換算
※3 英国では、各省庁の予算は単年ごとではなく、3年ごとの「包括的歳出見直し」によって、次の3年間の予算が決定される。

2.賃金と報酬

*世界を主導する高等教育システムは、世界で主導的なアカデミック・スタッフの採用とその雇用の維持に依存する。

アカデミックス職は、国際的な転職が最も激しい職種の一つである。世界的に主導的立場にいる教育や研究のスタッフは、より良い条件の機会が訪れた場合には、国境を越えて、他の高等教育機関や民間企業に転職することがよくある。そのため、英国の大学の賃金や報酬パッケージは市場の力に晒されており、継続的卓越性の維持のためには、市場の水準と十分に対抗できるレベルでなければならない。

*英国の大学は、賃金コストのコントロールを維持してきた。

2004年から2009年にかけた賃金の上昇は、1997年の「Dearing Report※4」や1999年の「Bett Report」でも指摘された高等教育分野の低賃金レベルに対処するためであった。しかしながら、2009年以降、高等教育分野も緊縮財政の影響を受け、賃金水準はインフレ率以下に抑えられてきた。高等教育分野の人件費の総額は、高等教育機関の総収入に比べて減少してきており、現在では総収入に対する人件費の比率は55.2%である。また、2009年以降、高等教育分野のプロフェッショナルの賃金の上昇率は5.5%であり、その他の公的機関分野の6.8% 、民間部門の6.6%に比べて低い水準である。

*自動的な昇給制度は、まだ高等教育分野全般には行きわたっていない。

最近のデータによると、実績に連動した賃金制度が適用されているスタッフは36%である。50の高等教育機関は「Performance for All※5」プロジェクトに参加しており、それらの大部分はスタッフの貢献度に連動した報酬制度を導入している。

※4 http://www.educationengland.org.uk/documents/dearing1997/dearing1997.html
※5 http://www.performanceforall.org/

3.高等教育機関の建物

*過去10年間に、高等教育機関の建物等の不動産に多額の公的資金が投資されたが、その投資のリターンは大きいものがあった。

過去10年間で、高等教育機関のインフラの質、状態および持続可能性が全般的に改善されたと言えよう。建物の状態を示すランクにおいて、トップ2のランクに入る建物の比率は19%アップして78%となり、機能的適応性において「非常に優れている」または「良好」と評価された建物は22%増えて85%に達している。

*高等教育機関における建物の活用傾向は、高い効率性を示している。

  • フルタイムの学生1名あたりの居住区域以外の総スペースは8%以上の減少
  • フルタイムの学生1名あたりの教育スペースは17%の減少
  • フルタイムのアカデミック・スタッフ1名あたりのアカデミック・オフィス・スペースは0.5%の減少
  • フルタイムのサポート・スタッフ1名あたりの、サポート・オフィス・スペースは11%の減少

AUDE※6と英国大学協会が共同で実施した分析調査によると、過去10年間で高等教育機関におけるスペースの効率的利用によって、8億8,600万ポンド(1,683億円)の経費削減ができた。

*高等教育機関の建物の規模に関連した総収入は、過去10年間で大幅に増加した。

過去10年間で、学生およびスタッフ1名あたりの収入は、インフレ調整後で21%増加したのに対して、1平米あたりの収入は同期間で34%増えている。これは、過去10年間において、スペースがより効率的に活用されたことを示す。

*エステート・マネージメント・チームのエネルギー効率改善努力によって、高等教育分野のカーボン・フットプリントが削減された。

高等教育分野におけるエネルギー効率とスペース活用の改善がなされなかった場合、更に約12億キログラムの二酸化炭素が排出された可能性がある。

※6 http://www.aude.ac.uk/home/

4.研究拠点の効率性と持続性

*科学と研究は英国経済に重要であり、成長を支えるための継続的支援が必要である。

緊縮財政による各省庁の予算削減の中、科学への予算は2015年末までインフレ率調整前の名目ベースで削減しないというのが政府方針であるが、インフレ率調整後の実質ベースでは約6億ポンド(1,140億円)の削減となる。しかしながら、研究助成メカニズムを通じた効率性の改善によって、この削減の一部分は緩和されている。

*研究コミュニティーは、総額4億2,800万ポンド(813億円)の経費節減目標の達成に近づいている。

高等教育分野は、2013年度までの2億5,100万ポンド(477億円)の政府による経費節減目標に対して、累計で2億8,300万ポンド(538億円)の節減を達成している。また、高等教育機関はリサーチ・カウンシルからの助成金の利用に関して、累計で1億8,700万ポンド(355億円)の節減目標に対して1億9,400 万ポンド(369億円)の節減を達成した。高等教育機関には、更に2014年度にも効率化による1億3,300万ポンド(253億円)の節減目標が課せられている。

*2010年の「Wakeham Review※7」の提言により活発化した研究活動への効率化政策は、リサーチ・カウンシルの助成による研究への平均的間接経費の比率削減をもたらした。

しかしながら、これは高等教育機関にとっては、研究経費総額に対して以前より低い比率の経費を助成元から回収することになり、長期的な研究の持続性にはネガティブなインパクトを与えよう。

※7 http://www.rcuk.ac.uk/RCUK-prod/assets/documents/reviews/fec/fECReviewReport.pdf

5.資産の共有

*高等教育分野全体を通して、共同活動や連携活動への高まりが起きている。

高等教育機関にて使用する機器類は高額になってきており、財政的にもそれに対応するため、各高等教育機関内または複数の高等教育機関の間の、より画期的なアプローチが採られている。この傾向は、「Wakeham Review」の提言による経費削減の必要性に刺激された面もあると共に、直近では政府の「科学・イノベーション戦略」の提言によって再びこの傾向が強まっている。

*良く運営された戦略的な資産の共有への取り組みは、効率性の向上のみならず、幅広い利益をもたらす可能性がある。

資産の共有(sharing of assets)は、個々のチームでは購入できない高価な高規格の機器にアクセスできるという点で、科学研究にとってメリットがあろう。その上、資産の共有によって異なる研究領域の研究者が集まる機会が生まれ、新たな学際的研究の促進の他、学生、研究者及びテクニシャンの訓練の向上に役立つ可能性もある。

*共有活動を「特効薬」と見ないことが重要であり、大きな障壁も残っている。

効果的な共有メカニズムを構築するには、運営効率の達成前に取引契約等の多額の経費がかかるため、現在では非常に高額な機器の共有にのみ有益であろう。又、消耗品、メインテナンス、旅費、技術サポート等への支出など、運営経費の増加も考えられる。

6. データからの価値の創造

*高等教育分野の全般にわたり、データは高等教育機関の運営や公的な説明責任をサポートする不可欠な役割を果たしている。

これに関して高等教育機関は、高等教育に関するデータの収集や普及を目的とした共有サービス機関である高等教育統計エージェンシー(Higher Education Statistics Agency)の支援を受けている。

*オープン・データは、大きな経費節減の可能性を見出したり、政策立案者に戦略的課題を喚起するなど、すでに公的分野や公的政策に大きなインパクトを与えている。

高等教育分野には、データの収集と普及の共有活動へのコミットメントが既に広く受け入れられている。しかしながら、第3者または高等教育分野の公的エージェンシーが持つ、高等教育分野から生み出されたデータをよりオープンにすべきかどうかを考える必要があろう。

*アカデミック・コミュニティー、研究助成機関、高等教育関連機関および政府は、オープン・リサーチ・データに向けて進んでいる。

研究データのオープン化には克服すべき、いくつもの大きな障壁があるが、高等教育分野はこれらの問題への対応を主導している。

7. 共有サービス、インフラおよび調達

*2012年に導入された、共有サービス・グループ(cost sharing group)によるサービスへの付加価値税の免税措置が、いくつもの新たな経費共有グループの立ち上げに寄与した。

英国の高等教育分野には、英国において最大の経費共有グループであるJisc※8が存在する。多くの経費共有グループが、政府系エージェンシーから様々な支援を受けて立ち上げられた。(筆者注:経費共有グループは、高等教育機関から独立した別組織として設立されるために、初期の段階には、同グループが各高等教育機関に提供するサービスに付加価値税がかかっていたが、2012年からは原価で提供する限り付加価値税が免除されるようになった。)

*高等教育機関がベストの技術にアクセスできるようにして、経費削減を支援する共有インフラ活動のいくつかの重要な事例がある。

英国の全国的な研究・教育ネットワークであるJanet※9は、英国の各高等教育機関の間、または海外の高等教育機関との連携を支援する重要なインフラである。Janetは世界でも最もパワフルなアカデミック・ネットワークの一つであり、英国内で最速のネットワークの一つでもある。

*2011年以来、調達の改善に関して評価できる進展があった。

Procurement Maturity Assessment※10」と題する、高等教育分野の調達活動に対する評価が実施され、90以上の高等教育機関が参加した。この評価によって、評価項目別のベスト・プラクティス事例と、参加機関の調達活動パフォーマンスが改善されている傾向が浮き彫りになった。

*HEFCEによる「The Annual Efficiency Measurement Model※11」調査によると、高等教育分野における調達の効率化は2013年度において1億5,300万ポンド(291億円)の節減をもたらした。

これは2011年度の1億3,200万ポンド(251億円)に比べ、2年間で16%の向上である。当調査を通じた分析によると、2013年度におけるイングランド地方の高等教育機関の人件費以外の支出の内、25.7%は共同調達を通じたものと推定される。また、2010年度には約10億ポンド(1,900億円)であった共同調達額は、2013年度には約16億ポンド(3,040億円)に拡大していることも判明した。

*高等教育機関が経費、効率および持続可能性のパフォーマンスをモニターするための複数の支援メカニズムがある。

高等教育機関が、自発的に費用対効果(value for money)に関する報告書を作成して学内の運営プロセスの一環として活用しているほか、その報告書の多くはファンディング・カウンシルにも提出されている。これらの報告書は、各高等教育機関の節減活動の規模と範囲に関する重要なエビデンスの提供ともなっている。現在、HEFCEが高等教育機関の諸活動の経費を測定するために活用しているTransparent Approach to Costing※12(TRAC)メカニズムが、経費と持続可能性の評価に対する高等教育分野の共有フレームワークを提供する一方、各高等教育機関の理事会等は、各高等教育機関の持続可能性への監督という重要な役割も担っている。

*高等教育分野の効率化と費用対効果のベスト・プラクティスを共有するための高等教育分野独自のデジタル・ネットワークとして、「The Efficiency Exchange※13」が設立された。

多くの高等教育機関が当デジタル・ネットワークに参加しており、The Efficiency Exchangeが発行する定期的なニュース、アップデート、リーダーシップ・ブログ、グッド・プラクティスの事例記事等を通じて、実用的ガイダンスを求めている高等教育分野のプロフェッショナルの役に立っている。

(筆者注:2010年、英国大学協会内に「The Efficiency and Modernisation Task Group」プロジェクトが発足した。当プロジェクトの重要性は、2011年の「高等教育白書」でも言及された。同タスク・グループによる調査結果および諸提案は2011年に、Diamond教授の名前が付けられた通称「ダイアモンド・レビュー」としてまとめられ、デジタル・ネットワークによる効率化の推進ハブとして、「The Efficiency Exchange」の設立構想が提言された。その結果、英国大学協会とJiscは共同で、HEFCEとLeadership Foundationとのパートナーシップのもと、「The Efficiency Exchange」を設置した。)

※8 http://www.jisc.ac.uk/ 英国の高等教育機関や研究機関にIT関連サービスを提供する非営利の共有サービス機関。旧名は「Joint Information System Committee」
※9 https://www.ja.net/
※10 http://www.supc.ac.uk/enhance/procurement-maturity-assessments
※11 http://www.hefce.ac.uk/pubs/year/2014/CL,242014/
※12 https://www.admin.ox.ac.uk/finance/accounting/trac/
※13 http://www.efficiencyexchange.ac.uk/

8. 筆者コメント

  • 英国の大学では、リーマン・ショック以降の政府の緊縮財政の理由以外に、自発的に諸活動への効率化への各種取り組みを活発化している。これは、公的運営費交付金を得ている以上、当然ながら運営の効率化と透明性が求められるからである。
  • 上記に紹介したように、英国では個々の大学が財政的、マンパワー的にできない事を、いくつかの大学が共同で実施する「共有活動」が活発である。例えば、イングランド南部地域の大学による共同調達コンソーシアムである「Southern Universities Purchasing Consortium※14」は、英国に6つある大学共同調達コンソーシアムの一つとして1974年に設立された。現在ではイングランド南部地域の54の高等教育機関と50以上の継続教育カレッジが参加する、英国の高等教育機関の共同調達組織としては最大規模に成長している。
  • 共同調達に関しては、日本のある国立大学が近隣の大学に呼びかけて、英国のように共同購入コンソーシアムを構築しようと試みたことがあったが、コンソーシアムの中心となる中核大学に将来的に吸収されてしまうのではないかとの懸念が周辺の大学に生まれ、計画が進まなかったと聞いたことがある。英国では、そのような懸念は起こらず、経費が削減できるのであれば、積極的に連携を組み実利を得るという考えが強い。
  • この他、高等教育分野の効率化と費用対効果に関するベスト・プラクティスを共有するための高等教育分野のデジタル・ネットワークとして、「The Efficiency Exchange 」が設立されたことは非常に興味深い。
  • 英国では、ベスト・プラクティスの共有が盛んに叫ばれており、それらを共有することによって、英国の高等教育分野の全体の質を高め、効率化を図り、国際競争力を強めようという意欲を強く感じる。
  • 筆者は、大学間の「競争と連携」が重要とかねがね感じ、日本の国立大学等における講演やレクチャーでも何度も強調してきたが、昨年、オックスフォード大学で行われたある会合にて、同大学のハミルトン総長が会議の最後に、大学間の「競争と連携」のバランスをとることが重要であると発言したことを聞き、自分の考え方に意を強くしたことがあった。

※14 http://supc.ac.uk/

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